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[オープンラボ#1]足首の不安定性がある方へのエクササイズ指導前後における筋活動と足圧の変化について(8人分の全データ公開)

3月26日から約1ヶ月半ほどかけて、個人的に実験を行いました。実験をしようと思った経緯は、妻の足の動きが気になったことへの興味からです。妻の足の状態としては、

●左足が内股気味
●たまに捻ってしまう
●痛みもなく特に生活に問題はない

その日も何気ない会話からそんな話しをしていましたが、たまたま表面筋電計と足圧計が手元にあったので足のデータを取らせてもらいました。歩行とつま先立ちとの関係性や長腓骨筋や長母趾屈筋との活動との関係から長腓骨筋に筋電計をつけて。

足圧計から見ていくと、右と左の荷重バランスは平均で4:6になっています。左足で蹴れないから右に荷重してしまい、途中でバランスを崩す場面も見られました。外側に荷重していることが多いのも特徴的です。

筋電図からは明らかに左の長腓骨筋(オレンジの線)の反応が悪く、右足に引っ張られるようにして左足が反応しているように見えます。足圧計と筋電計から推測できることは、

●左での蹴り出しが弱い
●右に頼っている
●どちらの足も母趾球荷重は苦手

といったところです。捻挫をしている方のリハビリで長腓骨筋や長母趾屈筋などを活性化して、動きが良くなるのは分かっていましたが、実際にそのデータを取るまでには至っていません。

せっかくだから被験者を募集してデータを取ってみたら面白いのでは、、

そんなところから今回の実験はスタートしました。実際に捻挫グセで悩んでいる選手は多いですし、トレーナーとしても足や足首の問題は全身に波及しかねないだけに注意深く見ている方も多いのではないでしょうか。


実験の概要

主には足関節捻挫の既往歴がある方や足首に不安定さを感じている方を対象に募集をかけたところ、8名の方にご応募いただきました。

募集要綱

足首の不安定性だけでなく、アキレス腱断裂縫合術や前十字靭帯断裂再建術を受けた方、膝の痛みに悩んでいる方などさまざまな方が参加してくださったので、とても興味深い結果を得ることができました。


実験のプロトコル

実験のプロトコル

●動作はつま先立ち(両足と片足)
 2秒上げー3秒キープー3秒下ろしー2秒休憩を5回行う
●片足つま先立ちは足を浮かせるのではなく台に乗せる
 (バランスを崩しやすいので)
●対象筋は長腓骨筋(腓骨頭下端から3横指遠位部に貼付)
●動作は足圧計の上で行う
●介入は約20~30分(個別に)
●介入前後で計測をしてビフォーとアフターを観察
●可能な方には1ヶ月後に再測定をする

足部の評価としては、普段のコンディショニング指導の際にも使用しているFPI(Foot Posture Index)とウォールテストを採用し、徒手にて背屈と底屈の度合いも調べています。FPIに関してはこちらの文献が参考になります。

Intrarater reliability of the Foot Posture Index (FPI-6) applied as a tool in foot assessment in children and adolescents

※FPIは足の静的アライメントを評価する指標で本来であれば6つの指標から判断しますが、当店ではあしか協会が推奨している4つの指標から判断しています。

データの処理

両足比較

両足つま先立ちで見ていくポイントは、

●左右の荷重バランス
●足裏のどこに荷重しているか
●動き出しの左右のクセ
●トップの位置での踵の位置

などです。また、介入前後で荷重バランスがどのように変化していくかなども見ています。

片足比較

片足つま先立ちでも左右の荷重バランスを見ています。基本的に台に載せている足にはできるだけ荷重しないように、という指示をしているので

台に乗せている足への荷重が大きい=うまく蹴れていない

と判断しています。ただし、介入後に蹴り上げが強くなった分、これまでと同じようなバランスを取れなくなったために台上の荷重が増えることもありました。

また、足圧計の性能として踵や前足部への荷重には反応しやすいのですが、インソールの中心部にはセンサーが少ないようで、インソールの真ん中に軽い圧がかかっている程度では荷重していないと判断されるようです。なので、片足つま先立ちで100:0という時もありますが、実際には多少の圧は掛かっています。

筋電データ

筋電図は上記のように5回を1セットとして行っています。このように連続波形としてデータが出てきますので、これらを10秒区切りにして平均化しています。

ところどころでピョコンと上に飛び出している波が見えると思います(左上のグラフの2周期目の青色とか)。バランスを崩したりすると瞬間的に力が入るので波が崩れるので、そういった場合は除外しています。

2秒で上げて、3秒キープ、3秒で下ろして、2秒静止

というリズムで進めていますので、2秒で上げるフェーズをPositive期、3秒キープするフェーズをIsometric期(トップ期)、3秒で下ろすフェーズをNegative期としました。見るポイントとしては、

●Positive期の力の立ち上がりの角度
●Isometric期の力の伝わり方
●Negative期の力の均等具合

などに着目しています。


論文などで発表するような実験ですと、数値化して統計を出すことで有意差を求めます。ただ、そのためにはさまざまな条件を合わせながら行う必要があり、果たして実践的かと言われるとそうとも言い切れません。

ということで、今回はこれまでの研究で効果があると言われてきたことを実践して、視覚的・感覚的にどんな変化が出ているかということで成果を見ていきたいと思います。


使用した機材

足圧計と筋電計

●スポーツセンシング社DSPワイヤレス筋電センサ
●ノビテック社ソルティドスマートインソール

こちらの2つの機材を使用しました。ワイヤレス筋電センサは、データをパソコンに取り込んでから自動で積分演算してくれるので、とても使いやすいです。もう少し負荷が大きいとリアルタイムでも荷重の度合いを見ることができますが、基本的にはデータをエクセルシートに取り込んでグラフ化するまではどんなデータが取れているかはわかりません。

足圧計はインソールタイプのもの。本来であれば靴の中に入れて使うものですがサイズの問題(こちらは約25.5cm)もあるので、今回は床に置いてその上でカーフレイズをしていただきました。


過去の文献から

過去の文献から

つま先立ち、歩行、長腓骨筋などの関係はかなりの数の文献が発表されていますので、そこから簡単に引用させていただきました。

特に捻挫後の長腓骨筋の活動などは興味深く、ここをいかに回復させるかが鍵になるとともに、長腓骨筋だけではなく距骨のはまりを良くするためには長母趾屈筋なども大事になってきますのでその辺りも調べています。


※参考文献のリンクはこちら(全て日本語の文献です)

長腓骨筋と後脛骨筋のエクササイズが踵上げ動作に及ぼす影響について

足関節捻挫における長腓骨筋の底屈位での主動作筋としての選択的トレーニングと前脛骨筋に関する研究

足関節底屈運動における母趾貢献と長母趾屈筋断面積の関係

カーフレイズ動作と歩行中の蹴り出しにおける長腓骨筋・後脛骨筋の筋活動の関連

足関節内反捻挫好発者の身体的特徴と バランス能に関与する因子の検討


8名の被験者の特徴

今回は足首に不安がある方というタイトルで募集をかけましたが、足首以外にも膝や股関節の影響が出ている方も多かったので介入ではさまざまなアプローチを行っています。8名の方にご協力いただき、そのうち4名の方には長期的効果を判定するために1ヶ月後にも再度測定させていただきました。

また、筋電計のエラーや足圧計の充電切れなどにより、3名の方のデータが不足しています。その点もご承知おきください。

Aさん
小学生時代にひどい捻挫をし、脛骨の疲労骨折も経験。足首のグラつき感が気になる。長母趾屈筋や伸筋支帯の滑走性がポイント。(1ヶ月後測定あり)

Bさん
5年ほど前にアキレス腱断裂縫合術を受けており、不安定感というよりも可動域の制限であったり力の入りにくさを感じている。Kager's fat padの滑走性がポイント。

Cさん
足首の捻挫グセが気になっている。逆脚の前十字靭帯断裂再建術を受けているため、それをかばって動いている傾向があるので足首とともに膝へのアプローチも行う。(1ヶ月後測定あり)

Dさん
足首の捻挫グセとともに、同側の膝の痛み(軽い伸展制限あり)にも悩んでいる。過去に逆の膝を痛めたこともあるため、足首とともに膝の動きにもアプローチしている。(1ヶ月後測定あり)

Eさん
人工股関節置換術(右)を8年ほど前に受け、その後膝関節変形症(右)も診断される。現在は右の膝は問題ないが、左膝の変形性膝関節症の痛みが出ている。左の外反母趾あり。(1ヶ月後測定あり)

Fさん
3年ほど前からランナー膝に悩んでおり、半年ほど前に足首を剥離骨折。膝と足首の動きが関連しているのではないか、と本人も悩んでいた。
(足圧計の充電切れにより介入後の右足のデータが取れませんでした)

Gさん
左足首の不安定さと全体的な体のバランスの悪さが気になっている点。足首だけではなく、胸郭や骨盤まわりの動きにも関与。
(筋電計のエラーにより介入後の片足ずつの筋電データがありません)

Hさん
バランスを取るのが苦手で、足首の不安定さを感じている。支えなしでつま先立ちをキープするのが難しい。
(筋電計のエラーにより介入後の筋電データが不足しています)

介入に関しては、個別の対応となっています。それぞれの人ごとにどの筋にどんなアプローチをして、どんなエクササイズを取り入れたかなども記しています。では、ここから実際の実験データになります。


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