星野源 ”知らない”
先日、自分の誕生日に、ずっと行きたかった場所に行ってきた。
東京、隅田川に架かる「相王橋」(あいおいばし)。
星野源が好きな人は、このエメラルドグリーンの鉄橋を見てピンと来るかもしれない。
そう。ここは、”知らない”ミュージックビデオのロケ地なのだ。
自身、4枚目のシングルとして2012年にリリースされたこの楽曲は星野源のシングル群の中でも異彩を放っている。
まず、ライブでなかなか歌われない。
ソフト化されたライブ映像で”知らない”の演奏が観れるのは、
2014年リリース『STRANGER IN BUDOKAN』のみ。
自身の音楽的道のりを見せるコンセプトだった
『Live Tour 2017「Continues」』でも、
「その時の自分のやろうとしたことがちょっとずつ身になっているような
気がして」
とMCで当時を振り返り披露されたのは
1st~3rdシングルまでで、”知らない”は飛ばされてしまった。
この辺りは、本人が”知らない”を語るときの口の重たさにその理由(わけ)を感じることが出来る。
収録アルバム『Stranger』の本人全曲解説という企画が組まれた
『YELLOW MAGAZINE 2017-2018』ではサビと大サビの歌詞について
「説得力を持ててる」と自賛するも、逆に説得力を持ててるのはそこだけ、と語っている。
「自身の過去の曲を否定しない」と語っているだけに、この”知らない”を
語るときの星野はどこか歯に物がはさまったような口ぶりになる。
詞・曲・アレンジともに納得のいくものでなかったことは確かだろう。
そして、僕はこの曲が大好きだ。とても。
灯り消えて気づく光 ただ夜の中に 君が消えて見えるものも まだあるんだな
歌い出しはこのように始まる。
リリース当時は濁されていたが、前述のYELLOW MAGAZINEや、
MUSIC VIDEO集『Music Video Tour 2010-2017』でこの楽曲は、
星野の友人の子供が生後間もなくして亡くなったことを受けて衝動的に作られた楽曲、であることが語られている。
終わり その先に 長く長くつづく 知らない景色
「知らない」とはずばり「残された者のこの先の人生」のことだ。
さらに、「死後の世界」のこととも解釈できると自分は思っている。
寂しいのは生きていても ああ 死んでいても 同じことさ その手貸して
まだ歩けるか
星野の歌詞でここまで直接的に〈死んでいても〉と歌われることは珍しい。
この辺りが、本人的に納得いっていない部分かもしれないが、リスナーとしてはドキリとするフレーズである。
なにも聞きとれない 君に僕は どんなことが歌えるだろう 意味を越えて
この曲で一番、グッとくるポイントがこの大サビだ。
星野の楽曲史上、一番といっていいほど、地声で張り上げて歌われている。
”知らない”が異彩を放つポイントの一つに、このボーカルがある。
サビと大サビのメロディーにいわゆる「星野源節」みたいなものは感じられず、他の楽曲では聴けない、力強く叫ぶような声で歌われている。
まるで、悲しみにうちひしがれ部屋で一人泣き叫んでいるような。
このボーカルが詞と相まって、”知らない”を深く胸を打つ楽曲に仕上げている。
さよならはまだ言わないで 物語つづく 絶望のそばで
温もりが消える その時まで
このように歌われて、曲は終わる。
叫ぶようなサビを繰り返す最後は圧巻だ。
この時期の星野源はやたら「妄想と現実」とか「生と死」をテーマに曲を
書いている。(この辺りはまた違う記事で描きたいと思う)
その中でも”知らない”は「死」というものを劇的過ぎず、
〈知らない〉という絶妙な言語感覚を使って描き切った傑作だと思う。
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