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波羅ノ鬼(ハラノオニ)という存在について③

はじめに

2020年8月30日にVirtual Artistの波羅ノ鬼さんの#2『サイレン』のMVが公開された。4月末に公開された#1『トラウマ』の続編となる待望のオリジナル曲だ。


おさらい

『サイレン』は#1『トラウマ』からストーリーが続いているため『サイレン』について語る前にまずは『トラウマ』のおさらいから始める。

『トラウマ』では鬼の村で幼少期を過ごす波羅ノ鬼さんが描かれている。辛いこともあるけれど、母親(らしき人)と幸せに暮らしていた。しかし、その幸せは桃太郎の襲撃によっていとも容易く崩れ去ってしまう。波羅ノ鬼さんは母親に庇われ一命を取り留めるが、謎の稲光を受けて姿を消してしまう。
『トラウマ』についてはMVと合わせて拙作「波羅ノ鬼(ハラノオニ)という存在について②」を読んでいただけると、理解と考察の一助となる。

サイレンの考察

サイレン/波羅ノ鬼
ただ同じ時間を過ごした 他人より少し近い距離
心を許して傷ついて繰り返したんだ
無意識に歯を食いしばって 苦しさを我慢していたよ
いつしか一人でいることを 選んでいたんだ
ため息はいつも 夕暮れとサイレン
誰かを呼ぶ声 羨ましくて
呪いそうだよ
でもね 待って 待って 私も
解って欲しくて ここに居るのに
誰かを嫌って 解ろうなんてしないで
馬鹿らしいくらい 矛盾だらけだ
気付いているけど 気付きたくないの
きっと

助けてくれる時はいつも 優しく笑ってくれるけど
時間がたてば離れていく そんな繰り返し
無意識に距離を作っては 期待も善意も遠ざけた
出来損ないな私だから 仕方がないんだ
涙の後には 夕闇とサイレン
誰かを呼ぶ声 羨ましくて
変わろうとしなきゃ 変われない事
奥歯を噛みしめたんだ
進むために
解って欲しくて ここに居るなら
誰かを嫌って そんな私じゃなくて
馬鹿らしいくらい 君のためなら
走っていける 私になるの
絶対

星が降る夜 語り合うような
未来も希望も 役に立たないとしたって
走るよ

君を守ると 決めた時から
何かが変わった そんな気がしているんだ
馬鹿らしいほど 単純だけど
それでいいと これでいいと 言って

ただ同じ時間を過ごした 他人より少し近い距離
心を許して傷ついて 君に出会えたよ

『サイレン』は、波羅ノ鬼さんが大正時代(1926年)の渋谷駅に飛ばされた場面からスタートする。彼女の傍には忠犬ハチ公で有名なハチがおり、『サイレン』は彼女とハチの心の交流を主軸に進んでいく。本稿では、『サイレン』のストーリーと前作『トラウマ』で生まれた疑問点を絡めて考察していき、彼女のバックボーンを紐解いていこうと思う。

・鬼は長寿族である
波羅ノ鬼さんは『トラウマ』のラストで現代に飛んだと予想していた。しかし、実際は大正時代に飛ばされ、そこから現代まで生き続けている。桃太郎に鬼が殺されている様子から、鬼族には物理的な死はあるが、人よりも寿命は長いことがうかがえる。また、1926年から現代まで約100年生きていても波羅ノ鬼さんは若い姿を保っている。鬼は老化の速度も人と異なるのだろう。

・角の破壊
人間にとって異質の存在の鬼である彼女は、子供から迫害を受ける。その行き着いた先は角の破壊であった。『余命宣告』では同族の鬼に角が壊されていたが、これは波羅ノ鬼さんの恐怖の対象が『鬼』として表現されているのかもしれない。
『余命宣告』はあくまでも彼女の存在証明の曲、自己紹介のような曲であるので、『トラウマ』や『サイレン』のような彼女のヒストリーとはコンセプトが異なる可能性がある。

・恐怖からの逃避とその克服?
『余命宣告』でも『トラウマ』でも、波羅ノ鬼さんは恐怖の対象から逃げ続けている。また、『トラウマ』では彼女が逃げたことが原因で大切な肉親を失っている。『サイレン』でも同様に自分を襲う子供からハチを置いて逃げているが、これは忠犬として周囲に受け入れられているハチと、忌み嫌われている自分が一緒にいることで、ハチに危害が及ぶことを危ぶんだ『大切な存在を守るための逃避』なのかもしれない。これは以下の歌詞からも窺えるし、彼女が見せた涙は恐怖の涙よりもハチとの別れを惜しむ涙のように見受けられる。

変わろうとしなきゃ 変われない事
奥歯を噛みしめたんだ
進むために

この逃避は、人間に奪われてしまった母親の形見である懐刀をハチが命を賭けて守ることで幕を閉じる。幼い彼女にとって大切な存在を守る方法は『逃避』するしかなく、それがまた大切な存在を亡くすことに繋がってしまった。彼女はその弱さを切り捨てるように自ら髪の毛を切り、『サイレン』の回想は終わる。
『サイレン』とは、波羅ノ鬼さんが『トラウマ』を乗り越えるための『siren=試練』としての1曲なのではないかと考える。

波羅ノ鬼さんが犬を好きな理由
波羅ノ鬼さんの嫌いな物は「豆・桃・雉・猿」である。一方で好きな物は「犬・カエル」である。鬼が苦手とする物の中で、何故か犬だけが好きな物に入ってることがファンの間でも疑問の一つであった。悲しい結果に終わってしまったが、波羅ノ鬼さんの母親の死に対する絶望や見ず知らずの地に飛ばされた孤独を癒したのはハチであった。彼女が犬を好きになるのも当然のことだろう。

・ラストシーンの女性
『サイレン』のラストで波羅ノ鬼さんはハチ公前でとある女性(水色のマニキュアをしているので)と待ち合わせをしている。この女性は誰なのか、#3で明らかになるかもしれない。もしかすると、今作のように彼女の好きな物に影響を与えた人かもしれない。

・その他の考察
①波羅ノ鬼さんは記憶喪失か?
1926年に飛ばされて母親から譲り受けた懐刀を見た瞬間に母親の事を思い出しているし、『トラウマ』でも過去を回想しているので、記憶喪失はないだろう。
②『余命宣告』の女性について
『余命宣告』は『トラウマ』、『サイレン』と立ち位置が異なるから、『余命宣告』の女性=『トラウマ」の母親で良いと考える。

さいごに

『サイレン』が投稿されたことによって、ナンバリングされたシリーズは波羅ノ鬼さんストーリーを歌った曲であり、彼女の経験を追体験することができることがほぼ明確になったのではないかと思う。
オリジナル曲『余命宣告』の投稿から約1年経過した。オリジナル曲、カバー曲、弾き語り、LIVE、と波羅ノ鬼さんは精力的に活動の幅を広げて来た。今後も力強いエモーショナルな歌声で素晴らしい作品を世に出していってくださると思うと、彼女からますます目が離せない。

※本稿のサムネイルは『サイレン』のサムネイルを拝借した。
2020.08.31
Kei_Waga(@k_waretuma

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