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#41.発達障害の再診断

 扉を開けた先は、以前の病院と少し雰囲気の違う待合室でした。

 広々とした部屋にソファが4つと、一人用の椅子が5つ。奥には子供用のスペースでしょうか、小さなジャングルジムが設置されています。病院も色々なカラーがある模様。

 事前に予約していたので受付はスムーズに終わりました。こちらの病院でも尾長メンタルクリニックの状況は聞いているらしく、僕と同じように、転院先として受診している方もいるらしい。

 しばらくすると名前を呼ばれ、僕は診察室へと向かいました。

「初めまして、カバネさん。医師の坂口と言います。今回は大変でしたね」

 声を掛けてくれた先生は、僕とそう歳の変わらなさそうな、柔和な笑顔の男性でした。

「尾長先生のお話は伺っています。大変でしたね」
「いやぁビックリしました。これからどうしたらいいのかなと」
「転院先を探されていると思うのですが、尾長先生のところではどの様な診断でしたか?」

 そう聞かれ、僕は端的に状況を伝えました。
 1年前に双極性障害と診断されて休職。そしてリワークを経て復帰したばかりであること。途中、発達障害の診断を受け、現在は治療薬を服用中であること。
 その他、服薬しているのは双極性障害に対する気分安定剤。気分の高まりを抑えるものだとか。あと睡眠剤をいくつか。

「発達障害の診断についてですが、どの様な経緯で診断に至った、などはありますか?」
「経緯ですか?」
「例えば当院ではコンサータを処方する場合、心理検査を必ず受診して貰ってるんです」
「心理検査……?」
「WAIS―Ⅳと呼ばれるものですね。そういった検査はありませんでしたか?」

 ふむ……?
 思い出してみたけれど、尾長メンタルクリニックでは特になかったと思う。リワークでの取り組み、心理療法士さんからの観察や面談、そして日々の診察といったものが全てで。

「ではADHDやASDについて、ご自身でも自覚できる部分はありますか」
「それは色々とあります。リワークを通じて気付いたものが多いですが、忘れ物や遅刻を防ぐのに苦労したり……あとは言葉を字面通りに受け止めてしまったり。他には感覚過敏ですとか、とか」

 記したメモを頭の中でめくるように、これまでのエピソードを伝えました。

「なるほど。それは典型的、というか分かり易いですね」
「あ、典型的なんですね」
「先ほども言ったように、当院では心理検査を必須としているのですが……それはなくても良いと思います。心理療法士さんや尾長先生が日々、近くで診察しての判断ですから。カバネさんの話を聞いても、コンサータの処方が妥当と考えます」

 そうして改めて診断された発達障害。正直、ここで診断がガラッと変わってしまうと不安だなという思いもあったので、少し安心した自分もいました。

「他のお薬についてですが、何か気になることはありますか? 例えば、あまりご自身の身体に合っていない気がするとか」
「う~ん……大丈夫とは思います。いまは復帰直後で不安な時期と言いますか、ここで薬を変えるのも少し怖い気がします」
「では処方もこれまで通りで継続しましょう。もし気になる事があれば、都度、言ってくださいね」

 これも僕にとって一安心。病院を変えることで薬が変わる……それはちょっと避けたいなと感じていたので。

「あと、心理検査も希望があれば受診できますが、どうされます?」
「希望ですか」
「えぇ。心理検査というか、細かく言うとIQ診断みたいなものなんですが」

 坂口先生が仰るに、例えば言語であったり、或いは動作であったり、人のIQは幾つもの細かい分野に分かれているらしい。そして発達障害の人は、そのIQのばらつきが大きい傾向にあるそうです。心理検査を通じてその傾向を掴み、診断に用いるのだと。

「ですがあくまで目安と言いますか、こんな数値が出たから発達障害、というものでもありません」
「そうなんですか?」
「あくまで診断の材料ですね。検査結果、それにご自身のエピソードや特徴を踏まえ、最終的には医師が判断します」

 僕の場合はそう言った検査なしでも十分にバリバリの発達障害なので、特に必要はないのですが、と。

「ただ、ご自身の傾向を把握する材料にもなると言いますか、希望があれば受診も可能です」
「なるほど。僕の場合はリワークの取り組みで、実体験をベースに傾向を把握してきましたが……能力のバラつきを客観的に評価するのも、自己分析の一つの材料にできるという感じなのですね」
「その通りです」
「あ、じゃあ受けてみたいです。あくまで参考に、ということで」
「そうですね。検査結果や数値情報にこだわってしまう方もいますが、あくまで参考にとお考えください」

 そんな感じで、生まれて初めて受けることになった心理検査。あくまで一つの材料とのことだけれど、少し楽しみな自分もいました。


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