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書店通になろう note Edition連載開始のお知らせ兼まえがき

『書店員X』に、なれなかった私

 『書店員X』(著:長江貴士さま)という本をみなさんご存知でしょうか?
 文庫本を手作りのカバーで包み、なんの本であるかわからない状態で販売をする、『文庫X』という企画を成功させた書店員さんがお書きになった本です。
 
 文庫本に限ったことではありませんが……
 本というのは通常、出版社さんがどういう表紙にしたらもっとも視覚に訴えられるだろうか、どのような帯の文句をつければ手に取ってもらえるだろうか――と考え抜かれたうえで世に出されています。

 それをあえてすべて隠し、中身も見えないようにしてしまった。
 そんな、なんの本だかわからないなら、売れるわけがないじゃないか。そう思われるかもしれません。

 ですが、なんと1ヶ月で1,713冊、もっとも売り上げた日で1日206冊
 という、にわかには信じられない冊数をたった1店舗で売り上げ、メディアにも取り上げられた――という、これまでの書籍販売のあり方を根本から覆した快挙を仕掛け人自ら振り返った内容となっています。
 
 この冊数の凄まじさは、以前『私書店員~』で『◯◯Walker』という地域限定の情報誌を400冊ほど売り上げたのが私の書店員時代最大の成果だったと書いたことと比較していただければ、いかに桁違いかおわかりいただけるかと思います。
 
 こういった試みを成果を収めた、ということ自体は風のうわさで存じ上げてはいましたが――
 そちらの本を読んで「すごい」という率直な思いを感じたと共に、すっかり打ちひしがれてしまったのです。


 なんで私は『書店員X』になれなかったのだろうか――? と。
 

 私が以前連載しておりました『私書店員、ラノベ担当。』

をお読みいただいている方ならご存知かと思われますが……私は過去、2度にわたって、それぞれ別の店舗で書店員をしておりました。

 お世話になっていた書店さんは2店舗ともありません
 今はまったく別の仕事をしています。
 言うならば、私は『書店員X』になれなかった側の人間なのです。

 実のところ、今でもよく当時を振り返っては、あの頃に戻りたいと思っています。なんであの時ああしていなかったのだろうか? と己を責めることもあります。

 ですが、文庫担当時代のことを中心に当時を振り返った前作『私書店員、ラノベ担当。』はカクヨムさんのエッセイコンテストで受賞こそ逃しましたが、その後現在にわたっても読まれている作品となりました。

 本当にありがたいことです。
 あの作品を書いていた当時からはまったく想定していなかった反響をいただき、幸せな作品となったな、と心から感じています。
 
 特に、現役のライトノベル担当の方に実際に参考にしていただいているということをお聞きしました時は、本当に書いてよかった、と思いました。

 私は『書店員X』になることができませんでした。
 
 ですが、だからこそ。
 結果を出せなかった人間だからこそ。
 現役の書店員さんには私のような後悔を抱いてほしくない。

 今も書店という「戦場」で毎日奮闘している方々に私の経験が少しでもお役に立てるのなら、もう一度思い出せる限りのことを書き留めておきたい。
 
 さらにそれが、現役の書店員さんと出版社さんとがより緊密な関係を築くための橋渡しのような役割を担えたのならば、さいわいです。
 
 
 また、もちろん書店員さん以外の読者さんからも、

「へぇ~そうなんだ~!」

とおっしゃっていただけるようなものになればいいな、と思います。
 

 本作は、小説投稿サイト『カクヨム』さんで連載していたコラムをnoteに移したものになります。

 私がなぜ『カクヨム』さんで書くことにこだわっていたのか?
 それは私淑しているある作家さんがKADOKAWAさんで活動されている、というのもあったのですが、もうひとつ、なんといっても「出版社が直接運営している投稿サイトだから」というのが非常に大きかったです。
 
 読者さんに書店員のおしごとについて知っていただく機会が設けられる、というのと、出版社さんに直接現場の声に近い実態を届けることもできる、というふたつの狙いがありました。
 それらの狙いはある程度当たりましたが、何年もカクヨムさんに身を置いているうちに迷いも強くなってきました。

 『カクヨム』さんは小説投稿サイトです。
 本来は小説で結果を出さなければならないのに自分はといえば、エッセイ方面ばかり……ということにものすごいコンプレックスを抱いており、私は本来『カクヨム』さんで書いているべき人間ではない、というのはずっと前から思っていました。 
  
 本コラムの連載をnoteに移す、ということはnoteにアカウントを作成した当初から考えていたのですが、最初にわたしという存在を見出してくださった『カクヨム』さんへの、ある種の『裏切り』になるのではないか、とずっと踏み切れずにいたのです。

 しかし、最近少しずつnoteさんでの活動が軌道に乗り始めたのを承けて、『カクヨム』利用層以外にもリーチできるかもしれないと思い、私のメインコンテンツであった書店員エッセイをこちらnoteさんで連載していくことを決めた次第です。
 
 しばらくは『カクヨム』版『書店通になろう』の過去記事を掲載する形になりますが、新たなコラムも追加していこうと思っています。
 
 過去に私の連載を見てくださっていた方も、またnoteさんで新しく知っていただいた方々も、どうかよろしくお願い致します。

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