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『デジタル馬鹿』刊行!

2021年6月、ついにミシェル・デミュルジェ著『デジタル馬鹿』が刊行となりました!
”LA FABRIQUE DU CRÉTIN DIGITAL LES DANGERS DES ÉCRANS POUR NOS ENFANTS”(デジタル馬鹿製造工場 子どもにとって危険なデジタル画面)という過激な原著タイトルの翻訳版である本書について、ご紹介いたします。

ミシェル・デミュルジェ

著者のミシェル・デミュルジェは、フランス国立衛生医学研究所所長。認識神経科学の専門家として早くからこの問題に取り組み、警告を発してきた第一人者です。

彼は、メディアを通して伝えられるデジタル使用の影響がほとんど肯定的(たとえば、「ゲーマーは集中力が高い」「教育テレビで成績が上がる」等)であることに憤慨して、本書本書執筆を決意します。なぜなら、世界中の科学者がデジタル使用の悪影響を示すデータを数多く発表しており、その研究こそが彼の専門分野だったからです。

要した期間は3年以上。ミシェル・デミュルジェは世界で発表された2000点余りの論文に目を通し、科学的に実証されたデジタルの悪影響をありのまま提示するものとして本書を書きあげました。
フランスでは発売と同時に売り上げを伸ばしてベストセラーになり、2019年度のフェミナ賞特別賞を受賞。現在はコロナ禍によるデジタル化の加速でさらに注目を集め、イギリス、アメリカ、イタリア、スペイン、ルーマニア、トルコでの出版が予定されています。

デジタル馬鹿の正体

本書タイトルでもある、デジタル馬鹿という言葉について、簡単にご説明します。ここには、二つの意味が込められています。

一つは、過剰なデジタル信仰に陥った人々を指す言葉としての「デジタル馬鹿」。
若い世代については、インターネットやSNSを使いこなし、常に効率的な学び方や働き方を生み出す”デジタルネイティブ”として特別視し、一方でスマホをはじめとしたデジタル機器を使いこなせければ、「時代遅れ」と言われてしまうような現代の風潮。
21世紀のデジタル社会で生きていくには、早いうちからデジタル教育を開始して、パソコンやスマホに慣れさせておかなければならないのでしょうか?

本書で明かされるところによれば、Googleとその子会社では、あらゆる関連ツールは「歯磨きを覚えるのと同じくらい簡単に」作られているそうで、「テクノロジーを早いうちから導入しなければと焦る必要はまったくない」とのことです。

逆に、ミシェル・デミュルジェによれば、デジタルが子ども時代を奪うことによって失うものは大きいと言います。
ここに、「デジタル馬鹿」のもう一つの意味が込められています。すなわち、文字通りデジタルを使用することによって人間は「馬鹿」になってしまう、ということです。

・デジタル機器使用1時間で学校のテスト結果が平均9点下がる
・朝、学校や保育園に行く前にデジタルに触れると、言葉の遅れが3.5倍に
「つけっぱなしのテレビ」があるだけで親子の会話が45分失われる

その他、テレビ視聴時間と大学卒業率や算数の成績の関連など、恐ろしいデジタル使用の代償が並びます。

認識科学の専門家であるミシェル・デミュルジェによれば、人間は生まれながらに真面目でも勤勉でもなく、偶発的なこと(たとえばゲーム、SNSなど)を犠牲にして「やるべきこと」に取り組むのが難しいといいます(そのロジックについては、本書をご参照ください)。
スマホに「つい手が伸びてしまう」のは当たり前のことで、そうならないための訓練こそ、小さいうちにするべきだということでしょう。

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教育ビデオ・教育番組・GIGAスクール構想

近年、「GIGAスクール構想」の導入が検討されています。
これは、全国の学校で義務教育を受ける児童生徒に、1人1台の学習者用PCやクラウド活用を前提とした高速ネットワーク環境などを整備する5年間の計画のこと。デジタル教科書の活用のほか、自宅学習のオンライン化なども進められるといいます。

この、デジタルの教育への参入は、果して子どもたちにとって本当に良い効果があるのでしょうか?

結論から申し上げますと、ミシェル・デミュルジェによれば、デジタル教育はまったく無意味というわけではありません。ただし、その効果が期待できるのは上位5%の生徒だけであり、その他の生徒についてはよくて平均のまま、最悪の場合は成績が落ちるという実験結果が出ていると言います。

授業中にデジタルを使用していた生徒の集中力は6分間しか持たず、それどころか、彼等の使用するデジタル画面が視界に入っただけで、テストの解答率が下がったという記録もあります。この集中力は、なんと金魚と同じレベルなのだとか。
また、ゲームで鍛えられる”集中力”というのは、物事に集中するというよりもむしろ、注意が分散することで様々なことに気づいてしまう状態、すなわち集中とは真逆の状態を指すと言います。
なお、この「注意が分散した状態」によるエセ集中力については、人間よりもチンパンジーのほうが優れているそうです。情報をシャットアウトして物事に取り組むというのは、人間だから成せる業だったんですね。
スティーブ・ジョブズが我が子にスマホを持たせていないことは有名ですが、それも納得の結果ということでしょうか。

デジタルは教師の代わりになるか

では、なぜほとんど効果のない(むしろマイナスの側面のほうが大きい)デジタルについて、こんなにも熱心に教育現場に導入しようという動きがあるのでしょうか。

ミシェル・デミュルジェは、教育のデジタル化によって成し遂げられることは教師の削減、すなわち教育財源の削減だと言います。

現在、先進国の大半が教師にきちんと報酬を支払うことに苦労し、結果的に深刻な教師不足に陥っています。
そこでデジタル神話を広く浸透させ、「子どもたちに合った教育を」と銘打ってデジタルプログラムを堂々と学校に持ち込めば、教育の質以外のすべての問題を解決できるというわけです。

実際、アメリカの多くの州ではすでに教師のいないデジタルクラスが創設されています。生徒はコンピュータを前に一人で学習し、そばにはファシリテーター(進行役)の大人がいるだけ……。
『デジタル馬鹿』では、デジタル教育と比較して、人間の教師による教育では、20%も成績が上昇すると紹介されています。
子どもたちに本当に必要な教育のあり方について、本書を通して科学的な知見から考えてみるのもいいかもしれません。

また、本書では教育ビデオ(未就学児向けDVD教育番組などの子ども向けテレビ)の効果についても、あらゆる実験結果に触れられています。たとえば、3歳までの教育ビデオに一切の効果がないことや、ビデオ欠損といわれる、生身の人間とビデオの違いについて。
ミシェルは、子どもが一番言葉を覚える方法は、「子どもに直接話しかけ、物の名前をあげ、物語を語(あるいは読み聞かせ)」ることなのだと言います。無理なく、時間をかけて子育てに参加できる社会システムが必要だと、あらためて思わされます。

最後に

先進国の子どもたちは、2歳から毎日ほぼ3時間もデジタル画面に向き合っているといいます。 8歳から12歳では約4時間45分、13歳から18歳になると6時間45分。これを年間にすると、幼稚園児で約1000時間(年間の登園時間を上回る)、小学校高学年で約1700時間、高校生で約2400時間。
私たちは、ミシェル・デミュルジェによれば、「人類史上、かつておそらく、これほど大規模に知能を喪失させる体験はなかった」という時代のまっただ中にいます。

大人であっても、通勤時間や家での時間、寝る前、起きてすぐのスマホチェックが欠かせないという方、自らのデジタル依存を自覚している方が、少なくないのではないでしょうか。
本記事でご紹介した以外にも、デジタルに関する数々の科学的知見が明かされている『デジタル馬鹿』、ご一読いただけますと幸いです。


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