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異語り 149 祖母の目覚まし時計

コトガタリ 149 ソボノメザマシドケイ

30代 男性

片手にすっぽり収まるサイズなのに、ずっしりと重みがある。
日1回 裏にある小さなゼンマイを巻くだけで電池もいらない。
50年以上前に作られた物なのに、今もほぼ狂うことなく動いている。
昔の物は本当に丈夫だなと思う。

自分がその目覚まし時計を譲り受けたのは、大学に上がる頃だったと思う。
祖母が亡くなり(老衰)親族一同が祖母の家に集まった。
皆で和やかに見送り、それぞれが何か思い出のものを一つもらっていこうということになった。
自分でこの目覚まし時計を選んだのだ。
中高生の頃ならば、古くさい物より新しい物に目移りしていたと思うが、大学くらいになると逆に少し古い物の方が味があってかっこよく思えたから。

シンプルなデザインも、重厚な重さも、とても気に入っている。

初めの頃はカチコチと時を刻む音が大きいように感じていたけれど、そんな音はすぐに慣れて気にならなくなった。


毎朝目覚ましのベルの音で起きる。
セットする時間は6時半。
ビリビリするようなベルの音を聞きながら目覚め、ゼンマイを巻いて1日が始まる。
とてもいい気分で1日が始められるようになった。




目覚まし時計を使い始めて3年くらい経った頃、休日なのにベルが鳴った。
確か昨日はセットせずに寝たつもりだったのに、……習慣とは恐るべし

そう思いベルを止めて二度寝した。



その後、就職を機に家を出た。
会社の用意してくれた社員寮に移ったのだ。
もちろん目覚まし時計も持っていった。

寮は職場の近くにあり8時に起きても余裕で間に合う。
寮の仲間達も似たような時間に起きていたように思う。

ある朝 6時半に目覚ましが鳴った。
慌てて飛び起きて時計を止める。

なんでこんな時間に?

見ればセットされているのは8時のままだ。
「あれ? 鳴ってたよなあ?」
そっとスイッチをあげてみるも当然ベルはならない。
「寝ぼけてたのか?」

それでも気になって一応メモ残した。

その後は誤作動もすることなかったのでそのことはすぐに忘れてしまった。




それがその次の年にも起こった。
メモと同じ日付
同じ時刻。

今回は寝ぼけていたわけではない。
その日は祖母の七回忌で、自分は既に起きて帰省のためにバタバタと準備していた。
そんな時に時計がなりだしたのだ。

これはちょっと……誰かに相談した方がいいのかも

そう思い時計も一緒に荷物に詰めた。



久しぶりに訪ねた祖母の家で、祖母の最後の話を聞いた。

祖母は最後の日もいつも通りに夕食をとり、
いつも通りに布団に入ったという。
そしてそのまま眠っているうちに息を引き取ったそうだ。

朝6時半に目覚ましが鳴り、
ただその日はずっと鳴り続けるのでおかしいと思い、伯母が様子を見に来た。
そこで布団の中で息を引き取った祖母をみつけた。




最後に止められなかった祖母の思いなのか、
止めてもらえなかった時計の思いなのか、
そのどちらでもないのかは分からない。

その時計は今も祖母の命日にベルを鳴らす。
ちょっと思うところもあるけれど、年に1度のこと。
自分はこの時計が壊れるまでは付き合おうと思っている。

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