見出し画像

ゲームの「優良誤認」「有利誤認」(景品表示法違反)の事例解説

ゲームに関して「優良誤認」「有利誤認」という言葉をお聞きになったことのある方も多いと思います。
一部では「消費者庁コラボ」とも呼ばれているこの事象について、今日は、その事例をご紹介いたします。

「優良誤認」「有利誤認」とは

事例のご紹介の前に、そもそも景品表示法の優良誤認や有利誤認とは何か、ごく簡単におさらいしておきましょう。

  • 景品表示法はその名の通り、主として「景品」の規制と「表示」の規制の2つを定める法律です。

  • この2つは、いずれもゲームにも関係する規制ですが、今回ご紹介するのは「表示」の規制です(「景品」の規制はゲーム大会の賞金や過去に話題となったコンプガチャに関係します)。

  • 規制対象である「表示」とは、チラシやパッケージだけではなく、あらゆる広告を含みます。口頭のものも含まれます。

  • 表示規制には、主に「優良誤認」と「有利誤認」があります。
    簡単に言えば、
    実際にはそうでないのに良い品質だと思わせる表示が「優良誤認」、
    実際にはそうでないのに得な条件だと思わせる表示が「有利誤認」です。

  • なお、「優良誤認」「有利誤認」について、会社の故意・過失は要件ではありません。会社の方から「故意にやったわけではないんです」といわれることもよくありますが、法的には、故意や過失がなくとも「優良誤認」「有利誤認」と認定されることになります。

「措置命令」「課徴金納付命令」とは

表示規制に違反した場合、会社は「措置命令」や「課徴金納付命令」を受ける可能性があります。こちらも、ごく簡単におさらいしておきます。

  • 消費者庁は、表示規制への違反があった場合、一定の事項を命ずる「措置命令」を行うことができます。

  • さらに、消費者庁は、一定の除外事由がなければ、課徴金の納付を命じる「課徴金納付命令」を行います(課徴金納付命令のみを受けることはありません)。

  • 「措置命令」は、多くの場合、①一般消費者の誤認の排除(周知)、②再発防止策の策定、③今後同様の行為を行わないことの3つを命令します。

  • 「課徴金」については、算定式が定まっており、基本的に、対象行為に係る商品・役務の売上高の3%相当額が課徴金となります。

ちなみに、この説明を見て、「措置命令は、大したペナルティではないのだな」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、文字で読むと、HP等で「ごめんなさい。もうしません」といえば済む印象を受けるかもしれませんが、実際はそうではありません。

例えば、一般消費者への周知の方法については、消費者庁長官の承認を得る必要があり、典型的には、日刊新聞紙2紙への掲載を含む周知方法を指定されますので、この時点で相当の費用が必要になります。
また、消費者庁の調査については、短期間で多数の回答を行う必要があるなど、調査自体の対応にも相当の負担感があります。
更に、措置命令や課徴金納付命令は、消費者庁のHPで公表されるため、会社は、命令内容の履行の負担を負うのみならず、ユーザーからの信頼の低下等のリスクも生じます。
特にゲームの場合、インターネット上での情報交換が盛んなこともあり、いわゆる炎上や、不買運動等につながりやすい側面もありますので、注意が必要です。

ちなみに、いわゆる「消費者庁コラボ」は、人によって様々な意味で使われていますが、この「措置命令」「課徴金納付命令」を指して使われることが比較的多い印象です。

事例紹介

では早速、ゲームに関する事例をご紹介いたします。
消費者庁の認定は枠組みが決まっており、対象の表示について、以下のような点を認定します。
 ①あたかも、Aであるかのように表示していた
 ②実際には、Bであった
そのため、事例もこの形でご紹介いたします。
なお、概要をお示しするため、事例は要約しております点、ご了承ください。

「パズル&ドラゴンズ」

  • 事案の概要

「モンスター」のいずれかを提供する「特別レアガチャ『魔法石10個!フェス限ヒロインガチャ』」について、インターネット上で配信する公式番組において、以下のような表示を行った。

「2月は、えー、ま、11月に登場した全フェス限ヒロイン、ガチャキャラが全部究極進化するっていうのがありまして」(H28.11.30)
「第4弾、2月1日からですね。予告してるんですけれども、11月に開催したフェス限ヒロインガチャ、これらのキャラクター全員、究極進化決定」(H28.12.25)
「スライドお願いします。なんとですね。2月から3月にかけてモンスター55体を一挙究極進化、してみたいと思います。」(H29.2.20)
「対象キャラ、もう一度、あらためてこちらになります。先日ね、11月の段階で発表していたフェス限ヒロインガチャのキャラは全部入っていますので」(H29.2.20)

消費者庁HP
  • 消費者庁の認定(措置命令H29.7.19、課徴金納付命令H30.3.28)

あたかも、全てのモンスターが「究極進化」と称する仕様の対象となるかのように表示していた。

実際には、当該ガチャによって提供されるモンスター13体のうち2体だけを「究極進化」と称する仕様の対象とし、11体は「究極進化」ではなく「進化」と称する仕様の対象としていた。

  • 若干のコメント

ゲームの不当表示による初の措置命令で、パズドラという人気ゲームに関する措置命令ということもあり、日経新聞等各種メディアでも取り上げられ、かなり話題になりました。
良くも悪くも、ゲーム業界で景品表示法違反を有名にした事件であり、「消費者庁コラボ」という言葉もこの事例の際に生まれた言葉です。

また、ニコニコ生放送やYoutubeライブといったインターネットでの放送での発言を問題にしたやや珍しい例でもあります。
ゲーム業界の方の中には「生放送の口頭の発言でこんな処分を受けるのか」と驚かれた方も多いかもしれませんが、景品表示法上は、口頭の発言も「表示」に含まれますので、この点はご注意頂く必要があります。

今回の表示の原因は不明ですが、一般論としては、広報の担当者と現場の担当者との連携不足は、不当表示が発生する典型パターンの1つです。
生放送のような事前のチェックに限界がある「表示」については、より一層連携が重要になりますので、注意が必要です。

消費者庁があらゆる事案を調査することは物理的に難しいところですが、この事案については、2週間のガチャで約33億円と売上規模が大きく、また、不当表示がユーザーの間で問題視され、相当数の情報提供がなされたこともあって、調査の対象となったのではないかと思われます。

なお、本件については、最終的には、全てのモンスターを究極進化へと仕様変更し、また相当数のお詫び(いわゆる「詫び石」)を配布するなどの対応が行われています。また、2週間のガチャの売上は、約33億円である一方、課徴金の額は5020万円ですが、これは、違反者が自主申告を行ったため、2分の1に減額されたことによるものです。

「ディズニーマジックキングダムズ」

  • 事案の概要

特定のキャラクターと「ジェム」を一体的に提供する6役務の取引について、当該ゲーム内のバナー広告において、「キャラクターとジェムがいっしょになったお1人様1回限りのお得なパック!」、「レックス&ジェム100個」、「別々に買うより断然お得!」、「レックスパック¥1,200」などと記載した。
※このほか5役務も類似した表示を行っています。

消費者庁HP
  • 消費者庁の認定(措置命令H29.7.19)

あたかも、当該6役務の提供価格が、特定のキャラクターとジェムを別々に購入する場合の合計金額に比して安いかのように表示していた。

実際には、当該6役務の提供価格は、それぞれ、特定のキャラクターとジェムを別々に提供する場合の合計金額に比して安くはなかった。

  • 若干のコメント

実際にはそうでないのに得な条件だと思わせたという「有利誤認」の事例です。
スマホゲームでは、いくつかのアイテムを組み合わせた「お得パック」が販売されることはよくあるところですが、通常は(当然ながら)別々に買うよりも安い値段を設定いたします。

本件は、おそらく「お得パック」の値段設定を誤り、かつ、この点をチェックしないまま広告を作成したために、結果的に有利誤認表示となったものと思われます。
このようないわゆるケアレスミスは、不当表示の典型パターンの1つです。

なお、こちらは、値段を計算すればユーザーが購入することは考えづらく、通常であれば措置命令まで出される程の事案ではないようにも思われますが、前述のパズドラの事例と併せて調査を受け、措置命令が出されたものと推測されます。

「THE KING OF FIGHTERS ’98 ULTIMATE MATCH Online」

  • 事案の概要

「クーラ」と称するキャラクターを提供する「クーラ限定ガチャ」について、「クーラ」の画像とともに、「ガチャでピックアップの格闘家があたる」、「クーラ」、「出現確率:3%」、「購入」並びに「万能破片と格闘家確定」及び「10回購入」と記載した。

消費者庁HP
  • 消費者庁の認定(措置命令H30.1.26、課徴金納付命令R3.3.29)

あたかも、「クーラ限定ガチャ」を1回ごとに取引する場合にあっては、1回当たりの「クーラ」の出現確率が3%であるかのように、
また、「クーラ限定ガチャ」を10回分一括して取引する場合にあっては、「万能破片」の出現に割り当てられる1回を除く9回における1回当たりの「クーラ」の出現確率が3%であるかのように表示していた。

実際には、「クーラ限定ガチャ」を1回ごとに取引する場合の1回当たりの「クーラ」の出現確率は、0.333%であり、
また、「クーラ限定ガチャ」を10回分一括して取引する場合の「万能破片」の出現に割り当てられる1回を除く9回における1回当たりの「クーラ」の出現確率は、9回のうち8回については0.333%であった。

  • 若干のコメント

「出現確率:3%」と表記していたにもかかわらず、実際には0.333%であったという事例です。

ガチャの排出率については、スマホゲーム界隈でたびたび問題になるところですが、ユーザー側が正確な排出率を検証できないこともあり、裁判や措置命令にまで至るケースは限定的です。

今回の事例では、消費者庁の認定には出てきませんが、ゲームのユーザーが運営会社に問い合わせを行い、そのやり取りの一環で、運営会社側が排出率約10%の「格闘家(キャラクター)」のうち、3%で「クーラ」が出現するという回答を行ったことで、不当表示であることが明らかとなった経緯があります。
当該ユーザーが訴訟を提起したことや、特定商取引法上の表示に記載されていた会社の所在地が虚偽の内容であったことなどを含め、措置命令以外の事象も話題になった事例です。

運営会社が、どのような意図で「3%」と記載したかは不明ですが、この表示だけで「「格闘家(キャラクター)」のうち3%」と読み取るのは難しく、不当表示と判断されるのも、やむを得ないと考えます。

「WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争」(FFBE幻影戦争)

  • 事案の概要

「1st ANNIVERSARY 1回限定 URユニット10体確定10連召喚」等の5つのガチャについて、提供割合等を表示し、「●召喚は1回ごとに、その提供割合にもとづいて抽選を行います。」等と表示した。

消費者庁HP
消費者庁HP
  • 消費者庁の認定(措置命令R3.6.29)

あたかも、10枠分のURユニットの抽選方法については、1枠ごとに、表示された提供割合に従って抽選が行われるかのように示す表示をしていた。

実際には、10枠分のURユニットの抽選方法については、1枠ごとに、記載の提供割合に従って抽選が行われるものではなく、ガチャを実行した結果提供される当該10枠分のURユニットの組合せは限られたものとなっており、1枠ごとに記載の提供割合に従って抽選が行われれば提供される可能性のあった当該10枠分のURユニットの組合せのほとんどが、絶対に提供されないものであった。

  • 若干のコメント

「ファイナルファンタジー」という人気の高いシリーズのスマホゲームであったこと、かつ、ガチャに手が加わっていたという疑惑から、話題になった事例です。

認定からは少しわかりにくいかと思いますが、会社の説明によると、今回のガチャは、「①提供割合に基づいてランダムに配列した2つのリストを作成し、どちらを引くか抽選」、「②上記リストの並び順で連続する10体が提供され、次の消費者は前の消費者の結果の続きから提供」という方式で行われていました。

つまり、このガチャには、AとBの2つのリストがあり、ガチャを引くと、AかBどちらかのリストに割り振られます。
Aに割り振られた場合、Aのリストの1番目から10番目のキャラクターが排出されます。次の利用者がAに割り振られた場合、Aのリストの11番目から20番目のキャラクターが排出される、という具合です。

このようなリストは、「テーブル」などと呼ばれることがありますが、ガチャによって得られる結果の組み合わせが、純粋な抽選に比べて著しく限定されます。
そのため、「●召喚は1回ごとに、その提供割合にもとづいて抽選を行います。」と表記しているにもかかわらず、純粋な抽選ならば生じたはずの組み合わせのほとんどは絶対に提供されないこととなり、この点が優良誤認とされました。

前述の通り、ガチャの排出については、ユーザー側での検証が通常は困難なのですが、今回のガチャは1周年記念の非常にお得なもの(通常2%程度の排出率のURキャラクターが10体確定)ということもあり、ガチャの結果をSNS等にアップロードするユーザーが多く、その結果の偏りから、ガチャ開始の翌日にはユーザーがリストを推定し、炎上したという経緯がありました(ガチャは開始2日後に停止)。

実質的な運営を行っていたのは別会社であったものの、大手ゲーム会社にも措置命令が出されたことから、NHKや日経新聞等でも報道されており、「ゲーム 措置命令」の検索上位にはこの事例が表示される結果となりました。
ガチャの仕組みは運営を行っていた別会社が作成したようですが、報道では大手ゲーム会社の名前が表示されており、不当表示にはこのようなレピュテーションリスクがあるという点もご留意いただく必要があろうかと思います。

若干のメモ

消費者に向けられたものは全て「表示」

ご紹介した事例は、いずれも、会社があまりに不注意ではないか、と思われるかもしれませんが、今のスマホゲームでは、開発や運営について、外部業者を含めて多数の方が関わることが多くなっています。
その中で連携を十分に取るということも、容易ではなくなってきているように思われます。

例えば、いまやインターネット上の公式生放送で宣伝をする手法は一般的ですが、つい生放送では、サービスした発言を行いたくなりがちですし、十分な台本チェックや注意喚起がないまま、生放送を行いますと(悪気のない)不当表示が生じやすい、という状況があります。
また、生放送のほか、SNSでの発言内容や、新キャラ紹介PVの文言まで、景品表示法の規制の対象の「表示」になることには、担当者レベルではあまり意識されていないことも多いところです。

ゲームに関しては、消費者に向けられた発信媒体が多数ありますが、いずれも基本的に「表示」に該当しますので、いずれもその内容には注意する必要があります。
全てを法務担当者がチェックすることは難しいこともあり、会社としては、現場の担当者の方向けにも情報共有や、景品表示法の研修等を行って、景品表示法の基本的な認識を周知しておくことも重要と考えます(なお、現場の方を含む研修というと及び腰になる方もいらっしゃいますが、ゲームと景品表示法の事例が増えていることもあってか、法務以外の現場の方でも、景品表示法に関心を持っている方は多く、比較的、研修も関心を持って受けて頂ける方が多い印象です)。

上記以外の炎上事例

ゲームに関する措置命令・課徴金納付命令の事例を見て、「問題になったゲームはもっとあるぞ」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、例えば、不当表示が疑われたものとして、以下のような件もありました。

  • ユーザーが生放送で70万円以上課金をしてガチャを行ったものの、目当てのキャラクターが出現せず、特定キャラクター排出率が下げられていると炎上した件

  • 排出割合画面のキャラクターごとの排出割合がアカウントごとに異なる不具合から排出確率の操作がされていると炎上した件

  • 最高レアリティのキャラクターが4体以上含まれる場合に再抽選する仕組みが判明し炎上した件

しかしながら、これらについてはいずれも、措置命令は出されておりません。
いずれもある程度の売上規模があり、また、相当数のユーザーから消費者庁に情報提供があったと思われますので、おそらくですが、消費者庁が調査のうえ、不当表示がなかったと認定されたものと思われます。

「当たりが入っていると信頼しているからくじを買う」

ガチャの排出率については、「FFBE幻影戦争」のような場合は別にして、通常、ユーザーが検証することは困難です。
そして、ユーザー側には「運営は排出率を操作しているのでは?」という疑念が常に存在しています。

それでも、ユーザーがガチャを引くのは、スマホゲームの運営会社を信頼しているからにほかなりません。
当然ではありますが、お金を払ってくじを買うのは「当たりのくじが入っている」と信頼しているから、ということです。

排出率の操作やそれを疑わせる事情は、この信頼関係を揺らがせてしまうため、一気に炎上(場合によって措置命令・課徴金納付命令)につながってしまいます。

スマホゲームについては、この信頼関係を維持することが売り上げの継続的確保の重要な要素になります。
個人的には、景品表示法は運営を邪魔するものではなく、むしろ、この目的のための補助ツールと捉えることが重要ではないかと考えているところです。

これから、この信頼関係が維持されるのか、それとも、海外の流れに沿って、より強い規制がかかっていくのか、今後の流れにも注目する必要がありそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?