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異語り 007 外影

コトガタリ 007 トカゲ

学生時代に暮らしていたボロアパートの話


時々アパートの前を走っていく人がいた。それも結構遅い時間
なんでこんな時間に?
はじめはそんなことを考えていたと思う。

当時住んでいたアパートは住宅街の中でも結構入り組んだ奥の方にあった。
太めの通りから1本中通りに入り、さらにそこからコの字に周回するような細い道 その角っこにアパートが建っている。
ちょうど部屋の窓の前に、中通りに向かってまっすぐ西へ伸びる道。
道はアパートの前で90度に折れ北に伸びている
その先でまた同じように90度折れ、元の中通りへと続いている。
通り沿いの人以外はあまり通らない道だ。
日中でもランニングしている人は見かけたことはない。

ある日、布団に入っていると走る音がするので注意を向けてみた。
結構なスピードが出ている。
息も乱れているように感じる。

ジョギングっていう雰囲気ではない。
ダッシュの練習か?

その時は「変な人もいるもんだ」と思いつつ 時間も遅かったのでそのまま眠ってしまった。


忘れかけた頃、また走る音がした。
時間的には前回とほぼ同じ位の時間
前回の記憶が蘇る。
また今度も結構なスピードで走っているようだ

でも少し違和感を感じる。
前回走っていた人とは違う人なのかもしれない。
息継ぎの間や足の運びの音が違う気がするのだ。

どうしても気になってカーテンの隙間からチラリと外を見てしまった。
空に丸い月が浮かんでいた。
足音は横の道から向かってきている。
カーテンが開きすぎないように手で押さえながら北側をのぞき込んむ

月明かりの中スーツ姿の男性がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

終電から走ってきたのだろか? 
駅からこの辺りまでは徒歩15分位ある。

スーツ姿となればトレーニングではないだろう。何か約束や待たせている人がいるのかもしれない

少々奇妙な光景に無理矢理理由をつけて寝床に戻った。


また後日
走る音と息切れの声
やはり好奇心に勝てずカーテンの隙間から外を覗くと、今度は女性だった。

髪を振り乱し、靴が片方脱げている
悲鳴こそ上げていないが顔は必死そうに見えた。
脇目もふらずにこちらに向かって駆けてくる
ひょっとして何か事件だろうか? 
強盗か不審者が出たのか? うちへ逃げ込めるように声をかけようか……

窓の鍵に手をかけたがすぐにその手を引っ込めた。

南の空に満月。北から走ってくる女性の顔が照らされてよく見えた。
女性の後ろに長く伸びた黒い影
その影が不自然に蠢く
女性よりも遙かに大きく膨れ上がった影が別の生物のようにザワザワと身をくねらせている。

慌ててカーテンを引き布団に潜り込んだ。
布団を頭からすっぽりと被ると息を殺して足音が遠のくのを待った。

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