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バルセロナ―地中海都市の歴史と文化

『都市化の一般理論』(1867)の表紙には、「都市を田舎化し、田舎を都市化せよ」と書かれている。セルダは、拡張計画で、都市的な田園、つまり、都市のにぎわいと田園ののどかさを併せ持つまちを実現しようとした。どこの部屋にも陽射しが降り注ぎ、自然の風が吹き抜けるように、建物の高さは街路の幅20mより低く、四階建て16mに抑えられた。また、一街区四辺のうち二辺のみに沿って建物を建てられることとし、建物の奥行きは14m以下に規制されていた。街区の建物以外の場所はオープンな緑地として残されるように計画されていた。そうすれば、子どもは自ら住まう街区内の屋外で走り回り、お年寄りも街路を渡って出かけていかずに緑の中を散策できる楽園が実現する。

しかし、現在バルセロナの中心をなす格子状市街地を訪れると、緑豊かな田園都市のかけらもない。七階建ての建物が街区の四辺をがっちり固めている。セルダ拡張計画決定直後からすさまじい投機圧力に耐えきれず、規制緩和をし続けた結果である。

今日の拡張市街地は、セルダの綿密に計画したかたちとは大きくかけ離れている。とはいえ、この拡張地区が現在もなお、150年の歳月を越えてバルセロナの一等地として立派に機能しつづけている事実は、セルダ都市計画がどれほど先見性を備えていたものであったかを示すなによりもの証ではないだろうか。

現状、格子状に張り巡らされた街路は、一本おきに一方通行で、大量の車を整然とさばいている。セルダは、スペイン初の蒸気機関車が走るのを見て、「機械を動力とする個別輸送手段」が席巻する都市を見通していた。彼は上流階級が馬車に揺られて移動していた時代に、はやくもマイカーの行き交う都市を予測していたのだ。街区を隅切りして交差点を八角形としているが、これはまだ見ぬ自動車が交差点をスムーズに曲がれるようにするためであった。セルダは、本来の専門である道路設計の技術者としても、卓越した先見性を持っていたのである。

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