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本のある日常

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書店員として働く私が、本のことについて書いたエッセイ集です。
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#本

ああ、豊かな読書時間

よく、読書は豊かなものだと言われる。 それはもう言われすぎて、もはや紋切り型の常套句のようなものになってしまっており、私なんかはその言説に反発すら覚えるようになってしまったのだが、それでもやはり読書というものは豊かだなあ、と思うときがたびたびある。 最近、特にそれを感じた読書体験が2つ続いたので、この文章を書いている。 1冊目は『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』。 仕事がほとほと嫌になってしまった記者が、パリの有名書店「シェイクスピア&カンパニー書店」で過ごした

調子の悪さに比例して読書量が増えていく

年度末は忙しさのあまり調子を崩す人は多いと思う。 かくいう私もその一人で、この3月は膨大な仕事に追われ、また上司との面談を控え関係がギクシャクしてしまいストレスフルな状況だった。 私は生活の調子が悪くなると、すがるようにして本を読むクセがある。 そういうわけで、3月は27,143円分の本を買い、16冊の本を読むことになった。 どうして、つらいときに読書量が増えるのか。 自分の現状と似たような内容の本を読み、「わかる。つらいよね」と支えてもらいたいからである。 例えば、私は3

本を読んだら生きやすくなった

よく30歳を超えると生きやすくなる、なんてことが言われる。 逆に言えば、20代は大概の人が生きづらさを感じるときなのだろう。 私も社会人になってからうまくいかず退職したり、しばらく無職としてすごしたりと不器用な20代を送ってきた。 そんな私も今年で30歳を迎え、確かにちょっと生きやすくなってきたな、と感じる。 でもそれは、単に年齢を重ねたからではなく、社会人になってから始めた読書のおかげが大きい。 本という媒体はグレーゾーンを尊重するものだと思う。 白か黒かではなく、グレ

電車で本を読むという抵抗

通勤電車の中ではできるだけ本を読むようにしている。 もちろん読書がしたいからであるが、最近は私が本を読む姿を見てもらうことによって読書に興味を持ってもらおうという草の根活動も意識している。 読書に興味をもってもらうには、面白そうに本を読んでいる姿を見せるのが一番だろう。 それを電車の中で実践しているのだ。 電車の中で読書している人は本当に少ない。 たまに車両内を見渡してみるが、本を読んでいる人は一人もいないことが多い。 乗客のほとんどがスマホをいじっている姿を目にすると、書

本の帯どうするか問題

長年私を悩ませている問題がある。 そう、本の帯をどうするか問題である。 もともと几帳面な性格もあり、本の帯が捨てられない。 ただ、その几帳面な性格ゆえに読んでいるときは帯が手に当たって気になる。 かといって、本から外して取っておくと、本棚の上に謎の本の帯がワシャワシャしているコーナーが出来上がる。 本の帯はけっきょくどうするのが正解なのか、いいかげんこの問題に結論を出したい。 まず、どうして本の帯を捨てられないのか。 それは、なにかもったいない感じがするからである。 本の帯

歴史小説の門を開ける

長年、歴史小説には苦手意識を持っていた。 漢字が多いし、文体も固い。 なにより、登場人物の名前がみんな似ていて、誰が誰だかわからなくなり、物語に全然入っていけない。 そんな私だが、最近夜な夜な「戦国無双」というゲームを楽しんでいる。 「戦国無双」は歴史上有名な武将を操り、敵をばったばったと切り倒していくアクションゲームである。 仕事終わりで疲れている夜に、自分が強い武将となって雑兵をなぎ倒すのがいいストレス解消になっているのだ。 武将になりきって戦っていると、登場するキャ

私が本を読める場所

私は家ではあまり本が読めない。 読もうとしても、YouTubeやアニメやら他のことに気が移ってしまう。 そんな私が集中して本を読めると思うのは、電車の中だ。 電車では読書以外にやることがない。 スマホは見れるが、電車内が明るくて画面が見づらいし、情報量が多くて脳も疲れてしまう。 でも目的の駅までボーッとしてるのも退屈。 そんな状況はまさに読書にぴったりなのである。 駅のホームで文庫本を読み始めるから、電車を待つ時間も苦にならない。 電車に乗ってからもあっという間で、集中し

本屋納めと本屋始め

本好きにとって、その年の最後に行く本屋と、新しい年になって最初に行く本屋はやはりちょっと特別である。 年末は「これが最後の本屋か」となぜか襟を正すような気持ちになるし、年始に本屋に行くのはワクワクする。 2023年、私の本屋納めは12月30日だった。 朝、吐く息が白くなる寒さの中、なじみの古本屋に向かう。 道中の公園では、何匹もの鴨が寒い川に浮かんで年を超そうとしている。 見るとやる気がなく川に流されている鴨もいる。 古本屋の道すがら、公園を散歩するのは気持ちがいい。 古

2冊目のZINE『本のある生活』を作りました

私にとって2冊目となるZINE、『本のある生活』を作りました。 書店員の私が、日々の生活の中でどんなふうに本と付き合っているかを書いたエッセイ集です。 新たな試みとして、エッセイに加え、本と関わった日の日記を書いてみました。 日記を読むことで、本のある生活をより身近に感じてもらえればうれしいです。 おかげさまで1冊目のZINE『本のある日常』(タイトルが似ている)は予想以上に反響をいただきまして、重版もすることができました。 2冊目もそれに続いてくれればと思いながら、『本

家に図書館をつくる

読んでない本があるままに、本を買い続けるとどうなるか。 家に図書館ができるのである。 その図書館は自分好みの本が並ぶ図書館である。 自分が興味のある本を買っていった結果なので、当然ではあるのだが。 図書館があれば、たとえ今は読めなくても、ふとしたときに「あんな本あったよな」と本を手に取れる。 特に私が重宝しているのが、出勤前に本を選ぶときである。 読みたい本というのは、その日によって違う。 だから、昨日まで読んでいた本でも、今日も読みたくなるとは限らない。 そんなときはそ

本を買うという冒険

本屋でレジに立っていると、店に入ってからすぐに一冊の本を手にとってレジに向かってくるお客さんがいる。 そして、買った後は脇目も振らず店を出ていってしまう。 もちろん、本を買っていただけることはとてもありがたい。本当にありがたい。 ただ、事前にネットで得た情報を頼りに目当ての本だけを買って帰るのは、少しもったいないことかもしれない。 本屋の醍醐味は、自分が知らない本と出会えることだからだ。 本屋では、本のプロである書店員が、趣向を凝らして本をディスプレイしている。 その棚をじ

本は途中で読むのをやめていい

YouTubeの動画が面白くなかったら、途中で見るのをやめる。 それは当たり前のことで、観るのをやめた次の瞬間には他の動画を探している。 だけど、本に限っては「つまらなくても最後まで読まなければいけない」という義務感を私たちに抱かせる。 だけど私はこう言いたい。 つまらない本なんて、途中で読むのをやめればいいのだ。 つまらない本を読むくらいなら、その時間を使って他の本を読んだほうが生産的な時間をすごせる。 つまらない本を義務感で読み切っても、そこには何も残らない。 ただ徒労

疲れていると本が読めない

仕事を終えて、やっと家に帰ってくる。 さあ、ここからは私の時間だ。 なんでも好きなことをしようじゃあないか。 そうだ、読みかけの本もあるし、読書なんてどうだろう。 でも、あれ、なんだか読む気が起きないぞ。 私の仕事終わりの夜はだいたいこんな感じである。 ラジオを聞きながら、読書をするという豊かな時間をすごしたいのに、できない。 仕事終わりの疲れた体では、読書を始めるためのハードルを超えられない。 かといって、他にやりたいこともない。 気づいたらスマホでYouTubeを見て、

俺もジャンプを売る側になった

私がまだ小学生のころ、近所の個人商店でジャンプを買っていた。 田舎に住んでいたので、近所といっても自転車で30分はかかる。 ジャンプのためにチャリを飛ばし、夏の田んぼのあぜ道を、汗をかきながら走った。 そしてようやく店にたどり着くと、入りたてホヤホヤのジャンプを見つけて、すぐさまカウンターに向う。 田舎だからカウンターのおばちゃんとも家族ぐるみの仲である。 「いつもありがとうねえ」 そんなこと言われながら、お金を払い、ジャンプを受け取った。 そうしてまた、家でジャンプを読むた