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恐竜絶滅の話と『宇宙兄弟「完璧なリーダー」はもういらない』

僕は、この本が生まれる瞬間に立ち会いました。著者の長尾さんがコルクでやったチームビルディングのワークショップに僕も参加していたからです。そのときに長尾さんが話していた『宇宙兄弟』の主人公、南波六太のリーダーシップのあり方がとても魅力的だったので、この本ができるのを楽しみにまっていました。

僕は『宇宙兄弟』でムッタのことを読んでいると、いつも思い出すのは「恐竜の絶滅」の隕石の話です。今では簡単に言われる恐竜の絶滅の原因の隕石の話ですが、何人もの学者が関わり、偶然が幸運をよび、やっとのことで実証されたのです。長い話ですが、できるだけ簡単に説明します。

ヤン・スミットという古生物学者が恐竜が絶滅した6600万年前の白亜紀と第三期の地層の境界(KT境界)に有孔虫が全くいないことに気が付きます。次に地質学者のウォルター・アルバレスが恐竜が絶滅して哺乳類の時代になったことのヒントをKT境界から見つけるため、オヤジのルイス・アルバレスに相談します。

オヤジは原子核物理学者で、なんとノーベル賞を取った科学者です。物理学者の視点で、ピラミッドの内部を宇宙線で調査することを考えたりしたアイデアマンです。オヤジはKT境界の地層を調査して、イリジウムが通常の地層の30倍も含まれていることを発見します。

イリジウムは宇宙から定量降り注いでいる物質ですから、30倍になるには、「超新星爆発」または「隕石の衝突」があったことが想定されます。ただ、「超新星爆発」の証拠であるプルトニウムが発見されなかったことから、ルイスとウォルターのアルバレス親子は、「隕石の衝突によって恐竜が絶滅した」というアルバレス仮説を発表します。

世界中から発見されるKT境界のイリジウムの量から、隕石の大きさは直径10kmと想定され、クレーターは直径200kmになるという仮説ですが、弱点は実際のクレーターが発見されていなかったことです。

ここで若いカルガリー大学の大学院生のアラン・ヒルデブランドが登場します。彼はテキサスで、通常1cmのKT境界が1mにもなっていることを発見します。それは津波の跡でした。ということは、隕石の衝突があり、クレーターがあるのはメキシコ湾かカリブ海だろうと考えました。

最後に登場するのが、メキシコの石油会社、PEMEXで資源探査の仕事をしていたグレン・ペンフィールドです。航空機から磁気センサーを使って資源探査をしていると、メキシコ湾に強力な磁気反応がある地域があり、それをつなげると半円形になることがわかりました。地上にあるクレーターと思われてなかった部分とつなげると、なんと直径180kmです。

この結果がヒューストン・クロニクルという地方紙に1981年に1回だけ掲載されました。これをヒルデブランドが1990年に発見し、ペンフィールドに連絡したことで、クレーターが発見され、やっと「アルバレス仮説」が実証されたのです。

オヤジではない、ウォルター・アルバレスのことを見てください。彼はオヤジといっしょに仮説を提示しただけです。それが「おもしろそう」だから、世界中で優秀で多様な人材が惹きつけられ、「謎」を解いていきました。

今ではウォルターとルイスがいたUCバークレーが「恐竜絶滅」の謎を解きたい人たちのコミュニティになっています。『宇宙兄弟』を読んでいて思い出すのは、こういう「好奇心」がドライブする「動機」、それによってつながっているコミュニティの力、そこに属していることの楽しさについてです。

皆さんは、ムッタのこの話や、

この話を思い出しませんか。もうすっかりオヤジな僕ですが、こういうリーダーになりたいなあって、また強く思いました。そんな気持ちにさせる本です。


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