マガジンのカバー画像

地方から眺めた社会

36
愛媛県南予地方に暮らしながら、社会の在り方を眺めて思ったこと。 400字程度の短い記事を月に1-2本投稿しています。 最近は不定期更新。
運営しているクリエイター

#八幡浜

「市民アンケート」の使い方

2023年9月。 八幡浜市役所から1通のお知らせが届きました。 内容は、市の土地利用に関する市民アンケート回答者を集めて実施する予定だったワークショップを実施しないことにした、というもの。 回答した際に参加を希望していたため、私にも送られてきました。 アンケートの対象となった土地は、電力会社の事業所が移転したことで空いた、それなりの広さをもつ土地。 市外からの訪問も多い八幡浜港フェリーターミナルや道の駅と中心市街地のちょうど間に位置しており、街づくりを左右する開発計画になる

未成年者の行動はどこまで制限してよいのか

2023年8月。 私がお手伝いしている事業所に、夏休み中の期間限定で地元の高校生が数人働きに来ていました。 働いて稼いだお金をどう使うのか、気になって訊いてみたところ、皆さん特に決めた使い途は無いとのこと。 市内にある遊興施設、カラオケボックスやボウリング場で遊ぶ際にでも使うのかと思って尋ねたら、八幡浜市全体の決まりでそういった施設に遊びに行くことはできない、と予想外の回答が返ってきました。 まさかと思って調べてみると、八幡浜市役所のWebサイトで公開されている「小・中高校

「厚意」が「残念」を生まないために

八幡浜市内を流れる五反田川では、毎年5月中旬から6月上旬にかけて、鯨橋という橋の周りを中心にホタルが飛び交います。 地域の方々が保護活動にも長年取り組んできた成果として見られる光景で、今年もたくさんの柔らかな光が明滅しながら乱舞する様を楽しめたのですが、一つ残念な事件がありました。 この期間中に行われたボランティア活動の草刈りによってホタルが減ってしまった、という事件です。 そもそもホタルが発光しながら飛び交うのは、交尾して産卵するための行動です。 ホタルは川べりの草木が作

人が減るまちの人手不足

八幡浜でも夜の街の賑わいが戻りつつある中、ある問題が顕在化しています。 それは、代行運転サービスの不足。 感染症対策の外出抑制が行われていた間に事業者が廃業したり運転手が減らされたりしたため、回復しつつある需要に対してサービスの供給が追い付いていません。 週末の夜に代行運転を頼んだら1時間以上待つことになった、という話もたびたび聞きます。 車社会な地方都市の飲食業界にとって、なかなかに頭の痛い問題です。 誰か代行運転業を立ち上げてくれないものか、という声もよく耳にするのです

住み心地のよい街とは

2023年5月。 香川県多度津町を訪ねた際に、北米のとある大都市に住む方とお話する機会を得ました。 その方がおっしゃるには、いまお住まいの街はどうも住み心地が良くないとのこと。理由を尋ねると、再開発が繰り返される都市であるためか町並みや風景から街の歴史的民俗的背景を感じにくく落ち着かない、ということをおっしゃっていました。 とても興味深い視点です。 その方は考古学の研究をされていることもあってそうした面への関心がとりわけ強いのだろうと思いますが、街の姿から歴史的民俗的背景を

方言と郷土愛

2023年3月。 南予一期座だんだんの第3回公演「風の音リンリン」を観覧しました。 坊ちゃん劇場所属の方が演技指導を行い、八幡浜や近隣地域在住の方々が地域を題材にしたミュージカルを演じる市民劇団の公演です。 第1回、第2回の公演も観覧しており、今回も楽しみにしていました。 劇中、会場全体が一体となって大いに盛り上がる場面がありました。 「てやてや音頭」を踊る場面です。 これは夏祭りの際などに踊られる盆踊り風の音頭で、語尾に付けて強調や断定を意味する「てや」という八幡浜方言を

Uターン者・移住者の居場所

愛媛県南予地方にUターンして来られた方、移住して来られた方とお話をする中で、よく聞く課題感があります。 それは、同年代の人と知り合う機会が無い、生活していて孤立しがちになる、といったもの。 私自身も感じる課題です。 人の入れ替わりが少ない地域で暮らす多くの人は、子どもの頃から続く長年の人間関係の中で生活しています。 ご近所さんや代々地域に根付いている親族関係、小中高とあまり顔ぶれの変わらない学校の同級生。 そのような固定された人間関係に新しく混ざっていく負担はなかなか大きい

漂着ゴミを拾った後の話

前回に続いて、2022年12月に参加した(一社)E.Cオーシャンズさん主催の海洋ゴミ回収体験事業「鬼ごみ拾い」のお話を書きます。 今回、私は全4日間の日程のうち後半の2日間参加したのですが、漂着ゴミを拾う作業に従事したのは実はそのうち半日間だけでした。 残りの1.5日間は何をしていたかというと、運搬に関する作業です。 前半日程で無人島の浜に集められたゴミを船で港まで曳航する作業、ゴミ拾いで活躍した船の船底塗装を直す作業、焼却処理施設に運ぶためのトラックにゴミを積み込む作業な

季節労働のまち

2022年10月。 八幡浜市内の各戸に、郵便局のアルバイト募集の案内が配られました。 10月から八幡浜は“みかんの季節”に入ります。 愛媛県内の温州みかん生産量の半分を生産する八幡浜市では、秋から冬にかけて郵便局もほかの運送業者もみかんの発送取り扱いで大忙しです。 それに備えた求人だったのでしょう。 この時期、ハローワークの求人もみかん関連のもので大きく増えます。 地域の主要産業の書き入れ時に人手を確保するため、官民一体となって地域の外からの“みかんアルバイター”募集にも取

地方で始めてみた「哲学対話」

八幡浜で「哲学対話」を始めてみました。 「哲学対話」とは、日ごろ疑問に思うことなどから問いを立て、みんなで考えを話し合ってみる場です。 例えば「なぜ働くのか」「友だちとは何か」「『有意義』とはどういうことか」など。 その目的は、著名な哲学者の論説等を学ぶこと等ではなくて、深く考えることに慣れたり、いろいろな考え方があることに気づいたりすることにあります。 東京をはじめとする都会を中心に実践が広がっていますが、地方でこそこの取り組みを広めてみたいと思い、継続的に開催していくこ

老人クラブの活躍

2022年8月。 八幡浜市保内町の夏の風物詩、平家谷のそうめん流しを訪ねました。 源平合戦で敗れた平家方の落人が暮らしたと伝わる平家谷。 旧国道の山道から階段を下った渓谷で、地域の老人クラブの方々が毎年夏にそうめん流しを運営されています。 幼少期に親に連れられて以来、およそ25年ぶりの訪問。 感染症対策でそうめんを流しはせず、1人用の大皿から取りながらの食事でしたが、生い茂る木々が日差しを遮り、せせらぐ川に沿って涼しい風が吹く快適な環境の中、お腹いっぱいにそうめんを堪能し

ミニ四国霊場

2022年7月。 “お四国山”と呼ばれる山道を歩いてみました。 八幡浜市中心部を流れる千丈川の南側、およそ1時間で歩けるこの道は、道沿いに四国八十八か所霊場の名を刻んだ石碑や石仏が並び立ち、簡易的な巡礼ができるよう作られた霊場です。 江戸時代末期に地域の豪商の発願で設けられたと伝わっています。 標高130mほどを登る山中の道、荒れてしまってはいないかと心配でしたが、枝葉や蜘蛛の巣に覆いつくされるようなことはなく、暑さと蚊を除けば快適に歩くことができました。定期的に手入れが

まちを知る場

愛媛県八幡浜市には、歴史資料館や博物館の類いがありません。 その代わり、市立図書館の一角に「郷土資料室」があります。 資料の展示によって郷土を学ぶ機会を提供する場なのですが、展示資料のほとんどは郷土の偉人・二宮忠八についてのもの。 これでよいのでしょうか。 二宮忠八は明治から昭和の初めにかけて活躍した実業家で、有人飛行が可能な構造をもった飛行機模型を世界に先駆けて発明していた人物です。 類い稀な先見性をもち、勤めていた製薬会社でも抜群の業績を挙げていた彼が郷土の偉人として

ミュージカルで観る“まち”の姿

2022年5月。 南予一期座だんだんの第2回公演「ミンナ愛顔 八幡浜市編」を観覧しました。 坊ちゃん劇場の演技指導のもと、八幡浜や近隣地域の方々が地域を題材にしたミュージカルを演じる市民劇団。 第2回となる今回の公演は、もともと3月に上演予定だったものが新型コロナウイルス感染症対策のため5月に延期され、ようやくお披露目となった舞台です。 アマチュアとは思えない素晴らしい演技を観せていただきました。 演じられたのは、児童数の減少で閉校となる小学校を軸にした物語。 アジア太平