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ケニー・ロバーツ、私の本当のヒーロー。

 二十歳前後の頃、一台のオートバイに乗っていた。
 大きなオートバイに乗ることに憧れて、初めて手に入れた中型のYAMAHA。
 オートバイに乗って、風になりたい。そう、頑なに思っていた。
 どこまでも、走り続けたかった。知らない町に、風景に、人に。
 そして、その先に新しく生まれてくる己の想いに触れてみたかったのだ。
 オートバイさえ手に入れれば、目に前の風景は、全く別の世界に変わってくれるはずだ。
 そのような想いを強固に保持していた。あの頃の時代背景、風潮が、そんな自分の想いを後押ししてくれた。
 片岡義男の小説。オートバイに関する、多種の活字メディアの存在。
 そんな世界に、どっぷりと心酔していた日々が続いていた。
 そして、その頃出会った絶対的なヒーローがいる。
 彼の名は、ケニー・ロバーツ。

 世界グランプリの王者として時代を駆け抜け、まだまだ余力を残しながらその舞台から引退。
 そして、日本の鈴鹿8時間耐久ロードレースで復活。当時、日本トップレーサーであった平忠彦選手とのコンビで参戦してくれたのだ。
 ワークスチームのスポンサーとなってくれたのは、当時、平選手がCM出演していた「資生堂」。「TECH21(テックツーワン)」カラーに纏われた、ゼッケン21のワークスマシンFZRが、本当にカッコよくて、ハイセンスで、眩しくて・・・。一発で痺れまくり、憧れたものだった。 
 ロードレースは、華々しい世界だが、同時に大きな危険と背中合わせの現実が存在する。
 なぜ、あのような危険なスピードの世界に挑み続けるのか。
 それは、人間にとって、ボクサーがなぜ相手を殴ろうとするのか、登山家になぜ危険な山に登るのか、といった問いを投げかけるものと同じくらいの愚問なのかも知れない。
 私は、思う。
 理屈を超えたところで気づく感動こそが、人間の本質との向き合いなのだと。
 ケニーの走り、目の輝き。私はあの時代に、人間の美しさの確かな本質を見た。

 ケニー・ロバーツ。
 私ににとって永遠の、本当のヒーロー。

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