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異語り 028 気配

コトガタリ 028 ケハイ

昔からはっきりと姿を見たり声を聞いたりすることは少ないながら、異質な気配はよく感じる。
元がビビりだから、何でもないことにまで反応してしまっていることも多々あるのだけれど、説明のつかない何とも言えない気配は確かに存在している。

思春期の頃、急に過敏になりコントロールもままならない時期があった。
いつもの通学路や学校内ですら恐ろしさを感じる瞬間が度々あり、どうしたものかと思い悩んだりもした。

その時思いついた解決策が、『強い人と一緒にいること』だった。
自分の周りのかすかな気配にまで反応してしまうので、存在そのものが強烈な人のそばにいるとその気配を感じずに済むと気がついたのだ。

しかしその当時 
陰キャで友達も少なかった自分には、強烈な個性を放つ陽キャな相手にお願いすることも、そばにいる理由を探すこともできず、ただ何となく近づいてその恩恵に預かるという作戦しか思いつかなかった。

話しかけてくる訳でもなく、でも気がつくと目の入るところにいる。
案外自分自身がやばめな存在だったかもしれない。

ある日の昼休み、わざわざ中庭のベンチまで移動して本を読んでいた。
暑いし眩しいし、決して良い読書環境ではなかった。
が、当時のクラスが旧校舎の隅にあり、1人でいたい空間ではなかったのでしょうがない。

ただ、その日はいつもと違い、頼りにしていた彼女の機嫌があまり良くないようだった。

いつもなら4・5人でバレーボールなどして過ごしているのだが、今日は仲のよい3人で隣のベンチに座り、何やら話し込んでいる。

ベンチとの距離は3メートル程なので、時々その会話の端々が漏れ聞こえてくる。
どうやら彼氏が二股をしていたということらしい。
相手は他校生らしく「どうしてやろうか」的な言葉も聞こえてくる。

友人たちは「相手の子も知らないのかも」「そういうのは男が悪いんでしょ」的な慰めヤアドバイスを言っているようだったが、彼女の耳にはあまり届いていないらしい。
「問い詰めたらフラれちゃう」「私はこんなに好きなのに」などなど
大きくなりがちな声を時折調整しながらしゃべり続けている。

全くの人ごとだとは思いながらも、気がつけば会話が気になりすぎて本の内容は全く入ってこなくなっていた。
いつも元気で明るい彼女の意外な一面を見てしまった気がして、席を外そうかと逡巡していると、強烈な悪寒が全身を駆け巡った。

驚愕し硬直していると、気配は更に濃くなりモヤのように感じられるほどになっていった。

驚いて立ち上がると隣のベンチが目に入る。
先程までと変わらず友人の肩に顔を乗せるようにしてボソボソと話している彼女。

しかしモヤはその彼女から発せられている。

やがてモヤは集まり始め、1方向へ流れ始めた。
その向こうから数人の男子が歩いてくる。

男子が近くまで来たとき
彼女の気配が変わった。

陽炎のようだった気配がザラリとした質感を持った気がした。
途端にモヤが1人の男子にまとわりつく。
周囲の両友人達にはモヤは見えていないらしい。

彼女は男子に気付いているのに気づかないふりをして愚痴を言い続けている。
男子は一緒に気まずそうな顔をしながらも、こちらを見ないように通り過ぎていく。


モヤは更に濃度を増し、男子おおいつくしていった。

ふと男子の顔色が悪くなった気がする。
見守っているだけの自分の心臓も脈が速くなっていた。


その日の午後の授業は最悪だった。
彼女からはピリピリした気配がずっと漏れっぱなしだったから。


エネルギッシュな彼女だったから、そばにいたかったのだが、そのエネルギーが負へ傾くととんでもない濃さのマイナスエネルギーが放出されることになる。

考えてみれば当たり前の話なのだけど、のんきな自分は経験するまでそれに気が付かなかった。

以来、自分は他力本願な対策は改めるようになった。

場所に溜まる微かな気配や微々たる負のエネルギーなんかより、生きている人間の負のエネルギーの方が数倍ヤバくて恐ろしいものだと思い知らされたから。

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