今さら聞けない!スクワット7つのチェックポイント
※こちらの記事は7月29日と8月5日に行われた「今さら聞けない!スクワット指導7つのチェックポイント」講座の内容をまとめたものになります。
この講座は、体の構造や動きには個性があるのに、スクワットなどのトレーニング指導になると画一的なフォームの指導になるのはなぜだろう、という疑問から始まりました。
骨格的な問題、可動性の問題、筋力の問題などなど。様々な体の違いがある中でどのように指導していくと伝わりやすいのか。そんなことを考えてまとめています。
合計で約20,000文字、画像数30枚、動画6本(合計で約30分ほど)にて解説してあります。スクワットに限らず、運動指導する上でも気をつけておきたいポイントを紹介していますので、指導に行き詰まっている方に読んでいただきたい内容となっています。
0. 自己紹介
まずは簡単に自己紹介をしておきます。コンディショニングコーチとして活動している倉持江弥(クラモチコウヤ)と申します。東京都府中市にストレッチ&コンディショニングめんてなというコンディショニング施設をオープンして10年目に入りました。
資格はNSCA-CSCSとスキンストレッチレベル3スペシャリストを持っています。
大学を卒業後(大学では工学部に所属)にトレーナーの専門学校に入り、その後アメリカのプロフットボールチームにインターン(Rhein Fire, 2003年)、アシスタント(Hawaiian Islanders, 2004年)のトレーナーとして所属。
帰国後は社会人アメフトチームのトレーニングコーチ、パーソナルトレーナーとして活動しながら、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科でバイオメカニクスの研究をしていました。
2011年6月、運動をしている方の健康を足から整えていこうという思いから現在の場所にめんてなをオープン。部活でハードに走っている10代から、趣味でスポーツを続けている40代の方、自分の足でいつまでも歩き続けたい80代の方まで幅広く運動指導をしております。
1. バイオメカニクス的考え方
バイオメカニクスとは、生体の構造や機能を力学的な観点から解明する学問のことです。日本語では人体工学。
筋肉の収縮によって力を生み出し、その力を地面へと伝えることで反力を得て、骨格の動きへと変換していきます。
『動』は重力。重力を利用することで、効率的な動きが可能になります。
バイオメカニクスを知るためには、
という3つの学問を知っておくと便利です。
運動学は、位置や動きに関する学問で、速度や加速度の変化(違い)を知ることがテーマとなります。外から見えたことを解析する学問になり、重心がどのように変化するかを理解していきます。
運動力学は、体が発揮する力や体にかかる力を解明する学問で、筋力や床反力を学びます。動きのためには力を発生させる必要があり、力のやり取りをする際のロスがどこで起きているかを探し出します。
形態学は、生物の形や構造に関する学問。欧米人と日本人の骨格や、男性と女性に骨格の違いがあることは既に明らかになっていますが、その違いによる影響などはあまり語られません。骨格の違いによる可動域の変化などを頭に入れておくとトレーニングの方法も変わってきます。
〈1-1. 関節における役割の違い〉
人体には約206個の骨と400を超える骨格筋があると言われています。骨と骨のつなぎ目でもある関節もその分だけ存在するわけですが、それぞれの関節によって求められる役割が異なります。
赤い丸は可動性が求めれらる関節。主に足関節、股関節、胸椎、肩甲上腕関節、手関節です。この関節に制限が見られたときに考えられるのが、骨格的要因、力みや緊張、生活習慣、過去のケガなど。逆に筋緊張の低下などで過可動になるケースもあります。
青い丸は安定性が求められる関節。主に足部、膝関節、腰椎、頚椎、肩甲胸郭関節、肘関節です。この関節に過可動(関節のゆるみや筋緊張の低下)が見られたときに考えられるのが、性差や骨格的要因や過去のケガなど。
隣あった関節では相互に動きを補い合っており、可動性が求められる関節に制限があると、その隣りにある安定性が求められる関節に過可動が出やすくなり痛みやケガにつながる傾向があります。
制限があっても過可動があっても、どちらもエネルギーのロスを生じる原因となります。動きがおかしいなと感じたときに、どこの動きがおかしくなって、その原因がどこにあるかを知る目安としてわかりやすいのでぜひ頭に入れておいてください。
〈1-2. 骨格による違い〉
わたしの中では筋力や可動域の話しに入る前に、そもそもの骨格の違いによる影響が大きいのではないかなと考えています。
まずは人種間の骨格の違い。黒人系と比較して日本人は、
といった傾向があると言われています。
骨格的な要因によるものか、生活スタイルによる影響かは定かではありませんが、筋力的にも違いが指摘されています。
欧米人が狩猟民族であり大陸を移動しながら生活していたのに対して、日本人は農耕民族で一ヶ所にとどまって生活していたから、などなど。
スクワットへの影響について考えてみると、
・上半身と下半身の長さの比率
・大腿と下腿の長さの比率
・足関節の背屈角度
などがフォームの違いに関わってくるのではないでしょうか。
まずは上半身と下半身の長さの違いについて。人それぞれ違いはありますし人種によっても異なります。
上半身の長さと下半身の長さの比率の違いによってフォームがどう変わるか簡単に図式化してみました。バーベルが足裏の中央にくるようなフォームになる前提です。
身長は同じ、大腿と下腿の長さの比率は同じで、上半身と下半身の比率を変えてみました。上半身が長いほど上体は立っており、上半身が短いほど上体は前方に倒れていることがわかります。
次に大腿長と下腿長の違い。こちらも先ほどと同じように身長などは同じにして大腿と下腿の長さの比率だけを変えてみました。
【左】下腿長>大腿長 【中央】下腿長=大腿長 【右側】下腿長<大腿長
これらを比較してみると、下腿長が長いほど上体は立ちやすく、大腿長が長いほど上体を前に倒すようなフォームになります。
これ以外にも身長別の下腿と大腿長の比率の変化や、男性と女性の違いもあります。なのでここではまず骨格によってこれくらいフォームに差があるということを覚えておきましょう。
必ずしも下腿と体幹の角度を平行にすることがベストではないということです。
〈1-3. 男性と女性の違い〉
男性と女性の骨格の違いも、スクワットのフォームには大きく影響しています。
そもそも女性の体は男性に比べて、
といった特徴があります。例えば、男性はあぐらの方が座りやすいですが、女性は女の子座りの方が座りやすかったり。
次に考えておくことは大腿骨の形状について。解剖を勉強されている方ならご存知の通り、大腿骨の形状は特殊で大腿骨体から大腿骨頸がとびだしています。そのおかげで大腿骨と骨盤の衝突を防いでいるわけです。
この形状も人それぞれで、しかも左右で違うこともあります。
【頸体角】からみていくと、正常な成人では約125°であるのに対して、頸体角が125°より小さくなると内反股、125°より大きくなると外反股と呼ばれます。内反股のように頸体角が小さいと立った時にX脚になりやすく、外反股のように頸体角が大きいと立った時にO脚になりやすいと言われています。
【前捻角】をみていくと、正常なねじれは約10〜15°前捻しています。この前捻が15°よりも大きくなっていることを過度前捻、10°よりも少ないと後捻と呼ばれます。過度前捻の場合には立位で内股傾向になり、後捻ですとガニ股傾向になります。
もともと股関節を屈曲させると内旋しやすい傾向があるのでスクワットの際にも注意が必要なのですが。これが男性と同じような見た目の外旋位を保てるかというと話しは別です。
女性は大腿骨の頸部が前捻傾向にあり、さらに骨盤も広がっているので大腿骨は内旋方向に向かっています。そのため、自分では外旋位にしているつもりでも見た目としては正面を向いているということもしばしばあります。
このあたりの許容範囲をどうするか。というのがテーマにもなりそうです。
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