私も怪異に巻き込まれてしまった【朱雀門出「脳釘怪談」】

 朱雀門出「脳釘怪談」を読んだ。

 恐怖体験というよりは「怪異体験」といった手触りの10ページほどで終わる実話怪談を集めた本で、怖がりな自分にちょうどよかった。

 収録されている怪談の一つに、「カープテ」という話がある。

 H動物園には夜行性の動物を集めたエリアがあるのだが、著者の友人Cがそこで男性の生首が転がっているブースを見つける。ガラスには「カープテ」とラベルが貼られていた。もう一度、妻を連れて戻ってみたらそんな展示はどこにも無かったし、そもそもカープテなる動物はこの世にいない、という話。

 この「よくわからなさ」がいい。伝聞というのもあり全体的にふわふわした質感の話だ。だからこそ、怖い。
 
 恐怖というのは、突き詰めれば不安定さだ。綺麗にオチがつく怪談は怖くない。登場人物が位置エネルギーを使い果たした時点で怪談は死ぬ。恐怖が励起状態で持続すること。それが怖い怪談の条件だ。

 生首が転がったブースにカープテという短くも耳馴染みのない単語が添えられた様は意味不明で怖いし、夜行性動物のコーナーという身近な異空間は読者に臨場感を与える。もっとよくわからない話がたくさん収録された本書の中では比較的、ちゃんと怪談してるエピソードだ。


 ところで、この怪談について調べたところ奇妙な事実が発覚した。

 Googleで「カープテ」と検索すると、一番上に東山動物園のホームページがヒットする。

夜行性コーナーの元カヤネズミ舎には原寸大の飼育員人形が入っています。
来園者の方には、「案山子(かかし)が入っている~」と言われているようです。

しかし、これは動物と人間大きさを比較するために考えたものなのです。人形の比較展示のきっかけは「おじさん、この動物って、どれくらい大きいの?」と聞かれた事が思いつきの始まりで、学校に行っていない小さなお子さんにもわかりやすくするためにはどうすれば良いか考えた結果ここにたどりつきました。

これからも楽しく夜行性動物が理解できる様々な仕掛けを作成していきたいと思います。

動物園飼育第二係 外部 一也

東山動植物園オフィシャルブログ
本文中の画像

 H動物園の夜行性動物エリア……なるほど、舞台は東山動物園の同エリアで、恐らくこの人形の首が外れて床に転がってしまったのだ。そしてそれを見たCさんは生首が転がっていると勘違いしたのだろう。


 一瞬納得しかけたが、よく考えるとおかしい。


 なんで「カープテ」で検索してこれが一番上にヒットするんだ? 


 もちろんこの怪談に触れるような内容ではないし、サイトの文中にカープテという文字列もない。なにか言い訳をするかのように「東山動物園の夜行性動物コーナーには人形がある」という情報が「カープテ」で検索した人の目に入るようになっている。

 何もわからない。ただ、奇怪な事実が私の前に転がっているのみ。この謎は今後も解決することは無いだろう。

 解決しない限り、恐怖は持続する。どうやら私は新しい脳釘怪談を生み出してしまったようだ。

 聞いた人間の脳内で怪談は成長し、伝聞によって伝染する。


 あなたも脳釘怪談の一部になってしまった。

 

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