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東ティモールコーヒーとゼキト

「今日のコーヒーおいしい。どうしたん、これ?」
と私は思わず叫んだ。いつもの家で飲むコーヒーなのだが、そういえば今日は新しい袋を開けたんだった。開封したてのコーヒーって、香りとコクが数日たってからのそれとはぜんぜん違う。すぐに口を閉じて冷凍庫へ仕舞っているのにだ。

毎回びっくりするのに、徐々に失われていく香りとコクに慣れていってしまい、開けたてのおいしさを忘れてはまたびっくりする。

家で飲むコーヒーは、カルディや小川珈琲を繋ぎに買うことはあっても、一貫して飲み続けているのはフェアトレードの東ティモールコーヒーだ。味のバランスが取れていてすっきりとして飲みやすい。コーヒー通の人にあげてもおいしいと褒められるので味は確かなんだろう。
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でも、わざわざ取り寄せてまで少し高めのこのコーヒーにこだわるのは、単においしいからだけではない。

私の親友のパートナーであった東ティモール人のゼキトの、友人が経営するプランテーションで生産されるコーヒーだから、応援する気持ちで飲んでいるのだ。東ティモール独立戦争のゲリラ兵士として生きてきたゼキト。今もより良い東ティモールのために活動し続けているはずだ。独立前の、インドネシア軍による大量殺戮で命を落とした家族、親戚、友人など知っている人の名前を書いていったら、大学ノート10ページ分になった、と話していた。大きな悲しみを背負い、物心ついた時からわずかな物音にも怯えて目を覚まさない夜を知らない、戦争状態のなかを生きてきた。それなのにゼキトの瞳は深くきらきらと澄んでいて、人懐こい笑顔を向けてくれることに大きな驚きを感じたのを覚えている。私の子どもたちとも温かくフレンドリーに接してくれた。

そんな一時のご縁をいただけた東ティモールの友人を忘れないため、そして、どんなにひどい殺戮を受けてもそれに耐え、自分たちは殺戮を決して行わなかった東ティモールの人たちの気高い精神と連帯するため、このコーヒーを飲む。

そしてこのコーヒーを飲むとき、魂のミッションとして互いに強く惹かれ合い、その後は別々の道を歩くことにしたゼキトと親友との愛の物語を思ったりする。


東ティモールの歴史や情勢にぜひ触れてみてください。

「今日のコーヒーうめぇ。」から、ずいぶんシリアスな話になってしまったけれど。わが家のコーヒーはゼキトとの関わりなしには語れないのだ。

コーヒーは毎日うまい。けれど、日本で採れない作物をいただくなら、こうして世界とのつながりを感じながらというのも、すごくいい。

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