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追悼 市川猿翁さん 9月博多座千穐楽かぶきDOU其の25アフタートーク

いつもコミてんラジオかぶきDOUをお聴き頂きありがとうございます。まずは訃報からお届け致しました…


追悼 2代目市川猿翁さん


9月13日2代目市川猿翁さんがご逝去されました。83歳でした。
猿翁さんは2004年平成16年より療養されて以降、前歌舞伎座の閉場式や現歌舞伎座の顔寄せ手打式、2代目市川猿翁襲名披露公演口上でのご登場はありましたが、2012年平成24年7月新橋演舞場 襲名披露公演の楼門五三桐(さんもんごさんのきり)の真柴久吉のお役が最後でありました。
しかし闘病中もスーパーバイザーとして現在開催中の南座 新・水滸伝など数多くの舞台で猿翁さんの構想は澤瀉屋一門をはじめ多くの歌舞伎役者さんが体現してきました。
博多座でもスーパー歌舞伎は大人気の公演です。2020年令和2年2月に上演されたスーパー歌舞伎Ⅱ新版オグリでは猿翁さんの演出プランが話題になりました。
1991年平成3年のスーパー歌舞伎オグリの初演の際に猿翁さんは、小さいテレビで背景を埋めつくす演出を考えていたそうです。
しかし予算がなんと30億~40億円かかるということで、やむなく鏡を用いた演出に変更されました。結果、舞台は大成功で伝説的な作品と評されています。
約30年後、当代の猿之助さんの演出で大きなLEDパネルや鏡、博多座の舞台を使ったプロジェクションマッピングで猿翁さんが30年前に描きたかった世界観をスーパー歌舞伎Ⅱ新版オグリとして甦らせました。
舞台展開の速さに加えて、歌舞伎要素や会場の一体感も味わえて圧倒されました…何より30年前にこの構想をイメージされた猿翁さんは凄すぎると感動し私もスーパー歌舞伎が大好きになりました!


猿翁さん流 歌舞伎プロモーション

訃報から猿翁さんの様々な功績が紹介されておりますが、かぶきDOUでは猿翁さんの歌舞伎プロモーション活動について書籍「猿之助の歌舞伎講座」よりお届け致します。
旅行好きな猿翁さんは旅の本を愛読されていました。
3代目猿之助時代に、風景写真がたくさん載っているムック的な本を手にしていることに気づき、歌舞伎の魅力や見方がすべて入っている様な目で見る歌舞伎の解説書を作ってみたいと実行されたのが1979年昭和54年に公演された「ザ・カブキ」です。
舞台が円形に客席に迫り出していて観客と交流を行いやすいとのことで大阪にありました梅田コマ劇場で開催されました。
シリーズ化されたこの公演の第1回で猿翁さんは矢の根の曽我五郎のこしらえを舞台上で行いました。
舞台に、鏡を抜いた鏡台を置き客席を向いて猿翁さんが座られます。 本物の鏡は下に置いてあり客席から見えるように顔を作っていかれました。
続いて着付けです。矢の根の曽我五郎の衣装、太くて立派な丸ぐけ帯を後見さんたちが着付けしていく様子を博多座の舞台でもお楽しみ頂けたかと思いますが、猿翁さんは観客を舞台に招き上げて衣装や鬘の重さを実際に手に取って体験してもらいました
お客様が隈取、衣装の着付けを見届けた後は荒事の曽我五郎の大立ち廻りのご披露です。荒事の大きさを一段と感じてもらうのが猿翁さんの狙いでした。
客席前方に位置するオーケストラピットには長唄や清元など地方(じかた)の皆さんが配置されたりと、かなり実験的で現在の歌舞伎解説講座で拝見するような演出を40年以上前に猿翁さんが行っていたのが驚きでした!

海外で開催 歌舞伎ゼミナール 

今からちょうど40年前の1983年昭和58年5月からおよそ1ヶ月間イタリアの4都市の ウイーン、ボローニャ、レッジョ・エミリア、ミラノで歌舞伎のデモンストレーションとゼミナールを行いました。
音楽は録音テープ、それ以外は本公演並みの大道具と小道具を持って行かれたそうです。
役者さんの数は小規模の予定が、猿翁さんのこだわりから総勢26名が参加されました。歌舞伎デモンストレーションはどの劇場も超満員!
歌舞伎ゼミナールはボローニャで2週間行われました。イタリアのボローニャ市とエミリア・ロマーニャ州の全額公費負担だった為、参加された生徒の皆さんはとても熱心だったそうです。イタリア、ドイツ、フランス、アメリカから来た人もいました。
実技中は生徒さん全員が浴衣姿に足袋、扇子という出で立ちでした。猿翁さんは始めに「私を親だと思って自分が子供になったつもりで無心になって真似しなさい」と生徒さんに言いました。生徒さんにはこれが一番響いたアドバイスだったそうです。
猿翁さんと弟の市川段四郎さんがリアルな殺陣を披露したり、 小道具の使い方のレクチャーでは小道具だけであらゆる表現ができることに生徒さんは驚かれたそうです。
発表会ではお化粧を猿翁さんも手伝って2 時間程かけて生徒全員の顔を仕上げ、衣装や鬘(かつら)は澤瀉屋のものが使われました。
気になる演目は連獅子、夏祭浪花鑑、イタリア語版の鳴神!などのほか口上も披露されました。日本でも人気の演目揃いですね!
会場は拍手喝采、観客は総立ちだったそうです。 最後は歌舞伎ゼミ修了証書を生徒の皆さんに手渡してフィナーレでした。
猿翁さんは「演劇人はいかにあるべきか、劇場に働く人はどうあるべきかや情熱、姿勢を学んでくれたようです。歌舞伎にももっと国際的に広がっていける要素があること。文化交流事業を継続していく必要があること。非常に大きな種をまいてきたと思います。」と綴られています。
この活動が後の澤瀉屋ヨーロッパ公演の大成功、イタリア名誉市民章やフランス芸術文化勲章などの受賞に繋がっているのですね!
常に時代を牽引し続けた猿翁さん。その意思は澤瀉屋の一門をはじめ多くの歌舞伎役者さん、ヨーロッパの歌舞伎ゼミナールで猿翁さんから感銘を受けた方々にも継承されております。

本日のかぶきDOUは市川猿翁さんを偲んでその功績やエピソードについてお届けしました。2 代目市川猿翁さんのご冥福を謹んでお祈り申し上げます。 


縁の一曲 市川猿翁さん

歌舞伎役者さんにゆかりの曲をお届けする縁の一曲のコーナー。
今回は市川猿翁さんを偲んで、
加藤和彦作曲 スーパー歌舞伎 新・三国志のテーマ曲をお届けいたしました。


麻布十番麻の葉 絵手ぬぐい 中村格子お目見え


スタジオには麻布十番 麻の葉さんの絵手ぬぐい「暫」を展示しておりましたが、博多座9月大歌舞伎13代目市川團十郎襲名披露 8代目市川新之助初舞台が千穐楽を迎えましたので鎌倉権五郎景政の絵てぬぐいも今回で卒業となりました。
暫の絵てぬぐいは博多座襲名披露公演の売店でも大人気でした!

引き続き麻の葉さんのご協力を頂きまして権五郎のお隣に新しい絵手ぬぐいがお目見えしました。

中村格子 (なかむらごうし)

2005年平成17年3月の18代目中村勘三郎さんの襲名を祝って発表された歌舞伎手ぬぐいです。
「鶴」と「朝暘ちょうよう=朝日」が描かれ中村屋の替紋をイメージした大変おめでたいデザインです
六本縞の格子の間に「中」と「ら」の文字を入れて「中むら」と読ませる江戸時代に流行した謎解きのデザインで判じ物(はんじもの)と呼ばれます。
11月の平成中村座小倉城公演千穐楽までコミてんスタジオを彩ります。今後、中村屋さんのお話もご紹介していきますのでご期待ください!
なお博多座襲名披露公演で売切れのため麻の葉さんの絵てぬぐいをお買い求め頂けなかった方はぜひオンラインショップをご活用くださいませ↓


千穐楽レポ 博多座13代目市川團十郎襲名披露8代目市川新之助初舞台

博多座で開催されました13代目市川團十郎襲名披露 8代目市川新之助初舞台が9/17に無事千穐楽を迎えられました!

矢の根

昼の部歌舞伎十八番の内「屋の根」ではお正月のおめでたい雰囲気の中、仇討ちに備えて矢の根を研ぐ曽我五郎が登場します。
荒事の中で暫と同様に童の心で勤めるのがこの矢の根の曽我五郎だそうです。市川右團次さんが勤められました。
夢枕に立った大谷廣松さん演じる兄 曽我十郎のお告げで戦いの装備を整えた曽我五郎が馬に乗る際、後見とイキを合わせてひらりと飛び乗るところが見せ場です!千穐楽、私は前方で拝見しましたが右團次さんが馬の胴に左足をかけようと飛び上がった際、一瞬馬にかけられた縄に左の足先がひっかかった様に見えましたが、右團次さんはさらに高く左足を上げてリカバーされました!
数秒にも満たない時間でしたが右團次さんの身体能力の高さに惚れ惚れしました…
さらに足を置く鐙(あぶみ)の部分も縄で出来ていて、足の親指だけをそこにかけて乗りこなすのは至難の業です。今年還暦を迎えられる右團次さんの年齢を全く感じさせない 童の力強さが溢れておりました!

外郎売

主役の市川新之助さんは本当に立派に勤め上げられました。
公演期間の前半に比べますと表情がキリリと大人っぽく成長されているのが実感できました。
初めての地方公演で主役、口上という大役でありましたが素晴らしかったです!夜の部の口上で中村梅玉さんも新之助さんを絶賛されておりました。 

景清

牢破りの後の大立ち廻りでは特大海老のセットがセリ出してくるのですが團十郎さん演じる景清が人知を越えた迫力で、上妻宏光さんの津軽三味線が効果的にそのテンションを際立たせており圧巻のフィナーレでした!
幕が閉じても、しばらく拍手が鳴り止まず新之助さんが私服姿で舞台袖に出ていらしてお辞儀をしてくださいました☆

夜の部 口上

何度か口上を拝見した中で印象的だったお言葉をピックアップしますと…
13代目團十郎さんは博多座こけら落としの際、お父様12代目市川團十郎さんの三番叟を2階席でご覧になっていたそうです!
口上のあとの13代目によるにらみで、新之助さんはいつも真剣な表情で前のめりでご覧になっていました。13代目もきっと同じ様な表情で12代目のお父様の三番叟の舞台をみつめていたことでしょう…胸が熱くなるエピソードでした!
中村扇雀さんも博多座こけら落とし公演の12代目市川團十郎さんと、扇雀さんのお父様4代目坂田藤十郎さんの共演について触れられ、いずれ坂田藤十郎を復活できれば…とお話しされていました。
江戸の團十郎と上方の藤十郎の競演が博多座で叶うことを期待しております!

歌舞伎十八番の内「暫」が博多座で初上演ということで團十郎さんへの期待、プレッシャーは並大抵のものではなかったと思います。 口上で13代目はたびたび「成田屋にとって暫は重き狂言」とお話しされていました。
千穐楽の「暫」では権五郎と、腹出しや、なまず坊主たちとのおかしみのあるシーンでは大いに客席から笑いが出ました。
そして花道でのツラネ、元禄見得、そしてクライマックス「やっとことっちゃうんとこなー」で花道を引き上げる迫力は全ての邪気を払ってくれる勢いで、拍手喝采でした!

番組でおよそ3ヶ月にわたってお届けしてきた一大プロジェクトでありましたが、少しでも皆様にその熱量が伝われば幸いです。
無事に千穐楽まで完走された團十郎さん新之助さん本当にお疲れ様でございました!

※めでてえなぁのコーナーはお休みさせて頂きました。次回ご紹介いたしますのでご了承くださいませ。
次回は9/26㈫午前10:00〜10:25 FM77.7MHzコミてん生放送です。

9/19番組アーカイブはこちらからご覧いただけます

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