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父親になった日

note6周年なんですね。6年もサービスを続けられるというのは、並大抵のパワーでは成し遂げられないことです。おめでとうございます。

というのを見ながら、そっかー、うちの子ももう生まれて2周年かー。
と、思いながら、以前書いたnoteをもう一度読み返してみました。

心が落ち着かない時間が多くなってきていますが、改めて、大切な人がそばにいてくれるのは本当にありがたいなぁと思い直した次第です。

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その日もぼくは東京でいつもどおり働いていた。

16時、奥さんから電話があった。

「破水したかもしれんから病院いってくるわ」

もちろん、いつ産まれてもおかしくないとはわかっていたものの、いざ産まれるかもしれないという予告をうけると、どうしたらいいかわからない。

とりあえず仕事を片付けて18時に会社をでる。

破水したって言ってたけど、別にそんな急いで行く必要ないか。一度着替えを取りに家に帰ろうかな。と思ったんだけど、何となくいやな感じがしてとりあえず仕事終わりの格好のまま品川に向かうことにした。

品川に向かうタクシーの中で奥さんに電話すると元気そうな声。「なんかまだまだかかるような気がする」

奥さんは里帰り出産のため、実家のある兵庫にいた。東京からだと実際に病院につくまでは4時間以上かかることになる。

僕は品川でごはんだけ購入し、すぐに乗れる新幹線のチケットを買った。

特に動揺しているつもりもなかったのだが、新幹線の中では何も手につかずひたすらネットサーフィンしていた。

「出産 立会い 夫」

「立会出産 夫 やってはいけない」

予定では出産に立ち会うことになっていた。
どうやら、このときの私の言動によっては、一生奥さんから非難され続ける可能性があるらしいと、どこかのネット記事で読んだことがあった。

結局品川で買ったごはんも、京都につく直前になってようやく食べ終えた。

新大阪について奥さんに連絡すると、奥さんのお母さんが出た。

「もうすぐ産まれそうな感じやから、早く来て」

なるほど、いや、ちょっと待ってほしい。さっきまでは、まだまだだろうと思っていたところにこの展開、ちょっとなんだかどきどきする。
強がって書いてしまったけれど、かなり心臓が早く動いていたのは今でも覚えている。

しかも、早く来てと言われても、奥さんがいる病院までは電車で行くのが一番早い。ぼくの力で電車をいつもより早く動かせればいいんだけど、そんなことは当然できない。

「わかりました、急ぎます」

といってとりあえず電話きった。

そうか。産まれるんだな。ぼくの子が産まれるのか。奥さんは大丈夫だろうか。今頃きっとつらいんだろうな。がんばれ、奥さん。今はそれを祈ることしかできない。

でも、正直な話、ぼくが病院につくまでに産まれてくれないかな。とも、一瞬だけ思ってしまった。病院に向かう電車の中で、今からぼくは出産に立ち会うのだ、と思うとなんだか急に胸が苦しくなって、ふとそんなことを思ってしまった。
ごめんなさい。

なんとか産まれる前に病院にたどり着いて、結局そこから2時間くらいかかったと思う。

これも聞いたことしかなかったけれど、テニスボールをお尻にあてて痛みをやわらげるという作業を2時間ぶっとおしで続けた。目の前の奥さんを見ていると、疲れたとか思う余裕もなくて2時間全力で押し続けられた。翌日なんで筋肉痛なんだろうと思ってたんだけど、おそらくこれのせいだったんだろうと思う。

結論からいうと、めちゃくちゃ難産だった。産まれてくるこどもが、ちょっとばかり大きかったらしい。なかなかでてこなかった。

看護師さんが奥さんのうえに馬乗りになって、全体重をかけて奥さんのおなかを押している。「お願いでてきて」と叫びながら奥さんのおなかを押している。

いま、ぼくの目の前で繰り広げられている光景は、本当にいま、ぼくの目の前で起こっていることなんだろうか。

おもわずぼくも、奥さんの名前を呼びながら、がんばれ、がんばれ、と叫んでいた。ちょっと泣きそうになっていた。と同時に、ちょっといろいろ覚悟した。

あとからわかったはなしだけれど、一緒に立ち会っていた奥さんのお母さんも、ちょっといろいろ覚悟していたらしい。

というくらいほんとうにすさまじい光景だった。

あかちゃんの泣き声が聞こえてきたときには、ありがとう。と心から思った。なんだろう、はじめての感覚だった。

こどもが産まれてもう半年以上たつんだけれど、今でもあのときの感覚は忘れることができない。へその緒カットもなにもできなかったけれど、無事にうまれてきてくれてありがとう。無事にうんでくれてありがとう。無事にぼくを父親にしてくれてありがとう。

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スキとありがとうであふれる世界を作りたい。スキとありがとうでつながる関係を作りたい。だからスキ、してくれたら、ありがとうって言います。