書店員のイチ押し小説 第3回 TSUTAYA中万々店・山中由貴さん
書店員さんが「イチ押し」だと思う本は、どんな本なのだろう?
毎日たくさんの作品に触れている「本」のプロたちに、カドブン編集部がイチ押し小説を聞いてみました!
連載第3回は、四国最大級の売り場面積と高知県下最大級の本の品揃えを誇るTSUTAYA中万々店の山中由貴さん!
SNSでの積極的な情報発信や店頭でのフェア展開など、さまざまな形で「最高に面白いと思った本」を紹介している山中さんに、イチ押しの本についてメールにてインタビューを行いました。
今回のゲスト
TSUTAYA中万々店 山中由貴さん
本が好きで、人生で一度は書店員を経験してみたかったという山中さん。「情熱の伝わる本の手書きPOPを自分でも作りたかった」という山中さんは、現在TSUTAYA中万々店の店長として日々さまざまな本を紹介しています。
――働いているお店の魅力を教えてください!
本の品揃えが高知では最大級です! また私のおすすめ本を並べた「山中の本棚」や、店独自のフェアや提案、スタッフそれぞれのおすすめが、ちょっと鬱陶しいくらいに幅を利かせています。
週末はスイーツの店頭販売やキッチンカーの出店、イベントも盛りだくさんで、読書会も定期的に行っています。遊園地のような本屋になることが目標です!
――現在の山中さんの担当ジャンルはありますか?
今は担当を持たず、売場のディスプレイやPOP、工作、月に1回発行しているお店のフリーペーパー制作を任されています。
おもに国内・海外小説を、自分の裁量で仕掛けたい本を自由に仕入れて売場作りをしています。また年に2回、わたし自身が読んで面白かった作品を〈山中賞〉として発表しています。
――好きな小説のジャンルはありますか?
ミステリ、SF、ホラー、ファンタジー、海外小説です。
あと、二段組、上下巻、鈍器本(非常に分厚い本)など、ボリュームのある本だと読書欲がそそられます!
――山中さんのイチ押し小説を教えてください!
『死んだ山田と教室』金子玲介(講談社)
夏休みに事故で死んでしまった2年E組の人気者、山田が、なぜか教室のスピーカーに憑依し、声だけの存在としてクラスメイトと学校生活を送ることになる、ちょっと変わった青春小説です!
こちらを第11回の山中賞作品として選ばせていただきました。2024年、わたしの上半期ベスト小説です!
男子校の男の子たちのノリのいい会話がテンポよくつづくのが楽しくて楽しくて、小説を読んでこんなに笑ったのははじめてです。キュートでエモーショナルでみずみずしい。馬鹿だなあ!って思わず声をかけたくなるような、彼らの特別なひとときが眩しい。
そしてなんといっても、圧倒的熱量で書かれた最後の数ページは心を鷲掴みにされます!
泣きながら笑わずにはいられないような、愛おしい物語です。
――教室のスピーカーという個性的な切り口でありながら、泣きながら笑わずにはいられない青春小説とのこと。とても素敵な作品をご紹介いただきありがとうございます!
この作品はどんな方におすすめでしょうか?
いま青春まっただ中の10代のみなさんはもちろんですが、大人になってしばらく思いっきり笑ってないなあという人、生きづらさを抱える方には深く共感してもらえる作品だと思います。
――そんな『死んだ山田と教室』の隣に置いておすすめしたい作品はありますか?
『アーモンド』ソン・ウォンピョン:著 矢島暁子:訳(祥伝社文庫)
みんなが笑っているときにひとりだけ真顔な人がいたら。みんなが泣いているときにひとりだけ別の方向を向いている人がいたら。なにあいつ、冷血!って思ってしまうかもしれません。
この本の主人公ユンジェはまさにそんな人物です。「アーモンド」と呼ばれる脳の扁桃体が小さく、怒りや悲しみ、喜びといった感情がわからない「失感情症」の16歳の男の子。
人の感情にも共感することができないがゆえに“怪物”と呼ばれる彼が、もうひとりの“怪物”である乱暴者のゴニと出会って友情を育み、すこしずつ変わっていくおはなしです。
ユンジェが乗り越えていく試練をわたしたちは自分の感情とともに受けとめ、感情を持たない彼の代わりに大きく心揺さぶられることになります。
こちらも10代の男の子を通して、泣いたり笑ったり、胸いっぱいになる、全世代に愛される名作です!
――素敵な作品をご紹介いただきありがとうございます! 今回山中さんからご紹介いただいた作品は、いずれも10代の子供たちが主人公。大人世代は自分の学生時代を思い出しながら、子供世代は「もし自分のクラスに主人公のような子がいたら……」と考えてみて、ぜひ2人の主人公のたちと物語の世界を旅してみてください。作品を通じて、胸がいっぱいになる素晴らしいひと時を過ごせるはず!
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