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慣性モーメントってどんな時に使われている?

1ヶ月に1回のペースで行っている力学の勉強会。生活や運動を力学からひもといてみると、意外なところで役立っているということに気づいたりします。

今回のテーマは慣性モーメント。

慣性モーメントは物体が持っている運動を持続しようとする力で、物体の回しにくさの度合いのこと。その値が小さいと回しやすく止めやすい、値が大きいと回しにくく止めにくいです。”慣性”とは物体に力を加えて動いたときにこの速度を持続しようとする性質をいい、“モーメント”とは勢いや運動などの意味がある。

よく例題として出てくるのが、フィギュアスケートの回転スピードと安定性の話しですね。

スピンの動き出しは両腕と片足を伸ばしたところからゆっくり回り始めています。ここから少しずつ腕は体幹に近づけて、脚は絡ませるようにすることで回転半径を小さくすることで回転スピードを早めていく。

両腕と片足を伸ばすことの利点は、回転の中心から末端までの距離を遠くすることで倒れにくくなり安定しやすいこと。この時、慣性モーメントが大きいといいます。

慣性モーメントが大きい分だけゆっくり動き始めています。

徐々にスピードが上がってきたら次に考えるのができるだけエネルギーのロスを少なくして、スピードをあげていくこと。両腕と片足を徐々に中心軸に近づけていくことで慣性モーメントが小さくなるので、回転スピードが格段にアップしていきます。

最終的に両腕を挙げることで重心位置を高くして回転半径をできるだけ小さく、しかも重心位置を高くして回転スピードをさらにアップさせています。


意外に知られていないところですが、スピン以外でも慣性モーメントが働いている場面があります。それが、バランスを取るとき。

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片足立ちでバランスを取るとき、両手を広げたり、両手を上に挙げた時の方がバランスが取りやすくなりませんか?綱渡りの動画なども長い棒を持っている映像が目に浮かびます。

実は両手を広げることで慣性モーメントを大きくして体を倒れにくくしています。

慣性モーメントは回転軸がないと働きません。ではこの時の回転軸はどこかというと、足が接地している部分。

人間は立っていても小さい範囲でゆらゆらしています。地面と細かく力のやり取りをすることで揺れを最小限にしているだけで実際には動いています。この動きの中心が接地面になるので、重心位置が接地面から遠いほど体は安定しやすくなるというわけです。


ちなみに物体の安定性の条件は、

①重心が低い
②支持基底面が広い
③重い

の3つと言われています。こう考えると、何かつじつまが合わないような気がしますが、この安定性の条件はあくまで静止力学の中での話し。静止力学においては慣性モーメントは成り立ちません。

人間が立っている時は静止立位と言っても、実際には力のやり取りをしているので静止力学の話しではなく動力学になるので慣性モーメントが働いているようです。

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