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リードミス?

個人的に、「うーん」と首を捻ったのが、数日前のこちらの記事。

半分事実でもあり、半分虚偽でもあり……というところでしょうか。

西南戦争については、拙作「直違の紋に誓って」の第三章で、詳しく取り上げました。

「直違の紋~」を最後まで読んでいただいた方は記憶していらっしゃると思うのですが、二本松少年隊の生き残りであった「武谷剛介」は、大人になってから西南戦争に「警官」として西南戦争に参加しています。
これはご子孫の話から確実で、「田原坂に行った」という言葉をヒントにしているのが、第三章。

そして、「抜刀隊」の一員として参戦させているのですが……。

皆様、「田原坂の戦い」=西南戦争のイメージが強すぎませんか?

いや、あれは西南戦争の序盤で、局地的な戦闘ですから!
何でこの記者さん、全部一緒くたにしてまとめちゃうかなあ……とちらっと思ったのですが。

実は、「警視庁」側には、薩摩出身者の警官も結構含まれています。

そして、福島県から徴募された部隊は、熊本城攻撃の際の「別働第3旅団」(江口隊)などがメインです。もしくは、7/31以降に剛介らと交代させられた「新撰旅団」(この部隊は、ほぼ東北出身者で構成されていた)が、大多数の東北地方出身者の所属部隊です。

ごらんのように、西南戦争は「九州ほぼ全土」が戦場だったと言っても、過言ではありません。
また、下図は陸軍の「征西戦記稿 付録」の戦地日表です。
4月上旬のものですが、

熊本城→熊本鎮台
木留周辺→第一旅団・第二旅団

などの主力部隊の他に、八代付近から上陸してみたり、大分方面から迫ってみたりと、かなり広域に渡っています。

また、東北地方の「特別徴募」についてはこちらの論文が詳しいのですが、必ずしも、「田原坂の戦い」で戦った人々のメインが東北出身者だったわけではありません。むしろ、東北地方の人間で「田原坂の戦い」に参戦している人は、少数派です。

西南戦争の各部隊の詳しい考察については、夕風桜香楼様のブログが、参考になります。

https://blog.goo.ne.jp/sakura-oka/e/9b386e5aade86aed31e0a6c45d4d77c1

画像は夕風様のブログからお借りしたものですが、第一号徴募・第二号徴募の裏付けは私も論文などから取っており、明らかに「田原坂の戦い」よりも後に、東北の兵士らが大量動員されたことがわかります。

さらに夕風様の検証によると、意外と「戊辰の恨み」だけで参戦した人は少ないことが、伺えます。

https://blog.goo.ne.jp/sakura-oka/e/49d19fd1633d61cbc526ccc146d92829

どうも、「警視隊」=「戊辰の恨みを晴らしたい会津人が中心だった」という誤った通説がテンプレ化している感はありますが、相互の長年の遺恨を解消するためにも、再度、当時の状況が検証されるべきではないでしょうか。

必ずしも薩摩全員が「私学校党」だったわけではない

また、薩摩藩……というか、私学校が置かれていた地域でも、必ずしも薩軍に喜んで従っていた人たちばかりではありません。
その事実を無視して「西南戦争=戊辰戦争の恨みを晴らす場」というような書き方は、いかがなものでしょうか。

特に私が注目したのは、「出水いずみ」。
「直違の紋~」でもちらっと書きましたが、この地域の若者は、戊辰戦争当時は鹿児島の城下士らから「郷士」として蔑まれながらも会津まで遠征させられ、かつ、西南戦争のときは出水地域のリーダーであった伊藤氏の決断で、いち早く官軍に「投降」しました。

会津と薩摩(もしくは長州)の遺恨は私も当然知っていますが、双方の感情の着地点として、何度も考察を重ねた結果が、あの物語の結末に繋がっています。

薩摩藩内部でも「差別構造」があったにも関わらず、自藩の「負の遺産」から目を背け、旧奥羽諸藩を「賊軍」扱いしてきた。やはり、それは無視していいものではないですし、私にとっては、一律に「薩摩憎し」となってはならない動機ともなっています。

まとめ

私もライターの端くれですから、かの記事のタイトルが「インパクト」があるのはわかります。そして、別に書き手が「悪意」を持って書いているのではないであろうことも。

ですが、それでもなお「会津を始めとする旧奥羽列藩同盟」を「賊軍」扱いしたがる人が、現代でもまだいるのです。
信じられないかもしれませんが、私自身、そのような人に出くわしたこともありますし。

私見ではありますが、会津にしても薩摩にしても、そのような対立を望まない人の方が、現代ではもう多数派なのではないでしょうか。

だからこそ、この手の記事を書くならば、きちんと過去の文献に当たって検証をした上で書いてほしい。そう願って止みません。

※ちなみに、私が薩摩関係者で一番好きになれないのは、「川路利良」。
明らかに「東北人の復讐心」を利用して、西南戦争に送り込んでいますから💢
警察官僚機構を作り上げたのは素晴らしいと思いますが、この一点だけは、どうしても許せないです。

#西南戦争
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