異語り 146 地下鉄
コトガタリ 146 チカテツ
40代 男性
子供の頃から乗り物が好きでした。
車よりは電車が好きだったので、家族でのお出かけは電車に乗りに行くのが目的のような感じでした。
まだ小学生だった頃、
自分の住んでいた街にも地下鉄ができたんです。
もちろん親にねだってすぐに乗りに行きました。
駅も自宅から徒歩圏内にありましたし、自分はただ乗ってるだけでご機嫌な子どもでしたから親も楽だったんだと思います。
地下鉄ですから、景色なんてほぼありません。
運転席や車掌室も見れないタイプの車両でした。
なので、ただ流れる黒い壁を眺めるだけなんですけど、自分にはとても楽しい時間でした。
地下鉄と言っても完全に真っ暗な訳ではなく、所々には明かりも信号もありますし、作業する人のための待避所などもあります。
そういうのは何回も乗っていればなんとなく覚えてしまいます。
こんな所のも標識が! なんて発見をしながら何度か乗車していると、ふと気がついたことがあります。
駅ではない地下鉄のトンネルの中に、時々小さなホームがあるんです。
でもそのホームがなぜかどこにあるのかさっぱり覚えられないんです。
前回ここで見かけたと思って注意していても何もなく、別の日に全く違う場所に現れる。
元が暗いトンネルですから明かりが消えて見えないだけなのかもと思ったのですが、元々明かりがある所にも現れたりする。
とにかく神出鬼没なんです。
あまりに気になって何度か地下鉄の運転手さんにも聞いてみたことがあるのですが、皆さん「それは待避所だよ」と教えてくれるばかりで、一生懸命みた場所を覚えて説明しても「きっとそこではなくてここと勘違いしているんじゃないかなぁ」って優しく訂正されてしまうのです。
誰にきいても同じような答えしか返ってこないので、運転手さん達も「知らない」もしくは「気が付いていない」存在なんだと思いました。
それからはそのホームのことはあまり人に言わないようになりました。
ただのホームですから怖くはないんですけどなんとなく……。
今また地下鉄に乗る機会が増えまして、癖でトンネルを眺めています。
乗る距離もそこそこ長いから、また無意識に信号やら退避所も覚えてたりするんです。
そして、
やっぱり時々出るんです。
あるはずのないところに小さなホームが。
大きさは多分畳一枚分ぐらいしかなくて、でもちゃんと明かりがついていて駅名を記した駅名標とベンチもあるんです。
通り過ぎる一瞬の間ですが、自分にはなぜかはっきりとその存在を認識できるんです。
思えばそれ自体とても不思議ですよね。
この前また見かけました。
そしてそのついにその駅名まで読み取れたんです。
確かにその路線にはない名前でした。
でもなんだか嬉しくて、ついその駅名を検索してしまったんです。
駅としては出てきませんでした。
でも小さな記事を見つけました。
ホームを見かけた前日
その駅名と同名の地区で火事があり亡くなった人がいたと……。
アレってそう言う駅なんでしょうか?
自分が見た時、ホームには人はいませんでしたが、さすがにちょっと背筋が冷えました。
もう見たくはないんですけど
でも癖ですからきっとまた見ちゃうんでしょうね。
こういうのって誰かに話すと分散されたりするんでしょ?
また見ちゃったら報告しますね。