シン・カマキリ論
※ご注意※
本記事の中には、一部過激な表現があります(多分)。
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三度の飯よりも、虫を愛するわが娘。
最近、新しい彼氏を連れてきた。
ーー「カマキリ」という名でよく知られた彼の魅力から、いまでは毎日目が離せなくなっている。
カマキリのパブリックイメージ
先週までぼくが抱いていたカマキリのイメージは、こんな具合。
・超肉食。なんか怖い
・指を近づけたらカマで斬りつけてくる、ヤバい奴
・一匹狼(一匹カマキリか)
大抵の人が、なんとなくカマキリをこんな風にとらえているはずだ。
そういえば小学生のころ、一度だけカマキリを飼おうとした記憶がある。しかし、飼育法もわからず、何を与えてよいのかもわからなかった。そのため、虫かごの中で数日過ごしたあと、力尽きてしまった。
今おもえば、枯葉のように茶色っぽくなった、老齢のカマキリだった気がする。当然、親しみなど感じる間もなく別れることになった。
あれから30年たったが、自分の娘が再びカマキリを飼いはじめることになるとは…。何の因果か。
今回は、若草色でやや小型の、イキのいい奴だ。独り立ちして間もない、若造か。
この生粋のハンターを、どうしたものか。とりあえず、一日様子を見てみることにした。
間もなくぼくは、彼の意外過ぎる生態を目の当たりにすることになった。
1.足るを知る者
うちの近所の草むらには、ショウリョウバッタがとにかくたくさん生息している。娘はさっそく、「彼」の餌として大量にバッタを捕獲してきた。ついでに、シジミチョウも一羽捕獲。
自宅に連れ帰り、おなじ虫かごに入れて観察をはじめた。
…じわじわと、シジミチョウまで距離をつめていく。
!!
目にも止まらぬ早業。生粋のハンターである「彼」は、すでにシジミチョウの頭にかぶりついていた。
その後も一度、バッタを食している姿を目にしたが、必ず「頭からいただく」のが彼らの流儀のようだ。
生命機能を短時間で停止させるための、生まれ持った本能がそうさせるのだろうか。なんとも超・合理的な捕食術である。
シジミチョウが羽だけを残して「彼」の胃袋におさまったあとも、観察を続ける。近くには、活きのいいバッタたちがまだまだ控えている。
…しかし、「彼」はそんなバッタたちを完全に無視している。
なんなら、背中にぴょんとバッタが乗っかっている時もあったが、まったく意に介することなく、虫かごの天井をのんびりと散歩しつづけている。
ーーこれは…「吾唯知足」を地で行く生き方ではないか。
まさに、足るを知る、禅の思想。
お腹が満たされたら、それ以上不要な殺生は無用なのだ。飽食の現代に生きる我々も、見習うべき姿勢ではないだろうか。
2.超人的身体能力
虫かごをそうじするため、一時的に「彼」を取り出すことにした。
さて、どうやってつかもう…?と、あたふたした。
少し調べてみたところ、どうやら、背中のあたりをつまむようにすると良いらしい。まずはぼくが挑戦。
…痛ッッ!
なんと、「彼」は背後までグーンと鎌を伸ばし、爪を立ててきたのだ。
池江璃花子選手も真っ青の、恐ろしいほどの肩関節の可動域。
もはや、彼のズームパンチには死角なし、なのか。
気を取り直してもう少し調べてみたところ、腕の付け根あたりをつまむと無傷でつかむことができるらしい。
やってみると、今度はたしかに鎌が届かない。たった1センチの差で、こうも変わるものなのかと感心した。
しかし、今度は新たな問題が発生した。
「彼」は、虫かごから離れまいと、足でめっちゃ踏ん張っていた。
かなり力を入れても離れない。
これ以上やると体がちぎれそうな気がしたので、少し平らなところに移動させてからそっとつまみあげた。
どうやら、虫かごの空気穴のようなちょっとした引っ掛かりさえあれば、「彼」にとってはじゅうぶんらしい。華奢な体に似合わず、ホールド力がまったく半端ない。
そんな「彼」の粘り腰には、激動の令和を生き抜く我々としても見習うべきものがあるのではなかろうか。
3.実はキレイ好き
虫かごのそうじが終わり、またしばらくながめていると、「彼」は意外な行動に出た。
鎌を、ぺろぺろとなめ始めたのだ。
今度は、鎌をきゅっと閉じた状態で、顔をこするようなしぐさ。ぼくは見逃してしまったが、娘いわく、触角もなめていたという。
ーーまるで、猫だ。
生粋のハンターは、無類のキレイ好きだった。
どうやら、獲物を食したあと、鎌などに雑菌が付着することがあるそうだ。
これを放っておくことによって、虫カビが繁殖してしまうのを防ぐための行動らしい。
意外に几帳面な性質に、無性に愛着を感じざるを得なかった。
***
毎度のことながら、娘が連れてくる生き物には、先入観を捨ててみるといろいろな発見がある。
いつものパターンでいくと、近いうちにきっと娘は「彼」をスケッチするだろう。
どんなイケメンに描き上げるのか、いまからちょっと楽しみである。
P.S.
今日仕事から帰宅したら、彼はもう一匹増えていた。
また捕まえてきたんかーい。
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