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異語り 070 亜紀ちゃん

コトガタリ 070 アキチャン

中学生の時、初めて人が倒れる瞬間を見た。
同じクラスの友人で、亜紀ちゃんという女の子。
すらっとしてて足が速かった。

体育祭の練習中の事
それぞれ出る種目や委員の仕事があり、クラス全員が揃うことはほとんどない。
全員参加種目の選手だまりで久々に亜紀ちゃんと顔を合わせた。
「おつかれ~」
「おつかれ~」
声をかけ合い、亜紀ちゃんがこちらに手を伸ばしてきた。

自分に向けられた細い指先がゆっくりと下降していく。
その向こうにある亜紀ちゃんの笑顔と共に

とっさに崩れていく彼女を支えるなんて粋なことはできなかった。
すぐに周りにいた女子が悲鳴をあげ、先生も飛んできた。
騒然とする中、自分はただ土の上に伏せてしまった友の姿をぼんやりと眺めていたと思う。

診断は『過呼吸』だったらしく、翌日には普通に登校してきた。
いつも通りニコニコしながら
「倒れた時、最後に凄く不思議そうにぽかーんとした顔が見えたよ~」
などとからかってくる。
とりあえず元気そうでよかった。そう思った。


それから数週間後、いきなり亜紀ちゃんから
「同好会作るから入ってくれへん?」
と誘われた。
その時は他の部にいたのだけど、とても熱心に頼まれて……OKした。
他の部員たちも、亜紀ちゃんが直接口説いてきた子ばかりだった。

その名も『ミステリー研究会』
推理小説ではなく、オカルトのミステリー。
当時はUFOやUMAの話がもてはやされていたから、そんなノリの同好会らしい。

ちょっと不思議だったのは、今まで亜紀ちゃんからその手の話を聞いたことがなかったこと。
でも、部長になった彼女は嬉々として古い戦跡(京都なので、その手の遺構はたくさんあります)や心霊スポットを調べ上げてきた。
さすがに部活動としてただの心霊スポットに行く許可はおりない。
そこで歴史的史跡である奉行所跡や御陵界隈へ行くことになった。

発足したての同好会なので、要は友人ばかりの楽しい遠足のような状態。
面倒くさかったのか、当時はそういうものなのか、顧問が付き添っていた記憶はない。
行った先で現地解散だったことを考えると、もしかすると許可を取っていなかった可能性もある。

現地に着くと、亜紀ちゃんは真剣な表情でそれはそれは丁寧に辺りを歩き回った。
所々立ち止まったり、しゃがみこんだりしながら何かを確認しているように見えた。
若干雰囲気が怖い時もあったが、声をかけるといつもニコッと笑ってくれていた。

一応部活動ということで、その場の由来や資料があれば入手したりもした。
が、基本は亜紀ちゃんの気が済むまで辺りをウロウロする感じ。
別に不満はなかったし、楽しかったのでそれが定着した。

ある日の帰り道
亜紀ちゃんと自分だけ同じ方向になった。
ニコニコと明るく元気ないつも通りの亜紀ちゃん。
思い切って気になっていることを聞いてみた
「なんでいきなりミステリー研究会作ったん?」
「……早めに確かめておかないと消えちゃうから」
「何が?」
二度目の質問に応えはなかった。


顔は笑っているのに、
口元が何かブツブツ呟いているような気がする。


よくわからないのだ。

彼女の顔が……


目の前にあるのは笑顔

のような気がする。


そういう気がするけど


違うような


強い違和感を感じた


あれ?


亜紀ちゃん?

その後何を話したか、いつ別れたのかよく覚えていない。


でもその後も毎日のように「部活行くで~」と誘いに来ていた。
自分もそれに応じていたと思う。


ただ、亜紀ちゃんは部活を引退してすぐ、卒業を待たずに引っ越してしまった。
二度ほど手紙を送ったけど、返事が帰ってきたのは1度だけ。

ほんの一時だけ仲がよかっただけなのに、色んな意味で強烈に記憶に残っている友人だ。

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