見出し画像

講演レポート;世界ブランドをつくる、デザイン哲学のDNA @ WASEDA NEO

<講演レポート:世界ブランドをつくる、デザイン哲学のDNA @ WASEDA NEO> *ほぼ完全書き起こし

■ 問題提起・背景(永井氏)
「デザイン経営」宣言が経産省から発表されたが、
・デザイン経営とは何か?
・デザイン経営はどうしたら実践できるのか?
・この会は、研究会メンバー+経営者+デザイナーに話を伺っていくリレー対談企画。

■ Why? デザイン経営?(永井氏)
・人口減少・市場縮小
・モノと情報の供給過多
・顕在ニーズが満たされた成熟社会
・市場社会のボーダレス化
・加速度的な技術革新
・競争環境の変化
・右肩上がりの事業成長が見込みづらい
・競争力の変化:効率化や技術力で勝てない時代

■ デザイン(経営)とは、
企業が将来にわたって継続発展するために、
社会と企業の良い関係を構築するための視座

■ デザインとは、よりよくすること
Better by Design(伝説的コピーライターの秋山晶さんのお言葉だそうです)

デザイナーは特殊な人だと、ビジネスと遠ざけるのではなく
デザインとは社会性・文化性・経済性(3つの円)のバランスを考えて、多様な関係性が最適に調和する点を見つけること。

つまり、デザインの役割とは関係性の構築・最適化すること。この関係性とは、企業・社会、人・人、いろんなところで使える。

■ デザインによる企業の競争力強化の必要性
What?
・ブランド構築に資するデザイン
(Design For Branding)
・イノベーションに資するデザイン
(Design for Innovation)
デザインのビジネスにおける働きとして、この二つがある。

■ ブランド構築に資するデザインとは?
短期的株主価値最大化→サステナブル・社会的価値の構築へのシフト。

企業/資本の論理ではなく、社会価値の構築。

Purpose 企業やブランドの社会的存在意義
自社 > VISION / PURPOSE < 社会(第3者視点)

企業と人の関係を作っていくこと

■ イノベーションに資するデザインとは?
商品やサービス開発の変化
R&D = 技術 > マーケティング=数字 > デザイン =感性 > 理想とする社会
これの限界が来ていて、順番が、逆転してるのではないか?
R&D = 技術 < マーケティング=数字 < デザイン =感性 < 理想とする社会

まず理想とする社会(ビジョン)ありき、
これこそがデザイン経営ではないか?

■ 産業革命4.0による環境変化
Hardware > Electronics > Software > Network >Service
Data / AI
ハードウェアから、ソフトウェアへ、データ・AIその先へ。

・顧客体験の質の向上 (顧客中心の考え方)
ネットビジネスでは顧客体験=ビジネスそのもの
デザインを活用することで企業の競争力であるブランド力とイノベーションを加速する

■ デザイン経営は大企業のものと思われがちだが、
デザイン経営の対象者はすべての人

・経営者
社会への思いを描き、社内外に共有浸透
社会との良い関係を構築継続するための経営判断
事業運営=収益性と社旗性の両立

・社員
企業ビジョンの理解、自分ごと化
デザインのマインドセットを持つ
デザイン思考の方法論の実践

■ デザインが関わる領域とは?

ビジョン策定
ビジョンに基づく企業活動の推進
アウトサイドイン発想の商品サービス開発
人材・育成・評価 
組織運営 、組織文化、 価値観、オフィス空間 働き方

全てに「デザイン(デザイン経営)」が関わってくる
だから、デザイン思考だけを引っ張ってきても、うまくいかない

◾️デザイン哲学のDNA (金井氏)
無印良品の紹介

1980年創業

無印良品の発想(ビジョン):

1)消費社会へのアンチテーゼ
(堤清二氏、セゾングループ会長)
150社を経営 小説も書けば、詩も読めば、映画を作る文化人だった

2)最良の生活者を探求
(田中一光氏 グラフィックデザイナー)*伝説的な人です

人間は欲張りで人の目を気にする動物だと言う考えがあった。当時は消費社会の絶頂。イタリアの高級ブランドを買って、最先端のスニーカー履いてるような親が金持ちの人がいたりして行くような状況で、社会が個人主義になり分断していくと考えた。堤さんが周りのブレーンと雑談をしていく中で、田中一光さんが最良の生活者とは何か?どんな暮らし、人間がどんな振る舞いをすべきか?という話をし始めた。

これは、答えはない問い。

人間の傲慢さについて、問題提起をして、(自分たち)残された人間は自分たちが生きる時代の中で答えを探すしかない。

■ 思想の継承と探求(アドバイザリーボード)

杉本貴志(インテリアデザイナー)
原研哉(グラフィックデザイナー)
深澤直人(プロダクトデザイナー)
須藤玲子(テキスタイルデザイナー)
小池一子(コピーライター)

多様な専門性の、類まれな才能が集まっていた

■ 良い商品、良い環境、良い情報

ウォークマンは音楽と人間を考えて、そこから製品開発が始まると言う、R&Dからではなく、デザインが最初の仕事になった日本最初の事例かもしれない。

無印良品が面白いのは、最良の生活者とは何かを考えて、
商品と、店舗と情報を同軸的にデザインすることで市場を開拓したと言うところ。

デザインが付加価値としてでなく、生活価値の創造自体を担い、経営を含めた企業活動総体として機能し、市場からの「らしい」「らしくない」と言った評価によって、生活者と共同作業を行なっている。

■ 生活の仕方、生活の価値を作る仕事
アパレルだけではなく、いろいろやらなきゃ、ビジョンを達成できない。無印を嫌いな人は嫌い、でも独自の市場を創造した。企業活動の総体をしてデザインが機能しているMUJIっぽいか、MUJIっぽくないかという、客の意見とともに、共創している。だから、よく「無印」というノーブランドがブランドになったと言われるが、実はブランドを利用しようとあまり思っていない。皆さんに育ててもらったという認識をしている。

■ 無印良品の活動=土着化
単なる製品の集まりではなく、暮らしの些細な断片から、地球規模の未来まで見通し、考え抜く、気配りの集合体でありたいと思います。社会で今起きている様々な課題に敏感に呼応し、「良心とクリエイティブ」からそれらを良い方向に解決していくプラットフォームでありたいと思います。

<チャート>
コアバリュー:感じ良い暮らしの提案
課題:未利用資源の活用、絆をつなぐ活動、長く使える、公共のデザイン、無駄をなくすなどを考えている。

■ MUJI OFFICE
仕事場を毎日自分たち掃除している。自分たちで掃除をすると、いろんなことに気づく。その方が自分たちが当事者になる。でも、ずっと何かに気づきつづけるから「完成しない、完成させない」

オフィスが美しくても生産性は上がらない。
もっとよくしよう、改善しようという意識が価値を生み出す。正解ではなくて、問いを考える

真面目なサラリーマン社長は正解を求めてしまう、でも、そうしてしまうと世界のコモディティ化が起きる。

なんでも横並び、それでどうやって生産性が上がるんだ。
どういう社会を自分たちは望むんだ?
どういう生活を自分たちは望むんだ?
MBAもデザインだ、アートだって言ってるけど、
もはや、MBAだけじゃ優位性にならないからだ。
(知識のコモディティ化)

◾️トークセッション(永井氏・金井氏:対談)
永井氏:デザインは人を考えること

最良の生活者を考えるということは、
ずっと人を考えること=まさにデザイン

金井氏:多くのデザイナーが辛いだろうなというのは、自分に信念や思想があっても、部分的に与えられる商品やブランドなどのインプットを元に、何かしらアウトプットしなければならない。そういう時には信条は発揮できない。

でも、原研哉さんなどは、(無印良品にいるから)会社そのものを変えようとする。みんな右に寄ってるから、左に行こうとかっていう議論をする。だから楽しいでしょうね(笑)

永井氏:でも、個性の強いクリエイターたちが議論して、ちゃんとコンセンサスに至るのですか?

金井氏:一人一人のいうことを聞いてもまとまらない、だからみんなでいっしょに議論する。杉本貴志さんは死ぬ前で体がボロボロになっても、定例会議にちゃんと来ていた。耳も聞こえない、発言もできないような状態でも、でもみんな何を言いたいかがわかるんだ。そして、そこで座標軸ができる。その、座標軸を持った上で、コミュニケーションのデザインができて、それぞれのパートに展開されていくような感じだった。

金井氏:2003年ミラノサローネに出たことがあって、短期間しか準備できなかったのだけれど大反響だった。なぜやったかというと、あの時経営は悪かった。それで、商品開発のメンバーが自信をなくしていて、持ち上げるためにミラノサローネをやった。その時杉本貴志さんと議論をレストランでやるんだけど、ほとんどが料理の話。でも少しデザインの話をしたら、みんなビシッとやりましたね。

Question:
Q1: デザイン経営の重要性
永井氏:これまで様々な局面がありながら、デザインを軸とした経営をなぜ守り続けてきたのか?

金井氏:みんなが田中一光さんたちを「先生」と呼んでいた時代があった。送迎は黒塗りのハイヤーで、経営からしたらめんどくさいおじさん、おばさんだと思ってた。クリエイティブな文化も形骸化しちゃうと、上場もしている会社だから資本の論理で動く、そうすると業績が悪くなる。

どうするかと考えたときに、原さん、深澤さんに入ってもらって、(経営とクリエイティブの)交流を深めるようにした、そうしたら良くなっていった。

永井氏:一番変わったのは?

金井氏:(ブランド)コミュニケーションから何から、みんなが一緒になって変えていった。原研哉はブランドロゴからMUJIを取って、無印良品にしてくれと。それが全てを語っているからと言ってきた。そこであえて語らないコミュニケーションに転換した。(広告も)

深澤さんは当時の商品ラインアップを見て、商業主義で汚れた商品群に対して、無印良品は全て削ぎ落としたものだけをポツポツ置いていたのに、売りたいからって、その中にに汚れたものを置いてしまった。だから一旦全てやめて、やり直そうと提案してきた。

永井氏:資本の論理をガードしてくれる存在としてデザイナーがいたということ?

金井氏:そういう視点が生きたということですね。資本の論理を優先しない方が、結果的には資本の論理を生み出す。それは自分が体験してきたこと。でも、どうしても利益の方に目がいっちゃいますよね。それじゃいけない。

Q2 デザインとは何か、デザインは経営の役に立つか?

金井氏:アートというのはどういうことか?
洞窟の壁画だって、真っ暗な中で男たちが自分の心の中を覗いてて、目に見えない、現実世界にないものを想像して描く、、、こういうことができるのは、人間だけ。 「畏」や「願」からアートは湧き上がってくる。そして、デザインはよりよくする。製品も、社会も。だから、間違いなく必要。つまり、企業としてのビジョン、理念、思想が大事で、そこからデザインが生まれてくる。

無印良品に関していえば、堤さんというクリエイター、田中一光さんという二人によって、根幹が作られているところも大きかった。そういう企業の例はない。

この仕組みは、これだけの商品領域を自分たちの店だけで販売をする。商品は「本当に望ましい生活はなんだろう」という問いから生まれているものしかない。

でも、もっとこういう企業が出てきてほしい

永井氏:ご自身はデザイナーですか?経営者ですか?
金井氏:もともと商品開発をやっていて、クリエイターの人たちと話してると建築家やデザイナーのいろんな話が出てくる、でも自分は全然知らなかった。でも、誰でしたっけって言えない空気だった(笑)だから本を読み漁るしかなかった。

永井氏:必ずしも美大で美術やデザインを勉強した人だけじゃないと思いますが・・・

金井氏:でも、せっかく美大があって、未来を想像する力があるんだから、B/Sはせめて読めるくらいに教育してくれないかなと思いますね。

Q3 デザイン経営についてどう思われますか?

確かに、他にあまり言葉がないですね。でもデータをもとに組み立てるというのは誰もが同じような正解にたどり着く。でも、それが説明しやすいという側面もありますよね、それはわかります。でも、こうしたいんだ、こういう社会にしたいんだっていうのが経営にないとダメ。

だから、経産省の人がこういうことをするのは良いけれど、むしろ政治家に言わせろよと思いますね。日本の政治家が年金をデザインしましょうよとか言わないよね?

フィンランドで仕事してますけど、政治家たちが自分の仕事もやって、政治もやってますが。政治家も役人もみんなデザインという言葉を日常的に使っていて、この街をどうデザインしようとか市民もそういう話をしている。

Q4: デザインを軸とした経営を守り続けるために工夫してきたことは?

土着化の話をした時に触れたように、地域の空き家を直すようなプロジェクトを無償でやっているのですが、無印良品には「役に立とう」というのが大戦略としてあるんだけど、地域の課題に一緒になって取り組もうとなると、デザインというスキルが必要になってくる。非デザイナーの人もキーワードとしてデザインという言葉を使う。こういうので鍛えられていると思う。

この「役に立つ」という考え方が大戦略として浸透しているからなのか。うちの社員に「社員ですか?」と聞くと、「いえ、人間です」って答えるんです。宗教を聞かれても、性別を聞かれても、「人間です」って答えるんです。いい会社だと思いません?

そういう意味でいうと、シャツとブラウスは右前・左前が違うけど、本当は一緒でいいですよね?そうした方が、ウチの売り場の生産性もよくなる(笑)

なんで左右逆なんだろうと遡ると、ベルサイユ宮殿に住んでいた女性たちは、自分で服を着ない、だから着せる人がやりやすいようにした、男性は戦争で自分でやるから、自分でやった。そこから来ているんだそうです。

でも、「いつまで人間はそれを続けてるんだ」ってなる。そういう思考をしていると、当たり前に思ってることがとんでもないデザインだったりに気づくことがある。(こういう思考がデザインに大事)

永井氏:社内で一番使われる言葉は?

金井氏:「役に立つ」あとは、「みんな、もれなく、死ぬよね」「会社だって潰れるようにできてる」人生の暇つぶしには仕事が一番いい。どうせ暇つぶしが仕事だったら、役に立った方がいい、それを面白がった方がいい。「幸せってなんだろう?」って、水前寺清子は歩いてこないから、歩いて行こうと言った。明石家さんまは「なんだっけ、なんだっけ」と答えを出さなかった(笑)私の答えは「誰の役に立っているという実感」。一人ひとりがその実感を持てることが理想。

Q5 実際にどういうプロセスと判断基準で事業を行なっているのか?商品開発、販売チャネル、店舗を超えた取り組みなど、デザインの感覚的な部分をどう判断するのか?

金井氏:右って言われると、左って言うようにしている。
社内で一生懸命に生活者のより良い生活に向けて製品を作ってる気でいるけれど、無印良品から世間に向けて考えてしまうから、世間から見たらどうなんだと言う視点が大事。
開発ミーティングでは誰かが右といったら、他の誰かが左と言わなければいけないルールを決めてる。それはジョブズもやっていた、無は無にあらず、ゆえにこれ無なり。死は死でなく、だから死だって言う、置き換え。仏教だよね。だから、天動説的に自分の製品からものを考えると、みんな喜んでくれうんじゃないかと思ってしまうけれど、地動説的に見るとどこが面白いの?と言う目がある、企業視点だけではダメ。客観性が必要。自分がどうだではなく、逆の視点から見た時に、自分が正しい形で現れてくるような考え方。

雑談はすごく大事。雑談から生まれると言うことは大事。うちは、みんながいろんなところで雑談をするし。壊れた百貨店やスーパーを直すという仕事を無料でやる。そうすると、無印良品だけじゃなくて、館全体がどうなるを考えるようになる。社員全員が当事者になる。そこにいる人たちの不満を聞いて、一緒になってペンキを塗る。そう言う風にして、当事者になれば、この街をこんな風にしません?と言う提案ができるようになる(周りも聞いてくれる)自分の会社のことだけを考えるのではないということが大事。(人間中心)

Q6 : 広義の意味でのデザインを社内にどう取り込んでいるのか?
組織設計、人材育成など、いろんな社会の出来事について、人間としてどう思うか?と言うことを議論する。

例えば戦後、価値観や考え方は180度変わった。アメリカナイズされながら、民主主義になって、産業構造も変わって、労働力が都市に集まってきて、街ができる。自営業だった人が、サラリーマンになっていく。核家族化が起きる。伝統的なコミュニティは崩壊していく。今日は青年団の会議があるから帰りますなんて人はいなくなった。そういう従来のコミュニティの繋がりは薄くなった。

でも一方で今、少子高齢化で一人暮らしが増えている。結婚しない人もいるし、シングルマザーもいるし。将来を考えると不安な人たちがいる。もう一度コミュニティを作らなきゃいけない。

地方に行ったって、自営業の人もいない。みんな企業に来てしまった、じゃあ企業がやるしかない。そう言う議論を始めていて、87日休みがあるので、それ以外は出勤していてそのち週一回は地域の仕事をやりましょうと。そうすると生産性を2割あげなきゃいけない(笑)。

でも自分たちで実際コメ作ったり野菜作ったりしていると半分出荷できない。そう言うところに行って汗流して、田んぼの草取りやったりすると辛いけど、こう言うことを週一回でもやったほうが、いかに仕事が楽かがわかる。

こういうことを企業が取り組むことではないかと議論をふっかけ始めている。これは企業がコミュニティに関わると言うのもそうだけど、普段と違う頭の働かせ方をするのもの大事で、それもフィードバックされていく。

地方のショッピングセンターや空き家を直すと言うのも、本業じゃなく業務外業務で、これがみんなを鍛えている。

雑談も目的がないとただの雑談になるが、目的があれば何か世の中を良くしようと考えるきっかけにだってなる。普段の生活の中でも問題意識があれば、生きてることすべてがデザイン活動になる。でもそれがない人たちが雑談してても、何も生まれない。

アイデアは情報の組み合わせ、編集なんですよね。
イタリアで「H」にという言葉を受けて、北京で「2」を見つけて、東京で「O」があったとして、これを繋げて「H2O」にできるかはその人にそういうフィルターがあるかどうかで変わる。そういう感度もそうですし、ベースには世の中に対して、こうなったほうがいいんじゃないか、こうした方が面白いみたいな、いわば信条ですね。それがあるかないか。

堤さんは権威に対してアンチテーゼを持っていたお父さんに対してかもしれないけど、そういう問題意識みたいなところを何に対して持っているか、無印の反体制っていうのは、堤さんの心の奥底にあったものだと思う。

Q7:ブランディングとイノベーションにおいてそれぞれデザインはどう活用されているか?

イノベーションと言われますが、これは堤さんの話だけど、いろんな百貨店ではやらないことをやってきた。これだけのイノベーションをやれたのはどうしてと聞かれても、イノベーションなんて起こしていない、困って困って、いつ潰されるかという恐怖の中でやるしかなかったといってた。
本気で困ったとか、悲しいとか、そういうことから生まれることの方が多いと思う。だから企業はうまくいってるときこそがリスクで、そういう時にどう困らせるくらいの難題を投げるかというのは経営者にとって大事だと思う。

さっきもおっしゃっていたように結局会社って何千人も何万人もいる組織で、理屈だけじゃ人は動かない。中期経営計画がこうで、利益をどうしますじゃ人は動かない。言葉にできないような夢物語をぶち上げられるのが経営者。

ユニクロの柳井さんは「服を変え、常識を変え、世界を変える」といってる。それくらいのことを言わないと。できるできないじゃなくて、それが経営の仕事。

Q9 経営者として大切にされているデザインとは?
私の立場からしたら、デザインは「見えないこと」(目立たないこと)。
もともと、世の中にあるものに付加価値をつけて、より良くなりましたよと売ることが押し付けだと思ったんです。でも、そういう押し付けに対して、消費者を守りたいから、堤さんは(要素を足すのではなく)引いていく、だから自由度が増してくる。

家具なんて、どこにデザインがあるかわからない。家具が目立ってどうするんだ、住む人が主役でしょう。だから「見えないこと」が大事。

Q10 デザイナーとの向き合い方、デザイナーに期待すること
デザイナーたちは、デザインという領域においてのアンテナは僕たちよりも高いところに持っている。
そういうところには期待をしたいし、僕たちが想像もできない形とか考え方を出してくれるってこともあります、そういうことに期待しながらボールを投げる。真ん中にボールを投げれたら、ちゃんと真ん中にボールを返してくれる。

Q11 次期経営者の方へのメッセージ
日本ってみんな真面目で、正解をやりたくなる。でも、それよりも、問い続けたり。マーケットに正解を出すより問いを出すくらいの経営が面白いと思う。人々を考えさせるくらいの方がいいと思いますし、これから同質的な競争になってるときに、全部どれも欲しいと生活者が思うことも変だと思う。
だから、自分たちは何なんだっていう、客に合わせるというより、自分たちはこっち生きますという方が儲かると思う、本当に。

成熟市場、過剰共有で、コモディティ化したときに、人は意思を持った商品に惹かれる。

一般的に言われるブランドとは信頼。この会社の製品なら、この値段を出しても、品質がついてくるというのがブランドだったけど、そこにもう一つ大事なのは意味、この会社は何を考えていて、どういう考え方のものとにやってるかという意味、それができると絆が深くなる。それが今とっても大事。意味に共感できるとか、そういうことが理想。これが両立させられるかは難しいけど。

Q&A:
Q: P/ L B/Sが読めないようなデザイナーがビジネスの思考を手にしたとき、どうフィードバックがあるのか?ビジネスの思考を手に入れるためにやってることはありますか?

金井氏:事業においては、役に立った分が利益になってくる。だから、デザイン活動をしながら、B/SやP/Lっていうものをどうデザインできるか。私はB/SやP/Lもデザインだと思う。ただ、美大で教えるのは表現・造形ばかり。それはそれで大事だけど。収益の最適化ということも含めてデザインだと思うし、デザイナーたちにも、そういう視点を与えれば普通に考えられると思う

永井氏:ただ教育という観点で言えば、美大のように一つの表現(という分野)を突き詰めた上で、ビジネスも学ぶ方がいいのか、最初から両立させた方がいいのかは、まだわからない。

金井氏:結局は実践なんですよ。結局は空き家を直すでも、そこに、どういう工事をして、どういうコストをかけて、どういう価値を生むのかがわかったり、クライアントから依頼が来て、どうするのかを考えたり、それもデザイン。今はMBAがデザイン勉強してるんだから、こっちも勉強して勝てよと思いますね。

Q: テクノロジーへの向き合い方
金井氏:世の中が文明的にも進歩する、便利なものが出てくる。そこに対して、ちょっと待ってくださいと。そこで見捨てたものにも価値があると思います。という感じが無印良品では大半なのですが、それだけではなく、これから起きる未知の世界もわかっていようと。つまり、それはデジタル社会のことですね。私たちの考え方ではデジタル社会と資本の論理がくっついたときに困ることになる。例えば、中国ではシェアサイクルが溢れかえっている。ネットビジネス的にとにかくシェアを取ってしまおう、赤字だろうがなんだろうかがとやっていたら、その後に競合が60社生まれて、最終的にはみんなダメになった。資本の論理だけで考えると必ずこうなると思う。

他で言えば、自動運転にはトヨタもみんな世界中でお金をかけてるけど。私は夕張の仕事もしてるのですが、なんとか今でもバスは走ってるけど、東京の払い下げで、東京の広告が載ったバスを60歳超えたおじいちゃんが運転してる、ここに自動運転が入って何が嬉しいですか?そこをどう考えるかが僕たちの仕事だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?