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推しがいるだけで救われる程度の命

 久々に些細な出来事に怒り狂っている。いやそれまで怒りを感じなかったというわけではなくて、表に出ることが少なかっただけだが(私の沸点そのものはかなり低い)。そして些細でないことには怒りを発露することもなくもはや諦観ですべてやり過ごしている。ちなみに煙草を吸う本数にそこまで変化はない。嬉しい時も悲しい時もムカつくときもバカスカ吸いまくってるからね

 推しという概念がよくわからない。当然だが辞書的な意味を述べたってここでは無駄だろう。
 この世界には俳優、アイドル、バンド、スポーツ選手、創作上のキャラクター、はたまた乗り物や建築まで、人間ではないものも含め様々なオタクがいて、それらへの愛を日々表現している。世はまさに「大推し活時代」だ
 推し活に勤しんでいる人々は概ね誰もが楽しそうだ。各々の「推し」を熱烈な視線で見つめ、あるいはその愛を他の誰かに語るときの彼ら彼女らの表情は実に明るく、生き生きとしている。
 なぜ彼らは推しとやらにそこまで熱意を注げるのだろうか。正直私にはろくすっぽ理解できない。
 推しを「推す」ことは実のところそう簡単ではない。まずグッズを買ったりライブに行ったりするためにはそれなりの金がかかる。まして愛の強さゆえに全国各地に遠征してまで推しに会いに行こうものならなおさらである。その場合金だけでなく体力も必要になることは言うまでもない。
 推し活の本質とはすなわち、「他人を応援すること」である。そして他人を応援するためには自分自身にある程度余裕が必要だ。金銭的にも、精神的にも。
 自分自身のことで精一杯な人間が他人を応援するのは、はっきり言って現実的ではない。であれば、逆に推し活に精を出せるのはきっとある程度私生活が充実していて、自分の心の器を満たす幸福の余剰分を他人に割くためのリソースとして捻出できる人間なのだろう多分アイスクリームにカラースプレーをかけただけですべての苦痛を忘れてご機嫌になれる方々)。そうではないとしたら本当に彼らが違う星の住人のようにしか思えない。

 その"推し"は自分の生活を直接的に豊かにしてくれるわけでも、自分を能力的に優れた存在にしてくれるわけでも、ましてや自分の方向を振り向いてくれるわけでもないんだが〜!?!?!?!?!?

 私の負けです。その行為であなたがたの命が救われるならそれ以上に素晴らしいことはございません。すみませんでした。

 だいたい中学生のころから今に至るまで、私の生活はどの側面でも、少なくとも余裕のあるものではない。上手くいかない現実、やり場のない感情、それらが人を逃げ場としてのオタクコンテンツに走らせる大きなきっかけだとはよく言うものの、私がそれらに”救われた”ことはおそらく一度もない。「辛い時にあの曲聴いて/あのアニメ見て/あのゲームやって不安から解放された」とかマジでない。曲が好きなアーティストが死んだからって、本人の身内や友人でもなく一ファンにすぎないのに涙を流せるやつの思考回路を、嫌味ではなくただ興味本位で知りたい。そういえばnoteを書き始めてすぐのころの、今ではもう消してしまった「音楽は魔法じゃない」という記事でも似たようなことを書いた気がする。それだけ何かに夢中でいられるのってもはや才能ではないかとすら私は思うのだが、「推し」なるものがあることは当たり前で、普通に私がおかしいだけなのだろうか。形から入ってみれば本気で好きになれるかと思って地下ドル現場に一時期通っていたけど、自分がスポットライトを浴びたい性分の私には結局オーディエンス側に徹するのは無理だった。明日明後日を生きることにすら困窮している状態では雀の涙ほどの金しか落とせないのは自明であるし、そもそもツーショットのチェキを撮るのに演者より自分の写りばかり気にしているなど本末転倒としか言えない。

 何事にも大して夢中になれないそんな状況では、特段やることもないまま時間はゆっくりと過ぎていくにも関わらず、まとまりのないネガティブな思考だけが目まぐるしく頭の中を駆け巡る。過度の情報量も、醜悪な世界も、例え目を逸らしたとて脳に入り込んでくる。世界からのノイズが強すぎて、もう何も考えたくない。これではただ身体を縦にしていることすら億劫だ。──であれば、もはや知覚を遮断するしかあるまいね
 つまり深く長い眠りこそが最適だ。しかし私は普段から不眠が酷く、抱き枕に重い毛布、アイマスクにASMRとありとあらゆる手段に頼ってなお寝付くまでに平気で2時間ほどかかったりする。そして最終的に行き着いた答えは──市販薬のODだった。そうでもしないと、世界との接続を一時的にでも断ち切り安寧を得るには至らなかったのだ。ぶっちゃけこれは寝ているというよりただの気絶で、ご指摘を受けるまでもなく常軌を逸している。これでも胸を張って人前で話せるのであれば、私の趣味は寝ることと過剰服薬です。推し市販薬は……いや、やめておこう。ODを推奨する目的でこの記事を書いているわけではない。あと実は最近やっとこさ中途覚醒せずしっかり眠れる方法を見つけつつあるし(わざわざ話すほどのことでもないのでここで詳しくは語らないが、割と実行しやすいものである)。

 もちろん不幸は避けられるに越したことはないが、別に有り余るほどの幸せがなくったっていい。今更何かに打ち込みたいともそこまで思わない。本音のところは、何もせずただただぼーっとしているだけの時間がほしい。多くを求める気もないし、何も頑張らないでいい時間をもう少しくらいくれたっていいじゃないか。それすらしてくれないのってこの世界ってほんと愛想ないんだね。私みたいじゃん。あーあ、後悔しても知らないよ? いつか私を好きになったって、私はお前を絶対に推してはやらないから!



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