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模倣品(パクり製品)対策の法律実務-不正競争防止法を活かせないか?

知的財産保護、といえば特許権、著作権、意匠権等が有名です。

しかし製品の模倣品(いわゆる「パクり」製品)への対応について、不正競争防止法も活用できる、という点をご紹介します。

事前の備えがない場合

本来的に製品のデザインを保護する意匠権は、出願と登録を前提とする権利です。

そのため製品のデザインについて、意匠登録をしてこなかった場合、競業他社による模倣等の被害にあったとしても活用できません(だからこそ、前もっての知財戦略が必要だともいえます。)。

そのため、意匠登録のような「事前の備え」がない場合、著作権や不正競争防止法上の権利行使といった、登録を前提としない法制度による保護が受けられないかという検討が必要になります。

なお著作権によって工業製品の模倣に対応できるかについては、製品に関する美術は「応用美術」であって、著作権法が本来的に保護の対象としているような「純粋美術」とは異なる、という議論があり、ここについても各裁判例があります。


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不正競争防止法による権利行使

今回は、もう1つの手段である、不正競争防止法上の権利行使の可能性についてご紹介します。

・東京地判平成11年6月29日(判例タイムズ1008号250頁)

上記は、イッセイ・ミヤケ「プリーツ・プリーズ」類似品訴訟とも呼ばれ、衣服のデザイナー事務所が原告となった事件です。

原告デザイナーは、婦人服について、独特の細かいプリーツ、直線裁断による幾何学的なライン、身頃から袖に切り替わる部分の独特の形態等の特徴を有する商品を考案しました。

しかし、それらの特徴の全てが共通する商品が販売されてしまったので、これに対して、不正競争防止法上の権利行使をしたという事案です。

原告が主張したのは、正確には、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為であり、「商品等表示混同惹起行為」といわれるものです。

不正競争防止法2条1項1号
「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」

この条文は、他人の商品等表示、つまり他人の製造元表示や、他人のブランドとして認識されている表示を使用して、製造元やブランド等の誤認、混同を生じさせるような行為を指しています。そのような行為を、「不正競争」として禁止しているものです。

そして上記裁判例は、独特の細かいプリーツ等のデザインを「他人の商品等表示」として、製品の出所表示機能を有するに至っていることを前提に、同じ特徴の製品を販売する被告に対して、損害賠償等の権利行使を認め、結果として原告の請求が認容されました。

つまり、一定のデザインが充分に周知となっており、「このデザインであれば、あの会社の製品に違いない。」という印象すら与えているものについては、不正競争防止法上の保護が与えられます。

この場合、意匠登録等がなくとも、デザインへの模倣、パクりは許されないということになります。


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その他、 不正競争防止法による手段


他に不正競争防止法の活用により模倣行為、模倣品に対応するのであれば、下記の不正競争の禁止規定が選択肢に入ってきます。

・著名表示冒用行為の禁止
・商品形態模倣行為の禁止

しかしながら、まず前述した商品等表示混同惹起行為については、周知性(「このデザインであれば、あの会社の製品に違いない。」という印象すら与えるほど、有名なのか?)を立証できるかという点が大きなハードルになります。

また「著名表示冒用行為の禁止」「商品形態模倣行為の禁止」についても、一定の要件(「著名表示であること」や「デッド・コピー品であること」)につき、立証の困難性が生じることが予想されます。

早い話が、保護が完全ではない、ということです。

そのため、特に、商品が周知性を帯びる前段階(ヒット商品になる前)における保護を受けるためには、意匠登録(場合によっては、立体商標登録の活用。)を検討するべきといえます。

意匠登録済みの製品については、意匠法による類似製品への権利行使、過失の推定等の規定により、模倣を行う業者に対する権利行使が容易となり、比較的、厚い保護が受けられるといえます

不正競争防止法による保護があるからといって、意匠を取らないでいいや、という選択にはならないということですね。

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