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夢見る作家の半妄想日記2

「おーい」

あ、ごめん。テレビ見てた。

しまった後ろにいるのは……脚本くんか。
ついうっかり何気なしに点けていたドッキリ番組に観入って、話題から逃げようとした。
わざとじゃないよ。

「今年は脚本でいくんだよな!」

脚本くんが快活にそして何故か自信あり気にそう言ってくる。
なんなのだ? 脚本くんのこの自信はどこからくる!?

と、ごめんなさい。紹介がまだだった。

私にはふたりの彼氏がいる。

ひとりは、脚本くん。感情の起伏が激しく、オーバーリアクションになりがちなのにメンタルが繊細で落ち込みやすくて子供っぽい。
もうひとりは、小説さん。一見親切だけど、本当は言葉遣いや正義について口うるさい屁理屈屋だ。

私はこのふたりと関係を持って今年で3年目にある。

♪~3年目の浮気くらい多めに見ろよ
ありましたよね? そんな歌詞。
しまった!

「平成生まれのあなたがそんな昔の曲を知ってるなんて……」

はい、でてきました。小説さんです。
ここからめんどくさ……饒舌ですよ、彼は。

「3年目の浮気と言ったら〇〇(女性歌手)ですが、--年に流行った『△△』は知ってます?  流石に知らないか。僕らの年代といえば~~(知らないバンドの誰かその1)や~~~(知らないバンドの誰かその2)がいて、うんたらかんた~ら────……」

ほらね。
はぁ……私は耳栓を装着する。画面の向こうのあなたもいる?
旅行用に買って余ったやつがあるから、あげるよ。
はいどうぞ。いや、別に大したことないって!
耳栓した? うん、OK。じゃあ話を戻すね。

私は3年前、路頭に迷っていた。人生の生きる意味を見失っていたの。
正確には、子どもの頃からわからなかった。
私はどうしてこの地球で人間として、固有名詞として生きてるんだろう……。
誰もその答えに答えてくれなかった。
私が望む回答も得られなかった。
だから、当時23歳になっても私はどうやって生きればいいのかわからなかったし、毎日楽しくなかった。
そこにふたりが現れた。

最初は遊びのつもりだった。というか、文字を書くとか柄じゃないし、ダンスとかカラオケの方が好きだった。
読書なんてずっ…………………と、私が嫌ってきたものだからね。
最初のふたりの印象は、「なんか偉そう」。

私は下手くそだった。
今でも? ちょっと、誰あんた。

ゴホン!
(ゴホン!って文字に書くと滑稽だわね。)とにかく、私は文字が嫌いだったけど、短い文章を書き始めた。
寝る前に、浴室の中で、トイレで、音楽を聴いてるときに、ふと空を見上げた瞬間に、ストーリーは私の脳内で再生された。
これを人に話したらどうなるだろう。
少しは面白いと思ってもらえるかな。
面白いストーリーが作れたら、

────私の人生も、面白くなるかな。

300字いかないことも多かった。
書いて消して書いて消して……それでもやっぱり私の作品は下手くそだった。詩だったり、こんがらがって伏線も回収されない物語だったり、誤字も多かったけど、楽しんでくれる人がいた。

私は嬉しかった。
莫大な不安借金袋が少し軽くなるのを感じた。
頭の中のストーリーを、言語化するのは思った以上の負荷がかかった。
考えすぎて眠れない夜がいくつもあった。
呼吸を乱しながらも私は、楽しかった。
あぁ、このまま生きる意味になってくれればいい……って。

そして現在。
元来、優等生気質の私は病名”物事を極めなきゃ落ち着かない病”にかかり、趣味を通り越して仕事を請けるようになっていた。
野望もある。展望もある。
でも世界が私に対して甘くないのはこの26年間で身に染みてわかっていた。

「なぁ、聞いてる? 俺(脚本)と小説、どっちにするわけ?」

片足で地面を鳴らしながら、脚本くんは私に不満をぶつけた。
小説さんは黙ってこっちを見つめている。

「……どうかな! まだ3人で仲良くしてようよ! それだけの時間と余裕が、私にはあると思う」

「そっか」と、脚本くんは一瞬無表情になったけど、すぐに「金ロー同じ映画しかやらねぇ」と金曜ロードショーの放送作品について揚々と異議を唱え始めた。小説さんはいつの間にか乱雑に転がった本の整理をしていた。


(つづく……)

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