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本のある日常

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書店員として働く私が、本のことについて書いたエッセイ集です。
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#読書

ああ、豊かな読書時間

よく、読書は豊かなものだと言われる。 それはもう言われすぎて、もはや紋切り型の常套句のようなものになってしまっており、私なんかはその言説に反発すら覚えるようになってしまったのだが、それでもやはり読書というものは豊かだなあ、と思うときがたびたびある。 最近、特にそれを感じた読書体験が2つ続いたので、この文章を書いている。 1冊目は『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』。 仕事がほとほと嫌になってしまった記者が、パリの有名書店「シェイクスピア&カンパニー書店」で過ごした

調子の悪さに比例して読書量が増えていく

年度末は忙しさのあまり調子を崩す人は多いと思う。 かくいう私もその一人で、この3月は膨大な仕事に追われ、また上司との面談を控え関係がギクシャクしてしまいストレスフルな状況だった。 私は生活の調子が悪くなると、すがるようにして本を読むクセがある。 そういうわけで、3月は27,143円分の本を買い、16冊の本を読むことになった。 どうして、つらいときに読書量が増えるのか。 自分の現状と似たような内容の本を読み、「わかる。つらいよね」と支えてもらいたいからである。 例えば、私は3

【新刊案内】3冊目のZINE『本と抵抗』を刊行します

1冊目『本のある日常』、2冊目『本のある生活』に続き、このたび3冊目のZINE『本と抵抗』を刊行します。 既刊の2冊は正直驚くほどの反響があり、1冊目『本のある日常』は2刷、2冊目『本のある生活』は全国16の本屋さんで取り扱っていただいていただきました(2024/04/17現在)。 3冊目のZINE『本と抵抗』も「いいものができた」と感じているので、読んでいただけるとうれしいです! お知らせ 2024/05/23 文学フリマ東京38に出店し、3部作合計で59冊を販売す

本を読んだら生きやすくなった

よく30歳を超えると生きやすくなる、なんてことが言われる。 逆に言えば、20代は大概の人が生きづらさを感じるときなのだろう。 私も社会人になってからうまくいかず退職したり、しばらく無職としてすごしたりと不器用な20代を送ってきた。 そんな私も今年で30歳を迎え、確かにちょっと生きやすくなってきたな、と感じる。 でもそれは、単に年齢を重ねたからではなく、社会人になってから始めた読書のおかげが大きい。 本という媒体はグレーゾーンを尊重するものだと思う。 白か黒かではなく、グレ

ふだんは読まない本を読むという冒険

読書歴が長くなってくると、「自分が好きそうな本」というのが大体わかってくる。 そして、そうした本ばかり買って読むようになる。 たとえば私だったら、ちょっと暗めのエッセイや哲学、人文学などの人文書ばかり読んでいる。 だけど書店員をやっていると、ふだんは読まないような本を読む機会に恵まれる。 お店で売れている本はどうしても気になってしまうし、「これは売りたい」と思った本はできるだけ自分でも読むようにしている。 そんな自分の興味から少し外れたような本を読むと、毎回驚くのだが、わか

電車で本を読むという抵抗

通勤電車の中ではできるだけ本を読むようにしている。 もちろん読書がしたいからであるが、最近は私が本を読む姿を見てもらうことによって読書に興味を持ってもらおうという草の根活動も意識している。 読書に興味をもってもらうには、面白そうに本を読んでいる姿を見せるのが一番だろう。 それを電車の中で実践しているのだ。 電車の中で読書している人は本当に少ない。 たまに車両内を見渡してみるが、本を読んでいる人は一人もいないことが多い。 乗客のほとんどがスマホをいじっている姿を目にすると、書

私が本を読める場所

私は家ではあまり本が読めない。 読もうとしても、YouTubeやアニメやら他のことに気が移ってしまう。 そんな私が集中して本を読めると思うのは、電車の中だ。 電車では読書以外にやることがない。 スマホは見れるが、電車内が明るくて画面が見づらいし、情報量が多くて脳も疲れてしまう。 でも目的の駅までボーッとしてるのも退屈。 そんな状況はまさに読書にぴったりなのである。 駅のホームで文庫本を読み始めるから、電車を待つ時間も苦にならない。 電車に乗ってからもあっという間で、集中し

書店員の私が本を読むようになったきっかけ

当時、私は無職だった。 新卒で入った会社を辞め、会社という組織を信じられなくなっていた私は、どうにか一人で稼げるようになりたかった。 そんなときにあるYouTuberがすすめていた『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方』という本を読んだ。 その本は簡単に言うと、会社員は税金が取られすぎているから自分で小さい会社を作った方がいい、という内容だったのだが、読み終わった後に感じたのは「本を読まないことはリスクだ」ということだった。 というのも、会社員をやっていたとき、そんなに都合よく

本は途中で読むのをやめていい

YouTubeの動画が面白くなかったら、途中で見るのをやめる。 それは当たり前のことで、観るのをやめた次の瞬間には他の動画を探している。 だけど、本に限っては「つまらなくても最後まで読まなければいけない」という義務感を私たちに抱かせる。 だけど私はこう言いたい。 つまらない本なんて、途中で読むのをやめればいいのだ。 つまらない本を読むくらいなら、その時間を使って他の本を読んだほうが生産的な時間をすごせる。 つまらない本を義務感で読み切っても、そこには何も残らない。 ただ徒労

疲れていると本が読めない

仕事を終えて、やっと家に帰ってくる。 さあ、ここからは私の時間だ。 なんでも好きなことをしようじゃあないか。 そうだ、読みかけの本もあるし、読書なんてどうだろう。 でも、あれ、なんだか読む気が起きないぞ。 私の仕事終わりの夜はだいたいこんな感じである。 ラジオを聞きながら、読書をするという豊かな時間をすごしたいのに、できない。 仕事終わりの疲れた体では、読書を始めるためのハードルを超えられない。 かといって、他にやりたいこともない。 気づいたらスマホでYouTubeを見て、

書店で本が多すぎて選べない問題

先日、友達がこんなことを言っていた。 「本屋に行くんだけど、本が多すぎて選べない。目が滑ってしまう」 確かに、最近の本屋は売り場の大型化が進み、その中から自分好みの一冊を選ぶとなると途方に暮れてしまう。 ただ、私も書店員の端くれ。 その友人には、「エッセイの棚から興味のある本を選ぶ」という方法を提案しておいた。 本屋が広すぎて選べないなら、自分で見る棚の範囲を限定すればいいのだ。 「この棚から1冊は買うぞ」 そういう心持ちで見れば、記号にしか見えなかった背表紙の文字も、よう

夜の本屋を冒険する

休日の夜にどうしても寂しくなってしまうことがある。 そんなときは、散歩がてら家の近くのお店に行く。 幸い近所には夜遅くまでやっているコンビニやリサイクルショップなどがある。 その中でもお気に入りは本屋に行くことだ。 その本屋は格別に品揃えがいいというわけではない。 むしろ、店員のやる気のなさが棚に表れていて、品揃えは並以下である。 そんな本屋でも、近所にあって夜遅くまでやっているというだけで、愛着が湧いてくる。 あてどなく店内を回り、気になった本をパラパラとめ

借りた本はなんだか頭に入ってこない

私は彼女と同棲しているのだが、一緒に暮らしているとお互いに「えっ」と驚くようなことがある。 私にとってそれは、彼女が私の持っている本をわざわざ買うことだった。 家の本棚に刺さってるのに、家に帰れば読めるのに、である。 それはさすがにお金がもったいないと、レジに向かう彼女を止めるのだが、彼女は「あなたの本だと思うと、なんだか読めない」と言い、けっきょく買ってしまう。 そんなことがあったので、私も試しに彼女の本を借りて読んでみた。 そうすると、なるほど確かに自分で買った本とは読

本の傷みが気になるから、上から2冊目を買ってしまう

私は少し神経質なところがあって、本の傷みが気になってしまう。 本を買うときは上から2冊目をとるし、アマゾンで中古の本を買うときは状態が「非常に良い」ものを選ぶ。 傷んでいる本を買ってしまったときは、その傷が気になって読書に集中できなくなる。 ここまでくると、強迫観念のようなもので、自分でもしんどくなってくる。 買い物のときはきれいなものを選ぼうと時間と労力がかかるし、傷のせいで読書に集中できなくなってしまっては、なんのために本を買ったのかわからない。 そんな私が憧れるのが、