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SIerの脱・人月型ビジネスとSES企業の未来

システム開発業務を要件定義から移行まで一貫で行うシステムインテグレーター(SIer)は、オフコン、メインフレームの黎明期から続く古い慣習の中で人員管理に苦心している。

長年、パートナー企業に身を置いてきた身としては、課題感を強く持っているこの「人月」という工数の単位。

日本ユニシスが挑戦したとの日経クロステックの記事では、文化を帰るための挑戦に胸を打たれた。記事では、従来のSI事業を「人月型ビジネス」と称し、約3割の人員を柔軟な働き方が可能な事業に割り当てたという。

その3割の行き先は、AI、ビックデータ系という日本にはまだエンジニアが少ない領域。他にもUI/UX領域やアジャイル開発体制でのいわゆるモダンな技術の介入する分野にシフトさせ、従来の組織の中で枯れた技術を扱うSI案件から3割の人材を脱却させた。

では残りの3割の仕事は断ったのかというと、外部委託を増やしたという。それは解決になっているのか?という疑問も持たれるが、コアパートナー企業の数は従来から3分の1に見直し、50社ほどに絞ったという。

多数の取引先を作れば作るほど、パートナー会社とのリレーションシップの構築工数や管理業務の工数が増える。日本ユニシスは思い切って歴史あるビジネスパートナーとの関係性を見直すという、古い業界では禁じ手とも言える改革に手を出した。


私が前職で取引させて頂いていたSIer企業も同様にコアパートナー制度というものを作り、日本ユニシス同様の改革を進めていたが、その実態は結局のところ人材不足の波には逆らえず、一部なぁなぁになっていた。

先端技術に若手エンジニアを触れさせたいと内製化に取り組んでいたものの、結局のところはAIやビックデータなどの領域ではなく、DevOpsのツール開発等に留まっていたようで、その成果がビジネスへどういった影響を及ぼしたかは知る由がない。つまり効果のほどはしれているのだろう。

この問題点はいくつかあり、先端技術に触れる機会の創出できないSIer企業は、エンジニア社員の流出が激しい。特に30代までの若手から中堅どころの社員の離職率が異様に高く、40代以上の管理職ばかりが溢れる体制になってしまっている。

さらには、コアパートナーとの関係性において、業務委託のボリュームが必然に増えるため、SIer企業プロパーの存在感が現場で薄れ行く傾向にある。

しかも現場には40代以上の謂わば恒例のエンジニアが従事するため、人材によってはパフォーマンスが出ないという問題や、若手との価値観の違いに摩擦が起きやすいという問題が多くあった。

日本ユニシスの挑戦は、こう言った組織のイシューにアプローチする良い事例として認知されてほしい。


また、パートナー会社側には一種の脅威の事例ともなり得る。

前職で勤めていたSES企業としての立場からすれば、パートナーの絞り込みの風潮が強まれば痛手になる。

多くのSIer企業に直取引できるか。それがSES企業の命題であり、事実、売上に直結する。

パートナーの絞り込みで直取引のSIer企業から切られた結果、商流が深くなるようなことが多発すれば、企業としては成り立ったとしても、少人数参画の案件が必然的に増えるため、自社エンジニアの体制化は思うようにはいかない。

結果、SES企業の自社エンジニアは、単価や現場の体制面で帰属意識が一層希薄となり、SES企業は離職率の悪化に苛まれることだろう。

SES企業としては、人月型ビジネスしか事業モデルがないような会社も多くある。自社サービス等の開発に踏み切る利益は、コロナの影響もあってより難しくなり、SES事業のみでは大きな利益は期待できない。


脱・人月型ビジネスと内製化の道を行くSIerと、人月型ビジネスから脱却したくとも顧客から道を閉ざされたSES企業の構図は、日本のエンジニア業界の格差を広げることになるだろう。

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