見出し画像

vol.104 太宰治「グッド・バイ」を読んで

著者が自死の直前まで執筆していた、朝日新聞連載の未完の小説。これがまたコミカルな作品で、続きが読みたなる内容だった。

あらすじ
主人公は、34歳、雑誌編集長の田島周二。闇商売で、しこたま、もうけている。彼は愛人を10人近く養っている。

終戦になり、細君と女児を実家にあずけ、単身、東京で稼いでいた。それから3年経ち、「なんだか気持ちが変わって来た。世の中が微妙に変わって来た」せいか、田舎から女房子供を呼び寄せて、編集長に専念しようとする。

そこで、差し当たっての難問が、愛人たちと上手に別れるためには、どうすればいいのか。

そこで、行動したのが、「すごい美人をどこかから見つけて来て、女房という形になってもらって、それを連れて、愛人たちを訪問すれば、愛人たちは皆だまって引き下がる」というものだった。

田島はすぐに実行し、たまたますごい美人の永井キヌ子を見つけて、事情を説明し、ひとりひとり愛人に会いに行き、ささやくようにグッド・バイをしていく。(あらすじおわり)

なんだか俗っぽい内容だけど、この田島周二と永井キヌ子の人間描写がたまらなく魅力的にかつコミカルに描かれていた。

この自死の間際に書かれた太宰の作品から、当時の太宰の心境を想像すること自体が、この作品の読み方を曲げてしまうようにも感じたが、恐れながら、当時の著者の気持ちを勝手に想像してみた。

「僕の人生、多難ばかりで、ぐちゃぐちゃだった。もう疲れたので、この世からグッドバイしようと思う。そう決めた途端に、なんだか軽みが出てきた。世の中も変わってきたし、僕の愛した女たちも変わらないとね」

画像1

「僕はもうずぐこの世を去るけど、女たちに、ちゃんと別れを告げなければね。これは道徳の問題だからね。「グッド・バイ」という小説を通して、できるだけ軽く、コミカルに、女たちに別れを伝えよう。たぶん未完になるけど、あとはよろしくね」

そんなふうに考えた。

太宰治という人間、あらためて不思議な魅力を感じる。

おわり

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?