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今昔 若者の音楽環境

中学生のとき、初めて買ったシングルレコード(CDはまだなかった)は700円だった。AB面一曲ずつなので一曲350円だ。10〜11曲入りのLPレコードは2800円だったと記憶している。中学生のお小遣い一ヶ月分に匹敵する価格。高い。それでも、予約特典のポスター目当てに、明菜やキョンキョンの新譜を発売日に入手したものである。

そのうち近所にレンタルレコード屋ができ、LPレコード1枚が350円で三日間借りられるようになった。別途ダビングするカセットテープが必要なので10曲600円、一曲60円くらいか。音楽の価格破壊により、手持ち音楽の数が飛躍的に増えた。ヒットチャートにはない尖ったミュージシャンや洋楽にも手を伸ばすきっかけになった。

それでも今に比べて音楽は高価で、ラジオからの録音などで代替した。

今や、YouTubeには合法、非合法問わず無料の音楽が溢れている。Spotifyでは月額1000円以下でほぼ無限の音楽にアクセス出来る。今の中高生は、私たちの時代とは比較にならないほど豊かな音楽環境に囲まれている。

かのように見える。が、考えるところもある。

昭和の中高生は、出費した2800円を取り返すために、何度も何度も一枚のLPレコードを聴き込んだ。それこそ一曲一曲ブレスの位置まで覚えてしまうほど。サブスク時代には、定額期間でなるべくたくさんの曲を聴く方がお得感があるので、一曲を繰り返し聴く回数は減っているだろう。

読書でいえば、前者は精読、後者は多読にあたる。読書体験の初期では、精読により読書技術を養うことが大事だというが、そのプロセスをスキップすることになる。結果、音楽の鑑賞力を低下させるように思う。

また、なけなしのお小遣いを何に使うか考える機会を奪ってしまう。経済的にたくさんは買えないという条件の中、雑誌の情報などをもとに「これ」というレコードを吟味して買う。聴く前に買うので、当然失敗することもある。そんなことを繰り返すうちに、自分の嗜好や価値観が醸成されていく。結構大切な成長プロセスのように思う。

プレゼントとしての音楽が消滅してしまうのも少し残念。私が学生の頃は、手持ちの音楽を編集した自作コンピレーションカセットを友達や恋人へのプレゼントにしたもの。自分の趣味・嗜好をプレゼンする機会でもあり、「センスいいね」などと褒められるといい気分になった。誰もが全ての音楽を所有している現代、そんな風習もなくなってしまうのだなぁ、と一抹の寂しさを覚える。

昭和世代のノスタルジーに過ぎないことは百も承知である。



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