2015.7.18 「A先生が診てくれるなら」

 病院で抗がん剤に挑戦したいと伝えた5日後、主治医との面談が設定された。冷静に話ができるよう、主人にも同席してもらった。

 20分ほどの話し合いだったろうか。結論は、ひとまず退院、だった。自宅で暮らしてみて、辛ければ抗がん剤はしない、落ち着いて暮らせれば挑戦するということになった。

 主治医は、抗がん剤を投与すると必ず生活能力が低下すること、このため、いま病院で始めてしまうと家に帰れなくなる可能性があると説明した。帰れないというのは、つまり、二度と自宅で過ごせないまま死ぬということだ。これが私の決心を覆すこととなった。

 主治医は、自宅に帰っても、病状が急変したらいつでも受け入れると約束して下さった。

その約束と結論とを母に伝えると、「在宅医のA先生が診てくれるなら帰る。」と言った。

 家に帰って、美味しいご飯を食べて、体力を回復させて、抗がん剤を始めること。それが、その時の私たちの希望になった。

 その日まで54日。