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地球環境から考えるポストパンデミック資本主義

資本主義への挑戦と危機

我々が生きる「資本主義」の社会とは何なのか。特に2008年のリーマンショック以降、近年、多く耳にする機会がある「資本主義の行き詰まり」という言説について、否が応でも考えざるを得なくなったコロナ禍の状況。

低福祉負担、自己責任をベースとし政府が市場に干渉せず放任するという市場原理主義の世界、それこそが資本主義である。ところが新型コロナウイルスは結果として、この資本主義のシステムそのものに対する挑戦となって未だ世界中に身体的、心的、経済的に多大な影響を及ぼし続けているのだ。

日本においては、まず大きな打撃を受けているのは観光、宿泊、飲食、エンターテイメント、(日配品、生活必需品以外の)小売、住宅関連などのサービス業。こうした産業群は何とGDPの約7割を占める基幹産業群なのである。しかも、その多くが中堅、中小企業であり、非正規社員やフリーターの多い産業でもある。今や日本の勤労者の約8割は中小企業の従業員または非正規雇用が占めており、ローカルなサービス産業の危機は非常に多くの、しかも弱い企業や労働者とその家族を厳しい状況に追い込むメガクライシスなのである。(富山和彦『コロナショック・サバイバイバル 日本経済復興計画』P13-14)

私たちは、危機に直面することで、自らの存続には何が不可欠であるのかというシステムそのものに対しての疑問符を抱くこととなる。

加速される生態系破壊が招く結末

新型コロナウイルスが、結果として資本主義システムそのものへの挑戦となっており、あらゆる危機を招いているという事は既に述べたが、資本主義そのものがウイルスに接触する可能性を増大させているという捉え方がある。

五箇公一氏(環境研究所 生物・生態系環境研究センター室長)は、新型コロナウイルスを「経済的欲求、利己的欲求に乗っかって生きるウイルス」であると論じている。

『未来への大分岐』著者の斎藤幸平氏は、『群像6月号』の『コロナ・ショックドクトリンに抗するために』においてロブ・ウォレスを引用しながらこう述べている。

「資本主義は絶えず経済成長を追い求め、あらゆるものを商品化し、市場関係のうちへと引きずり込んでいく。その際には、新たな土地を求めて、残されている原生林もどんどん切り拓く。森林伐採と乱開発を継続すれば、未知のウイルスに接触する可能性は確実に増大する。」

さらに、それ以上の問題は、資本主義的アグリビジネスのモノカルチャーであると続ける。

「人間の手がそれほど入っていない自然が残っていれば、その複雑な生態系それ自体がファイアウォールとして機能し、病原体は簡単には拡散しない。表土には無数の微生物がひしめき、植物の多様性が存在する森林においては、病原体の伝染や増殖は自然淘汰によって抑えられているのだ。物質代謝が安定した状態にあるのである。だが、アグリビジネスはファイアウォールを破壊し、過密状態で飼育される単一種の家畜(例えば、豚)で置き換えてしまうのである。ウイルスはたくさんの宿主を見つけ、伝染を通じて進化を加速させていく。」

本来であれば複雑な自然界の生態系そのものが、人間社会にウイルスを侵入させないという天然の防護壁(ファイアウォール)の様な役割を果たしていた。だが、資本主義の利潤追求プロセスがその壁を破壊し、ウイルスが人間社会に侵入する経路を作ってしまっているのだ。

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また、『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』の著者である安宅和人氏は、こう述べている。

向こう数十年のうちに北極、グリーンランドの氷のほぼ全て、南極の氷の多くが一度は解ける可能性が高い。(中略)そうすると当然のことながら、泥炭地などからメタンなどの極めて温暖化効果の高いガスがまとまって出てくる可能性が高く、温暖化が更に加速する。さらに、我々の先祖の多くが苦しんだ様々な病原体(細菌やウイルス)が氷の中から出てくる可能性がそれなりにある。この中には100年前に5千万から1億人の命を奪ったスペイン風邪(Spanish Flu)のような強烈なインフルエンザのような風に乗って飛来する(airborne)ものがあってもおかしくはない。つまり僕らはパンデミックのタネの一連(series of pandemic seeds)にさらされ続ける可能性がそれなりにあり、そうすると今の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が去ってもなにか新しい伝染病との戦いが色々と続く可能性があることを心づもりしておくべきだということになる。
(『そろそろ全体を見た話が聞きたい2』より)

温暖化が引き起こす事象によって、人類が今後もウイルスの脅威に晒される可能性が高いという内容である。あらゆる方面、立場の方々が共通して、用いる表現は違えど、地球規模で人類の未来を真剣に捉え直さなければならないという論理的帰着に行き着いている。

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ガンディーの格言とポストパンデミック

再び五箇氏の発言から。こう警鐘を鳴らす。

「経済を成長させ続けて、自然界を縮めさせ続ければ中にいるウイルスはスピルオーバーを繰り返す。生物多様性を保全する意味は、中にいるウイルスたちの住処を奪ってはならないということ。パンドラの箱は絶対に開けてはならない。」

経済活動と生態系の破壊が同時に進んでいく事となれば、人類はこれからもウイルスに晒されるリスクは高まる。ウイルスに本来の住処があるとするならば、そこに留まってもらうという発想が必要になる。

「地球はあらゆる人の必要を満たすだけのものを提供してくれるが、あらゆる人の強欲を満たすことはできない」というマハトマ・ガンディーの言葉に立ち返り、地球環境保全と経済の両立の道を模索していこう。

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