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原石のきらめき

今でもそうだが、私は昔から活字中毒だ。
なので、機会があると学生時代から、学校の文学サークルの会誌なども読んでいた。
でも、書き手の感性がよくわからないものも多い。完全に好みもあるけれど。

そんな時、ある作品にグイグイ引き込まれた。

その人の書いた文の世界観は理解できない。でも、強烈な個性と中断できない何かがある。
大学での話なので、年代は一緒の人間が書いている文。なのに、強烈な個性。

同じ環境にいるのに、こうも光る人がいるのか。
強烈な衝撃を受けた。


「この人、もしかしたら大化けするかも…」
そんな予感がした。


数年の年月を経て、予感は的中した。
メディアで大きく取り上げられた新人。しかも芥川賞の受賞である。
名前を見たときにどうも見覚えがある気がして、流行りものにはあまり飛びつかない私だが、本屋で山積みになっている1冊を手にした。


やっぱり、書き手の世界観はよく分からなかった。でも、文が醸し出す空気は間違いなくあのときと同じだった。
気になって著書のプロフィールを見てみる。


同じ大学、学部。
間違いない、同一人物だ。確信した。


今でも彼は作家活動を続けている。
一方私は、やっとWEBで記事を書けるようになっただけの無名の書き手。
でも、同じように書くことで報酬をもらえる立場になった事実が、ただただ感慨深い。

彼は私を知らない。学部は同じだが、少しだけ同じ場所にいたことがあるだけの人間だ。

芥川賞の受賞まで、彼なりの苦悩もきっとあっただろうと思う。だから、ずっと自分の信念を持ち、大輪の花を開かせた彼の生き方を尊敬する。

私なりに「どれだけの研鑽を積み重ねてきたのでしょう」と言われる程度には、多少の文章は書いてきたかもしれない。
だが、今でも進化を続ける彼の背中に追いつくことは、まず考えられない。

私は本名があの頃と変わっているし、彼にとってはそもそもその他大勢の一人だ。恐らく、この先を言葉をかわすことはないだろう。

それでもやっぱり、今、同じ空間に立てたことが嬉しくもあるし、人生の妙味だと思う。

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中村文則氏。

それが彼の名前。

中村さん。

あなたの文章は、あの頃から私にとって特別でした。

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