「トリックスター」という言葉をご存じだろうか。
時としてトリックめいた行動で見る者を欺きながらも、
強い興味を掻き立てるミステリアスな人物――。
捉えどころがなく、独自の価値観や美学を持った変わり者――。
例えば、垣根涼介の直木賞受賞第一作『武田の金、毛利の銀』では、
土屋十兵衛長安という異色の才能が物語の推進役を担う。
彼は”奇天烈”と評されるアクの強さと、財政手腕とを持ち合わせ、
猿楽師としてキャリアをスタートしながら、抜擢が重なるのだが――。
魅力的な物語にはこういった「議論を呼ぶ存在」が欠かせない。
そこで今回は、読者を欺きながらも魅了するような小説を、
ジャンル問わず取り上げてみることとしたい。
善と悪の二元論では語れない魅力。「トリックスター小説5選」
垣根涼介『武田の金、毛利の銀』(KADOKAWA刊)
乱世の沙汰も、銭次第。
浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(角川文庫刊)
映画化決定! 圧倒的共感を集めた青春ミステリが文庫化!
京極夏彦『姑獲鳥の夏』(講談社文庫刊)
この世には不思議なことなど何もないのだよ――
阿部智里『烏に単は似合わない』(文春文庫刊)
史上最年少松本清張賞受賞作
浅田次郎『プリズンホテル』(集英社文庫刊)
任侠団体専用(?)の不思議なホテルに集まる人々の笑いと涙の傑作コメディ。