【今月のベストレビュー】本が好き!×カドブン Vol.72 『海賊忍者』
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します。
今月は活字中毒さんの『海賊忍者』(著:諏訪宗篤)レビューが選ばれました!
創造かと思ったらなんと実在の人物だった!向井正綱の若き日々を描く
レビュアー:活字中毒さん
2017年に第9回朝日時代小説大賞を受賞し単行本デビューを果たした作家さんが改めて第15回野性時代新人賞に挑戦し再デビュー。
このタイトルをみて、自分みたいな古いドラクエファンはつい「お、ジョブチェンジ?」とかはしゃいでしまいそうになる。
父親が武田信玄に海賊衆として仕える伊賀忍者の向井正綱は世に埋もれて生きたいと願っていたが、甲賀忍者に襲われた雪姫に惚れたことから、姫の生家である伊勢国主北畠家の為に働くことになり、織田を宿敵として幾度も対決する。
まず一番にしなければいけないのは、信長が養子として送り込んできた茶筅丸が美しい雪姫を手篭めにしようとするのを阻止すること。
一つの村を丸ごと逃散させるために、見張りの島をバレないように通過する方法や、織田家が山奥から川に流して下流の街に送ろうとした木材を途中で奪ったり、その方法は笑ってしまうくらいバカバカしいのだが(ネタバレになるので秘す)、アニメにでもなった暁にはそれぞれが一話のクライマックスになる見応えがありそうな場面ではある。
初登場の場面では、姫を追う敵の甲賀忍者を追い払い、それなりに格好よく見えた正綱だが、その後の活躍ではいささか派手さに欠けているように思えた。
北畠具教や武田信玄という、当代一流の武将らから是非手元に置きたいと熱心に口説かれるほど高く評価されている理由があまり感じられなかったのが残念である。
姫の言葉遣いが一人だけ独特で(三重の方言だろうか)可愛らしいのと、正綱が窮地を脱する為に知恵を絞る仕草が、アニメの一休さんがトンチを考える時の動作を思わせてなんだか微笑ましかった。