空飛ぶストレート

　F1レースにおいては、痛ましい事故が多い。
　神山もその犠牲者の一人である。

　レース終盤、神山が搭乗した車は最高速をマークし、見せ場となるストレートでその事故は起こった。前方にいたトップの車がクラッシュしたのだ。神山の車はそれに巻き込まれ、車体は浮き上がった。

　一部の破片は、神山の頭ギリギリを擦っていった。その瞬間、ヘルメットが引っかかり、一瞬のうちに後方に飛んでいった。その後（時間的には、0.001秒後）、そのヘルメットを追いかけるようにストレートヘアが宙を舞った。

「なんだこれはーー！？」解説者が叫ぶ。
　
　そう、神山の頭から外れた、カツラであった。

　スロー再生映像では、ストレートヘアがゆっくりと頭を離れていく。神山の視線はそれを追いかけ、ゆっくりと頭を隠す。これが全世界に放送されたのである。

　これが、空飛ぶストレート・神山と呼ばれるようになった、痛ましい事故の全容である。なお、神山はかすり傷一つなかった。