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時間のなかの建築

建築の外壁には凹凸があります。時の経過によってこの凹凸に埃がたまり、風雨にさらされることによって建築が「風化」します。

特に窓まわりの入り隅になっているところや給気や換気の出入口についている部材(ベンドキャップという)の下部は雨水が下がりやすく「しみ」になりやすい箇所です。

コンクリート造の場合ですと屋上などのコンクリート手すり(パラペットという)の天端は雨水が外壁に流れないように内側に勾配が付けてあります。外部から見えない部分に雨水を流して外壁を綺麗に見せるためです。

それでも建築物は徐々に風化していきます。太陽に当たりにくい「北側」や季節風の当たる方向、周囲に植物がある場合は花粉などにより外壁は影響を受けます。

6ヶ月から1年くらいの建築を施工する工期の中でも既に「汚れ」始めてくる箇所はあります。

建築を施工して「お引渡し」があり、お客様に建物をお渡しします。この時、工事の内容はほぼ完全に終わっていますが、どこか完成しきっていないという感覚があります。お引渡しした後も建築は存在するのでその過程の途中であると思っています。

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一度「完成」させるときに建築は“あまり綺麗につくりすぎない”よう意識しています。常に余白のようなものを(感覚の中で)わざと残すようにしています。完璧につくりすぎてしまった場合、些細なことでも気になり神経質になりすぎると思っているからです。今後の経過していく中での「通過点」のように捉えています。

時間が経過し、建築が「風化」してきたときにこの「余白」の部分が良い方向に働き風化が「劣化」としてでなく良いものになると思っています。

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何十年後かを想像しながら、時間が経つにつれ価値が増してくるものをつくれるよう意識しています。


参考にしている本と内容を抜粋します。

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時間のなかの建築 モーセン・ムスタファヴィ 鹿島出版会

“建築は仕上げで終わるが、風化がさらにその仕上げをする”

“仕上げを建築の最終段階と見てはならないということである。そうして、仕上げたものに対する風化による終わりのない劣化と絶え間ない変貌が、建築の新たな始まりであり、変容し続けるその建物のさらなる「仕上げ」だと見るべきだということである”

“大量生産された部材を多く用いた建築は、建築家と施工者の関係を変えた。この種の建築では、施工者が身につけていた伝統的な工法の役割が減り、建築家が綿密に指定する工法で造られるようになったからである。建築家の部材組立てに関する指示なしでは、建設は不可能になった。そして、建築家の指示が不十分なこと、施工者の技能が劣っていることことが、建築部材を劣化させる主な原因となった。このように建設の過程で施工者が建築家に従属することで、彼らの関係は逆転した。それまでは「紳士階級」である建築家は、建設の実際は施工者の知識に任せていた。だが施工者の伝統的な役割が損なわれたことで、建設過程の監理も、自然環境における建築の寿命の予測もますます困難になった。”

“素材の風化による破損と崩壊は、建築の「機能の劣化」ということができよう。しかし、近代建築批判の場でもっとしばしば嘆かれているのは、風化による表層の侵食と汚れーしみーの堆積である。これは道徳的な問題を含んだ現象である。この種の表層の変化は、「審美的価値」の低下といくこともできよう。それは建築の“見栄え良く”も“悪く”もするが、見栄えの悪い風化は、雨水の流れたあとにできたしみ、あるいは空気の汚れや煤によるしみが建物の表層の特定部分に集中したときに起こる。このようなしみは、流れ落ちる雨水を妨げる突起した部分、すなわち上台、笠石、雨樋や他のディテールを誤って取り付けた場合にはっきりと現れる「平滑」ファサードによく見られる誤りである。特に表層を多孔質の材料、石灰岩やコンクリートでつくった場合には、外観はひどく損なわれる。雨水は空中や周辺の地面からの埃を建物の表層に残す。”

“風雨にさらされることは、また、汚染物質に侵食され、ごみが堆積することである。だがその2つー引き算でもあり足し算でもあるーは、ともに建物の生涯の証言記録でもある。”

“逆説的だが、風化は引き算によって、前からそこにあったものを生み出す。”

“建物が完成するとき、年月が経ったあとのはその建物の最後の姿は予想されてないのであろうか?ある種の建物は限られた寿命のものとして設計されるが、一方では永久に残ることを意図して、環境のさまざまな影響を受け〈時が過ぎるうち〉完全な姿となるように設計される建物もある。”

“風化の影響に対応するために、絶えず変化するという特性をもった建築材料の有効性を認め、活用する状況を作り出すこと、そして風化による仕上げ直しを、建築の再生として受け入れることである。”




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