『〇〇×わすれもの』からの追伸 「力を貸してください」
(見出しの写真:Photo by 潮見惣右介)
『〇〇×わすれもの』のあとがきに、当時わたしはこんなことを書き残しました。
わすれることを、わすれられることを、怖がらない。2年半くらい前に書いた文章、改めて読んでみるとなんてかっこつけているんだと思わずにはいられないけれど、いまも変わらず本音ではあるなと感じています。
何年後かにまた手に取ってもらえたら。その何年後かが、今ということになりました。今回『〇〇×わすれもの』の文章を期間限定で無料公開します。
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〇〇×(まるまるばつ)は、ひとつのテーマをもとに綴られたアンソロジー集の名前で、発案・かんのと編集・亜沙モモカで制作しています。
2020年12月に第一弾・テーマ:ラジオ の短編集を発売。
2021年11月に第二弾・テーマ:わすれもの の短編集(エッセイも混じっています)が発売されました。
『〇〇×』という名前は、見た目通り、なにかと掛け合わせるという意味を持っています。それぞれの文章にも、ラジオ×旅、ラジオ×違法、と内容を表したサブタイトルがついています。
予想以上の数の人に手に取ってもらい、「ラジオ」は完売、「わすれもの」の在庫も残り数冊となっています。注文が入り郵便局の受付に投函するとき、本が全国各地に広がっていくのはなんだか不思議で嬉しく、感想を送ってくれる方もいて有難かったです。
「わすれもの」
そう大きく言っても、うっかりわすれたもの、わすれたいのにわすれられないもの、わすれたくないもの、わすれていたけど取り戻せたもの... 受け取り方は様々です。
本の中にも、多種多様の「わすれもの」が出てきます。
わくさんの、電車の中に取り残された傘が持つ記憶
ちまきさんの、引っ越す前の家にあった生活
梶本さんの、壁に貼りつくおもちゃとその愛情を羨望する今
ギマさんの、信仰するように熱中したものを手放した瞬間
ふたつぎさんの、落とした言葉と付随する出来事について人と話をするということ
そうせき。さんの、鞄に紐づけられた「わすれてやらない」運命
カナナヱさんの、日常のどこから飛び出してくるかわからないきっかけ
藍生さんの、薄くぼんやりした記憶として人の中に残る他人
潮見さんの、景色に埋め込まれた見えない意味
かんのの、わすれたものを思い出すまでの空白と葛藤
おまるさんの、書き留めてわかる「わたし自身」
アンナさんの、移り変わるじぶんや脳に浮かぶ話題が流れるスピード
岩倉さんの、捏造のように変化する記憶との向き合い方
宇野さんの、元には戻らないし 元の形すらわすれてしまう時間の経過
14人14色の「わすれもの」に、もう一度触れてみませんか。
あなたが大切な/そうでもない記憶を、思い出す/わすれることにする、きっかけになれば幸いです。
きっと手を繋いで、一緒なら怖くない。
5月3日から5月11日の夜まで、無料で読めます!
GWの旅の途中や連休明けの気怠い生活の隙間で、覗いてもらえたら嬉しいです。
気になったものから!
○○×わすれもの 期間限定公開 掲載一覧 - 〇〇× わすれもの (hatenablog.com)
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以下、砕けた「わたし」の文章になります。
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わたしの部屋には、『〇〇×わすれもの』の販売時に出した宣伝チラシが貼ってあります。編集を全てやってくれている亜沙さんが要点をわかりやすくまとめてくれた、お気に入りの一枚です。
わたしはわたしが関わって発売された本のことが漏れなく全冊だいすきなので、基本的に見える場所に置いているし、順番に本立てに飾ったりしています。
チラシに書かれた2021年11月26日販売開始。その時はちょうど2年経とうとしていました。
第二弾のテーマを考え出した時に、何十もの案が出ました。その中には第三弾の大きなテーマにもなっている「匿名」も既にありました。他にも、ラブレター、熱中、音楽、などが出た覚えがあります。
編集の亜沙さんや特に仲のいい友人たちに話を聞いてもらいながら、いちばん読んでみたいと思えたという理由で「わすれもの」に決まりました。当時から記憶の曖昧さや喪失、書き換えというところに、強い興味がありました。結果的には、「わすれもの」とひとくちに言ってもたくさんの解釈があり、それらが出揃う一冊となったと思います。
制作中は、どうしたらわたしたちが好きだと思える本になるだろう。どうしたら人に手に取りたいと思ってもらえるだろう。そんなことを仕事中も食事中も睡眠前も、答えが出ない悩みを抱えるように、薄っすらずっと考えていたように思います。
本を作る時の、内側と外側の気にするバランスは、ひとつ前の本の時特に苦労した面でした。そこで出した具合が「自己ニーズの中に他己ニーズを見つける」。後に『鬱の本』のトークイベントで青木さんと鳥羽さんがお話されていたことが、この時自然とできるようになっていったと思います。割り切る、というとすこしマイナスの意味を持ってしまいますが、割り切るところ割り切る、心に素直に表現できている気がします。
わすれものの制作中に強く感じたのは、わすれることは失うことではないこと。そしてわすれることで生まれた「虚しさ」には種類があること。
(この本では)怒りと悲しみと安心が混ざって分かれていて、そこにものすごく大きなパワーが伴っている。叫びのような力強さ。ある記憶がなくなることは細かいことを言えばお皿を割ったり電車を逃したりするよりも数多く自然に行われているはずですが、それでもそこには力が生じているんだと気づかされました。生活でなにもなくても疲れるのは、数多をわすれていってるからだったりしないのかな。
思い出すことは、もっとだと思います。
そうして10月届いた本は「わたしがほしかった本」でした。
予定販売冊数手前まで一気に売れたので、ひとりよがりすぎもしなかったのかなと安心もしました。
そして時は2023年。家に貼ってある宣伝チラシを見ながら、全国各地に散らばった本たちの今を想像しました。仕舞っている人も、時々開いてくれている人も両方いるんだろうな。わすれられたり思い出されたりしながら、生活と一緒にあってくれればいいなと願いました。
それでもなんだかわすれらているような寂しい気持ちになったのは、わたし自身が2021年のことをだんだんわすれていってるからなのかもしれません。たとえば2021年、わたしはとてもつらい経験をしてくじけてばかりだった記憶がありますが、いまでは思い出さない日が増えました。当時の故郷静岡での生活をわすれながら、いまは関西で生活しています。
じぶんが仕舞っている本を開くタイミングのことを考えました。確認したいことがあった、中で使われていた台詞を思い出して全貌を読みたくなった、テレビで名前が上がっているのを見た、映画化された… いろんな鍵があって奥に手が伸びていく。鍵がなければ、奥に手は伸びない。
手に取るきっかけになるようなタイミングを意図的に作れないだろうか。
在庫も残り数冊だから、ここから完売したとしてあと数人にしか届かない。この本の中の文章たちはもっといろんな人に読まれたいんじゃないかと感じました。なによりわたし自身が、読んでほしいと思いました。
そうして、寄稿者の皆様にWebでの無料公開についてご相談させていただくことになりました。
寄稿者の方々にも既に説明しましたが、第三弾の制作に取り掛かっている段階でもありました。〇〇×としてなにかできることはないだろうか、と思っていたのも事実です。〇〇×自体を盛り上げ第三弾に繋げるために、という計算的な部分があったことは否定できません。こういうことも、ちゃんと書きたい。
わたしは〇〇×わすれものという本がだいすきです。校正含め、たぶんわたしがいちばん読んでいるので、掲載させていただいた全ての文章に愛情を持っています。
ぜひ、みなさんにも読んでもらいたい。この本はおもしろい。そして、この文章たちがあなたの「わすれもの」を思い出すきっかけになることを信じています。「わすれもの」の存在を認識して、それから取っておくかわすれてしまうか、一緒に選びましょう。
GWの旅の移動時間や連休明けの気怠い生活の隙間で、たとえばひとつだけでも、好きな作家さんだけでも、覗いてもらえたら嬉しいです。
一個読んだら全部読んでください!!!なんて。
お願いばかりで恐縮ですが、感想いただけたら嬉しいです。
メール berukana0701@gmail.com でも、X(@00Xqp)でも。
呟く時に#まるまるばつ をつけてくれたら見つけに行きます。
わたしの文章もぜひ読んでください。しばらくこれ以上のものは書けないと思います。それでも、小説を書き続けていきます。
赤を探す旅 かんの - 〇〇× わすれもの (hatenablog.com)
しばらくお願いすることないと思います。拡散や感想、力を貸してください。どうぞよろしくお願いします!
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