小学校の水泳の授業等で使用される水着の形状の地域差についての研究

1 緒言

 著者は、過去に報告した研究「小学校の水泳の授業等で使用される水着の形状の変化についての研究」および「中学校の水泳の授業等で使用される水着の形状の変化についての研究」(以下「過去の報告」と呼称)において、小中学校の水泳の授業や臨海学校などの行事(以下「水泳授業等」と呼称)の中で、どのような形状の水着が使用されているのかを明らかにした。その研究によって、小中学生が水泳授業等で使用する水着は近年、より肌の露出が少なく、より体のラインが分からないものに変化していることが明らかとなった。

 しかし過去の報告では、インターネット上で画像検索を行って集めた水泳授業等の画像を使って調査を行っており、北海道から沖縄までのありとあらゆる場所で撮影された画像が混ざっている。そのため、地域ごとに水着の形状を調査することは難しかった。本研究では、いくつかの自治体に着目し、地域ごとに水着形状の特徴を明らかにすることを試みた。

2 水着の種類

 本研究を進めるにあたって必要な水着の分類方法は、過去の研究と同様、10タイプ(男子5タイプ、女子5タイプ)に分類する方法を採用する。男子における各タイプの水着の定義は以下の通りである。

  • ①男子ブリーフ型・・・体に密着し、かつ、ブリーフのような形状をしていて太ももの全てが露出しているもの

  • ②男子ショートパンツ型・・・体に密着し、かつ、股下部分の丈が数cm程度しかなくて太ももの大部分が露出しているもの

  • ③男子スパッツ型・・・体に密着し、かつ、太ももの半分以上が露出しており、かつ、男子ショートパンツ型ではないもの

  • ④男子ロングスパッツ型・・・体に密着し、かつ、太ももの半分以上が布で覆われているもの

  • ⑤男子サーフパンツ型・・・体に密着しないもの

同様に、女子の水着に関しても、以下のように定義する。

  • ⑥女子レオタード型・・・体に密着し、かつ、レオタードのような形状になっていて太ももの全てが露出しているもの

  • ⑦女子ショートパンツ型・・・体に密着し、かつ、股下部分の丈が数cm程度しかなくて太ももの大部分が露出しているもの

  • ⑧女子スパッツ型・・・体に密着し、かつ、太ももの半分以上が露出しており、かつ、女子ショートパンツ型ではないもの

  • ⑨女子ロングスパッツ型・・・体に密着し、かつ、太ももの半分以上が布で覆われているもの

  • ⑩女子スカート型・・・体に密着しないもの

 また、過去の研究と同様、いわゆるスクール水着として古くから使われてきた形状(男子ブリーフ型、男子ショートパンツ型、女子レオタード型、女子ショートパンツ型)の水着をまとめて旧型水着と呼ぶこととし、それ以外の水着は非露出型水着と呼ぶこととする。以下に、水着の形状および名称についてまとめた図を記載する。

図1 小学生が使用する水着形状の模式図。男子(上段)については水着形状を、①男子ブリーフ型、②男子ショートパンツ型、③男子スパッツ型、④男子ロングスパッツ型、⑤男子サーフパンツ型の5つに分類する。女子(下段)については水着形状を、⑥女子レオタード型、⑦女子ショートパンツ型、⑧女子スパッツ型、⑨女子ロングスパッツ型、⑩女子スカート型の5つに分類する。また、男女それぞれで、肌の露出度が多めの水着(図左側)を旧型水着と定義し、露出の少ない水着(図右側)を非露出型水着と定義する。

3 調査方法

 本研究は、過去の報告で用いたデータを使用するため、水着形状の調査方法の詳細についての説明は割愛する。
 過去の報告で得られたデータは、撮影した年および場所ごとに分けて記録してあるため、本研究ではその中でも特にデータ数の多かった7自治体に着目し、各自治体ごとに水着形状を調査した。
 データは、2000年代後半(2005~2009年)、2010年代前半(2010~2014年)、2010年代後半(2015~2019年)、2020年代前半(2020年以降)の4期間に分け、年代ごとに水着形状がどのように変化するかを調査した。
 また、中学生の場合はもともとのデータ数が少ないため、本研究は小学生のみを対象とした。
 参考までに、過去の報告における全データ(これを全国平均データとする)を、上記期間に分けて水着形状の割合を示したのが以下の図である。

図2 小学生の水泳授業等における各水着の着用率(左図:男子、右図:女子)。期間を、2000年代後半(2005-2009)、2010年代前半(2010-2014)、2010年代後半(2015-2019)、2020年代前半(2020-2023)に分け、それぞれの年代で各水着の着用率を求めた。

 上図で示したような方法で、各自治体ごとの水着形状を調査した結果、水着形状の分布傾向は自治体によって大きな差異があることが確認できた。そして、その分布傾向は3パターンに大別できた。次章からは、各自治体におけるデータを詳細に見ていくこととする。

4 結果(タイプⅠ)

 本研究で調査した7自治体のうち、4自治体については、全国平均に近い傾向となった。このような傾向の自治体を、便宜上、自治体タイプⅠと呼ぶこととする。

図3 自治体A~D(自治体タイプⅠ)における小学生男子の各水着の着用率。これらの自治体の水着形状は、全国平均と近い傾向を示している。
図4 自治体A~D(自治体タイプⅠ)における小学生女子の各水着の着用率。これらの自治体の水着形状は、全国平均と近い傾向を示している。

 自治体タイプⅠの男子においては、男子ブリーフ型と男子サーフパンツ型の割合が少なく、大半の男子が男子ショートパンツ型、男子スパッツ型、男子ロングスパッツ型のいずれかを着用している。そして、年代が新しくなるにつれて男子ロングスパッツ型の割合が増大している。
 自治体タイプⅠの女子においては、2000年代後半まではほとんどが女子レオタード型を着用していたが、近年その割合が急速に減少している。その代わりに、女子スパッツ型、女子ロングスパッツ型、女子スカート型の割合が増加している。
 また、男女に共通する定性的な傾向として、水着の色は黒色・紺色・青色系統がほとんどである。すなわち、典型的なスクール水着で使われるのと同様の色をしている。

図5 自治体A~Dにおける小学生の非露出型水着の着用率(左図:男子、右図:女子)。点線が全国平均、実線が自治体A~D(自治体タイプⅠ)。

 最後に、非露出型水着の着用率を全国平均と比較した結果について、上図に示す。非露出型水着の着用率の全国平均(上図の黒点線)は年々上昇しているが、自治体タイプⅠの4自治体も全国平均と同様の挙動を示していることが分かる。

5 結果(タイプⅡ)

 本研究で調査した7自治体のうち、2自治体については、非露出型水着の着用率が全国平均と比べてかなり低い傾向を示していた。このような自治体を便宜上、自治体タイプⅡと呼称する。

図6 自治体Eおよび自治体F(自治体タイプⅡ)における小学生の各水着の着用率(上段:男子、下段:女子)。これらの自治体の水着形状は、全国平均と比べて旧型水着の割合が多い傾向にある。

 自治体タイプⅡの男子においては、自治体タイプⅠや全国平均と比べて、男子ブリーフ型や男子ショートパンツ型の割合が大きい。また、自治体タイプⅡの女子においては、自治体タイプⅠや全国平均と比べて女子レオタード型の割合が大きい。水着の色の傾向については、自治体タイプⅠと同様に、黒色・紺色・青色系統がほとんどであった。

図7 自治体Eおよび自治体Fにおける小学生の非露出型水着の着用率(左図:男子、右図:女子)。点線:全国平均、赤実線:自治体E、青実線:自治体F。

 上図に示す通り、自治体タイプⅡにおける非露出型水着の着用率は、全国平均と比べて低い。その理由は上で述べた通り、男子ブリーフ型・男子ショートパンツ型・女子レオタード型の着用率が全国平均と比べて高いためである。しかし、自治体タイプⅡにおいても非露出型水着の着用率は近年上昇傾向にあるため、今後は全国平均と同様の傾向になるかもしれない。

6 結果(タイプⅢ)

 本研究で調査した7自治体のうち、1つの自治体については、非露出型水着の着用率が全国平均と比べて高く、他自治体とはかなり異なる傾向が見られた。このような自治体を便宜上、自治体タイプⅢと呼称する。

図8 自治体G(自治体タイプⅢ)における小学生の各水着の着用率(左:男子、右:女子)。全国平均と比べて男子サーフパンツ型と女子スカート型の割合が非常に大きいという傾向が見られた。

 上図からも明らかなように、自治体タイプⅢにおいては、男子サーフパンツ型と女子スカート型の割合が非常に大きい。さらに、男子ショートパンツ型や女子レオタード型のような露出の多い水着は、ほとんど着用されてないことが分かる。
 さらに、画像を確認すると、水着の色がカラフルであり、統一されていないことが見て取れた。ゆえに、同自治体では、学校指定のスクール水着のようなものは存在せず、各人が自由に水着を選んでいるものと考えられる。

図9 自治体G(自治体タイプⅢ)における小学生の非露出型水着の着用率(左図:男子、右図:女子)。点線:全国平均、赤実線:自治体G。

 上図に示す通り、非露出型水着の着用率についても、全ての年代において全国平均を上回っている。

7 考察

 本研究では、過去の研究で集めたデータのうち、代表的な7自治体について着目し、各自治体ごとに水着の形状を調査した。そして、前章までに述べたように、各自治体は水着形状の傾向によって3タイプに大別されることを示した。各自治体タイプの特徴についてまとめた表を下に示す。

図10 自治体タイプⅠ~Ⅲにおける、小学生の水着形状の特徴。

 以下では、このような地域差が生じる理由について考察したいが、考察するにあたって前提となる事象を3点確認しておきたい。
 第一に、小学生は肌露出の多い水着や、体のラインがはっきり見えてしまう水着を着用することに対して、羞恥心を感じていると考えられる。ベネッセが2013年に小学生の保護者に対して行ったアンケート(参考文献1)によると、「子どもは授業で水着を着用することを恥ずかしがっているようだ」と述べている保護者もいた。すなわち子どもは、水着を着ることによって胸部・体毛・体型などが露わになり、それを友達や異性に見られることに対して羞恥心を感じていると考えられる。このように、小学生(特に第二次性徴期が近い高学年の子ども)は肌の露出度の多い水着や、体のラインが見えてしまう水着を着用することに対して、個人差はあるものの概ね羞恥心を持っていると言えるだろう。
 第二に、多くの小学校では水着形状等に関する何らかの規則が決められており、子どもや保護者はその規則の範囲内でしか水着を選べないと考えられる。「いこーよ子どもの未来と生きる力研究所」が2022年に保護者に対して実施したアンケート(参考文献2)によると、小学校の水泳授業等で定められている規則として、保護者の54%が「黒や紺などの色や無地以外の水着禁止」、41%が「ベーシックな形以外の水着(セパレート水着、ロング丈の短パンなど)の禁止」、20%が「指定の水着以外禁止」などがあると回答している。逆に、規則は「特にない」と回答したのは20%に過ぎなかった。このことからも、水泳授業等で使われる水着に関する規則が多くの学校で存在していることは明らかである。そのため、例えば指定の水着が男子ブリーフ型や女子レオタード型だった場合、子どもは恥ずかしくてもそれを使わざるを得ない、という状況が考えられる。また、指定の水着がない場合でも、色や形状などに規則があり、いわゆる典型的なスクール水着(体に密着するタイプの水着)を着ざるを得ない場合も存在すると考えられる。
 第三に、もし学校で使用する水着を自由に選べるのであれば、子どもやその保護者はより肌露出の少なく体のラインが出にくい水着(本研究でいうところの男子サーフパンツ型や女子スカート型)を着用するだろう、という推測が成り立つ。上で述べたように、多くの学校において使用できる水着の形状や色に制限がある。しかし、学校とは関係のない海水浴やプール、川などでは、スクール水着を着用している子どもは非常に少なく、男子サーフパンツ型や女子スカート型が非常に多い。このことからも、水泳授業等でスクール水着が使用されるのは、子どもや保護者の意思というよりもむしろ、そのような規則があるから、と考えるのが自然である。ゆえに、もし学校で水着に関する規則が何も無ければ、水泳授業等でも男子サーフパンツ型や女子スカート型の水着が広く使われるようになるだろうと推測できる。
 以上の3点を踏まえた上で、本研究で大別した各自治体を見ていくと、以下のようなことが推測される。
 自治体タイプⅠについては、学校指定の水着はないが、黒・紺・青系統の色で体に密着するタイプの水着を着用しなければならないという規則がある自治体、であると考えられる。このような自治体では、カラフルな水着や、体に密着しないタイプの水着(男子サーフパンツ型など)の着用は認められていないが、体に密着するタイプで黒・紺・青系統の色であれば、自由に水着を選べる。そのため、体に密着するタイプではあるが肌の露出は少ないという形状が選択されやすいと考えられる。実際に、自治体タイプⅠの男子は男子ロングスパッツ型の着用率が高い。一方、女子については近年、女子スカート型の着用率が増大している。女子スカート型には、カラフルで泳ぎにくいタイプもあるが、黒・紺・青系統の色(いわゆるスクール水着と同様の生地で作られている)で丈が短く泳ぎやすさを阻害しないタイプも存在している。自治体タイプⅠで近年増えているのは、後者のタイプだと考えられる。
 自治体タイプⅡについては、学校指定の水着を着用しなければならないという規則がある自治体、あるいは、つい最近までそのような規則があった自治体、であると考えられる。旧型水着は肌の露出が多く羞恥心を覚えやすいため、そのような水着は子供や保護者から避けられると考えられるが、自治体タイプⅡでは旧型水着の割合が比較的高い。そのため、そういった形状の水着が学校指定となっており、それ以外の水着は着用禁止というルールがあったと考えられる。しかし、自治体タイプⅡでも近年は非露出型水着の割合が増えているため、近年はそのようなルールは無くなり自治体タイプⅠと同様のルールになっている可能性もある。
 自治体タイプⅢについては、水泳授業等で使用する水着について特に規則がなく、子どもや保護者が自由に水着を選べる自治体、であると考えられる。これらの自治体では水着に関する規則が無いため、子どもや保護者の大半が、より羞恥心を感じにくい形状(男子サーフパンツ型や女子スカート型)を選択していると見られる。子どもが羞恥心を感じないような水着を求める声が今後も続くのであれば、現在では自治体タイプⅠやタイプⅡとなっている自治体も、将来的に自治体タイプⅢに移行する可能性もあるだろう。

8 結言

 以上より、小学校の水泳授業等で使用される水着の形状には、地域差が見られることが示された。そして、その地域差は、学校が定める水着についての規則の違いによって生じていると考えられた。
 もし、学校において水着に関する規則が何もない場合、大半の子どもが男子サーフパンツ型や女子スカート型を着用するようになる(自治体タイプⅢ)。一方、学校指定の水着を着用しなければならないような自治体では、旧型水着の着用率が上がる(自治体タイプⅡ)。しかし、2022年現在、多くの自治体はそれらの中間のような規則、すなわち、「泳ぎやすく体に密着するタイプの水着でなければならないが、丈の長さ等は自由に選んでよい」という規則を採用していると考えられる(自治体タイプⅠ)。
 中学校についても同様の地域差があるのではないかという疑問が考えられるが、中学校の場合はどの地域も旧型水着の着用率が非常に低いため、正確な分析が難しいと考えられる。より古い時代については、小学校の場合と同様の地域差が見られると予想されるが、インターネット上で確認できる2010年以前の画像は非常に少ないため、やはり分析は難しいであろう。
 一方、小学校の場合についても、今回着目した7つの自治体以外でも地域差が確認できるか、今後データ数を増やして検証を進めたい。現状では、収集できた画像が少なく、データを自治体別・学年別などに分けて考察を行うことが難しい。しかし、自治体の中には、学校関係者が授業や学校行事の様子を頻繁に撮影し、画像をホームページやブログ等に積極的に掲載している所が存在する。そうした自治体の小学校のブログ等を網羅的に調査することで、多くの水着形状データを取得することが可能になり、様々な自治体における水着形状を把握できるようになるであろう。

9 参考文献

  1. ベネッセ教育情報サイト「水泳の授業が楽しみ! けれど気配りしてあげたい、こんなこと」(URL: https://benesse.jp/kyouiku/201307/20130704-1.html

  2. 未来へいこーよ「ジェンダーレス水着についてどう思う?プール授業について聞いたアンケートを紹介!」(URL: https://future.iko-yo.net/tips/24285/

10 資料

図11 自治体A~Gにおける各水着の着用者数。
図12 自治体A~Gにおける各水着の着用率。

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