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Bartlett School of Architecture, UCLとMArch Design for Performance and Interactionについて(デザイン留学Advent Calendar 2019, 12/10)

アドベントカレンダー10日目分の記事です。今回は自分がGoldsmithsのGraduate Diploma修了後に入学し、先日卒業したBartlett School of Architecture, UCLのMArch Design for Performance and Interactionについて書きます。


University College Londonについて

コースの説明と合わせて、母体となるUniversity College London(UCL)についてもざっくり説明します。過去の記事でも何度か触れていますが、イギリスの大学院コースは学校そのものの全体的な特色が強く影響していると感じるからです。

UCLは総合大学で、経済学部や法学部など文系学部が比較的有名です。一方で神経科学領域でもとても有名です。DfPIでは、1学期目に脳科学やCybernetics(サイバネティクス)* という概念の理論に触れながらインタラクティブなシステムのデザインについてディスカッションしたり評論を書くクラスがありました。

* Cybernetics(サイバネティクス)
神経系、心理学、ソフトウェアなど生物的・機械的問わずシステム間の制御やコミュニケーション、情報処理をフィードバックループという相互関係に基づいて捉える横断的な研究領域。

https://www.keisu.t.u-tokyo.ac.jp/2018/01/09/i03_01/
https://1000ya.isis.ne.jp/0867.html

Bartlett School of Architectureについて

Bartlett School of ArchitectureはUCL傘下の建築学校です。建築界隈ではQS大学ランキングで1位になるくらい有名です。

建築領域出身ではない私には他の建築学校と比較することは難しいですが、Bartlettは基本的に手を動かしてなにかをつくる実用的なクラフトスキルを身につけることよりも、理論ベースで新しいアプローチを試みることが推奨される環境です。メインキャンパスで行われる学内の展示では、建築に関係あるのか一見分からない実験的なマテリアルやオブジェクト、メディア装置がたくさん展示されています。

MArch Design for Performance and Interactionについて

MArch Design for Performance and Interaction(DfPI)は開講して今年度で3年目のプログラムです。とはいえ、その前身としてインタラクティブな要素を含む建築や空間デザインを研究するコースがあったらしく、そこがよりパフォーマンス関係にフォーカスして転身した経緯があります。
キャンパスは大英博物館の近くにあるメインキャンパスではなく、オリンピックスタジアム近くにあるサテライトキャンパス内にあります。建物はオリンピック・パラリンピックの間、報道関係の施設として利用された施設を再利用していてめちゃくちゃでかいです。

現在コースが包括するプロジェクト領域は、動く巨大な立体物を設計したりパフォーマンスアート向けの装置をデザインしたり、音や光といった情報の新しい知覚方法を研究したり、かなーーり幅が広いです。ただ、物理空間ないしは仮想空間での人や物の動きを扱い何かしらコミュニケーションの仕組みをデザインする部分はどのプロジェクトも共通しているかと思います。

コースはリサーチベースのプログラムで、基本的に15ヶ月通してずっと同じテーマで個人またはチームでプロジェクトを進めます。2学期目から面談した上でRobot系・Motion系・Sound系の3クラスタのうちの1つに配属され、クラスタのチューター陣との週1チュートリアルと1つの学期に数回行われるCritsという講評会を重ねながらリサーチプロジェクトを進めます。

なおクラスタの正式呼称は「201」「202」「203」という番号で名称はなく、Robot系クラスタに入ったから必ずしもロボットを扱わないとダメというわけでもないです。私はRobotクラスタに入りましたが、同じクラスタにはロボットではなく音を扱っているクラスメイトもいましたし、逆にSoundクラスタで音以外のことをやっているクラスメイトもいました。みんな所属チューターの個性で入るクラスタを選んでいたと思います。また、クラスタの分け方については年々変わってきていると聞いてます。

*DfPIのざっくりスケジュール
1年目 9-12月:
 ・基本的なプログラミングや身体性、音に関連したワークショップ
 ・Contextual Learning(基礎理論などの文脈学習)
1年目 1-3月:
 ・個人またはチームで決めたテーマでプロジェクト開始
1年目 4-7月:
 ・各々のプロジェクトのブラッシュアップ
1年目 8-9月:
 ・卒論提出
2年目 10-12月:
 ・各々のプロジェクトの最終ブラッシュアップ
 ・卒業展示

入って感じたこと

ここからは入ってから個人的に抱いた所感。いくつかは別日に深堀りすると思います。

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・多様なバックグランドの学生と協力し合える
母体は建築系の学校なのでクラスメイトは建築や空間デザイン出身者が多かったですが、他にもパフォーマーやメディアアーティスト、クリエイティブコーダーなどいろんなバックグラウンドを持つクラスメイトがいました。
正直チューターが学生の問題を全て解決できるわけでもないので、クラスメイト同士で助け合ったりする場面は多かったと思います。

・キャンパス設備が良い
私が入ったときはキャンパスが新しく、広い設備をある程度自由に使えました。メインキャンパスの学生と比べて私達の作業スペースは倍くらいありました。上の写真のようにオープンな空間なので、同じフロアの「Design for Manufacture」や「Biointegrated Design MArch」の学生らと絡む機会も多少ありました。
また、工房にはエンジニアリングに詳しいスタッフが多く、手を使った物理的なデザイン作業はほぼ未経験だった私はだいぶ助けられたと思います。

・実用性からは半歩離れた視点でインタラクションデザイン分野に取り組むことができた
上2つと比べて、これはかなり個人的な感想です。
コース名は Design for Performance and Interaction となっていますが、チューターらの興味はパフォーマンスや表現的側面に偏っていて、実用性や社会実装性などはそれほど重要視されていないと感じます。(正直コース名はInteractive Design for Performance and Artsなどの方がしっくりきます。)
パフォーマンスなどの理論を実用面から応用して、物理空間でのインタラクション性にフォーカスしたインタフェースデザインを研究したかった私や他クラスメイトは入った当初結構がっかりしていました。
ただ、人間中心設計とかUI・UXといった言葉の代わりに、StorytellingやNarrative、Memory、Emotionといったある種ポエティック/アーティな言葉が飛び交う環境だからこそ、それらHCI系にはあまり普及してない要素と自身が関心を持っていた実践的なインタラクションデザイン領域を複合的に組み合わせてプロジェクトに取り組むことができたのではないかと思います。結果的には、最初自身が狙っていた「パフォーマンスなどの理論を応用して〜」は実行できいたのかもしれません。


ここからはデメリット。

・カリキュラム、スケジューリングの粗さ
以前いたGoldsmithsのGraduate Diplomaと比較すると、Bartlett DfPIは開講して2年目であったこともあり、カリキュラムの細部やスケジューリングはかなりガタガタでした。
プログラミングや3Dアニメーションのレクチャーはかなりスローペースだったり、外部ゲストを呼んでの批評会のはずが全然ゲストが来なかったり、インスタレーション設営準備の日に他のイベントがあったり。Performanceを扱っている以上仕方ないのかもしれませんが、中間発表展示の頻度も多すぎると感じました。(トータル4,5回行いました。)

・クラスタ間でのサポートが協力的でない
上でも書きましたが、コースにはクラスタが3つありそれぞれに専属チューターが配置されています。クラスタを横断して質問したりもできるはず、、なのですが、各チューターは自分のクラスタの学生を優先的にサポートしていて他クラスタの生徒のことはあまり見てくれません。また、クラスタごとにテクニカルなサポートが強い・弱いなど偏りがあったりもします。
ここらへんのサポートがもっとクラスタ間で協力し合えるようになると、コース全体としてもっと良いものが生まれるんじゃないのかなと感じます。

・Architectsの教育とインタラクションデザイン領域の不整合さ
上記でも書きましたが、プロジェクトはCritsと呼ばれる講評会を節目節目に行いながら進めることになります。Critsは建築系や美術系の学校では当たり前の文化らしく、みんなCritsが近づくとプレゼンに向けて大急ぎで準備を始めます。
講評会は他者の目に晒してもいいクオリティを保証するシステムだとは思います。ただ、別領域出身の私からは多くのクラスメイトは頻繁に行われるCritsのためにプロジェクト自体をデザインしているように見えて、中長期的な目的を持って取り組むべきインタラクションデザイン分野のプロジェクトとしてみると本末転倒な印象をずっと感じていました。
他にも細かい点でいろいろ疑問に感じる点があるのですが、まとめて別の日分として書きたいと思います。

まとめ

基本的に、MArch Design for Performance and Interactionはデザイン思考やHuman Centered Designといった実践的なインタラクションデザイン分野に関心がある人にはおすすめしません。そもそもロンドンのデザイン教育は全体的にかなりメタ思考で、すでに出回っているスキルや考え方の先(ある種の哲学)を自分で築けるようになることを求められがちです。即利用できそうな実用性重視のデザインスキル獲得にフォーカスしたい場合、あまり向いていないと思います。

このコースは物の動きや音、光といったメディアを扱ったクリエイティブコーディングやインタラクティブなパフォーマンスメディアのデザインを学びたい人、それらを別領域に応用したいデザイナーやエンジニア、クリエイターなどが来るべきコースだと思います。

もし詳しく聞きたいことなどがあればFBなどから個別に連絡ください。






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