2015.9.7 「頑張ってきたから」

 その日、私は東京の自宅で過ごしていた。夕刻、看護師さんから電話があった。いまとなっては、その内容を詳しくは覚えていない。

 いよいよです。とか今日が峠です。とかいった、ドラマで聞いたような言葉では無かった。いつもの通り穏やかに、ヘルパーからの連絡で予定外の訪問をしたと告げ、「これからこちらにいらっしゃるのは難しいですか。もし都合がついたら、お母さんの元に行かれた方がいいと思います。」その声に緊張感はなかった。けれど「せっかくいままで頑張ってそばにいらしたから、今晩は。」と言われたときに初めて、(あぁ、危ないってことなのかな)と気づいた。

 ぼーっとしたまま、こんな連絡が来て、と主人に告げると、彼が「すぐに行こう」と仕事の手を止め身支度を始めた。その様子を見て、(あぁ、やっぱりそういうことなのか)と思った。

 それでも、実家へ向かう道では、こうやって駆けつけることが何回もあるのだろうなと、これから増すだろう負荷への覚悟をしていた。