受験生は日が暮れる前に郷を目指すお話
昔々。あるところに受験生がいたという。受験生は旅立ちを翌日に控えて緊張しながらも厳かにその時を待っていたそうな。
某北関東と北関東某所のハイブリッドとして田舎でスクスクと育ったわたくしは受験を間近にして準備に終われておりました。
受験先は死にたいくらいに憧れた花の都大東京。薄っぺらのボストンバッグに旅の支度を詰めていきます。
当時、わたくしの住んでいた田舎から東京の受験会場までは電車とバスを乗り継ぎ、4時間近くかかる距離でした。
当日の朝に出発したのでは試験開始に間に合いません。
そこで、わたくしは前のりすることしました。
高校の先生とも相談し、宿や切符を手配して。
いよいよ出発は明日です。
わたくしは緊張しておりました。
それは受験そのものに対してよりも、
1人で電車に乗って東京に行ってホテルに無事チェックイン出来るだろうか?
ということにです。
当時わたくしの住んでいた村にはそもそも駅が無く、電車に1人で乗るようになったのも実は高校生になってからでした。
もちろんスマホもない時代です。とにかく時刻表を穴が空くほど見直して乗り換えの確認をしておりました。
なんとか。これならなんとかなるだろう。
時刻表もカバンにしまい、全ての準備は完了です。
居間で母が淹れてくれたお茶を飲みながら一息ついておりました。
そこへ父がやってきます。
「もう準備は出来たのかい?」
「はい!抜かりなく。」
「いよいよ明日だね。頑張っておいで。」
「はい!」
厳しくも優しい父と出発前に過ごす厳かな時間です。
「それで、宿は何駅にあるんだい?」
「はい!やまのてせんの
ひぐれさと駅です!」
「ブーッ!」
厳かな父がお茶を吹き出しましたとさ。
あ、もちろんその時受けたところは
落ちました。
そんなお話。
ちなみに。首都圏以外の方へ。
残念ながら東京を走る電車、山手線内にはひぐれさと駅なんてものはありません。
あるのは
日暮里駅と書いて『にっぽり駅』です。
とっぴんぱらりのぷぅ
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