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改シナリオ③『花咲く頃に』

~放送記録~

2022年3月21日放送 
文化放送「青山二丁目劇場」
≪キャスト≫
ジョー  松風雅也
マリン  井上麻里奈
アース  天希かのん

支配人  古川登志夫

~登場人物~

ジョー    30代(男)植物学者 
マリン    30代(女)科学者
アース       (女)AIコンピューター 

〇近未来の宇宙空間に浮かぶ宇宙船

  パルス信号のような電子音が聞こえる中、
  搭乗するジョーがモニターでマリンと通信している。
 
 マリン(モニター)「タキオンシンクロ率、29%」

 ジョー「クリア」

   シンクロ率が高くなり、電子音が高くなる。

 マリン(モニター)「タキオンシンクロ率。39%」

 ジョー「クリア」

 マリン(モニター)「ジョー、気分は?」 

ジョー「快適だ、狭苦しくて叫びたくなる以外は」

 マリン(モニター)「嫌味を言えるほど、余裕って感じね」

ジョー「このプロジェクトは精神分析も兼ねているんだっ
    け?」

マリン(モニター)
   「あなたはわかりやすいから、分析するまでもない」

 ジョー「さすがマリン先生」

 マリン(モニター)
   「管制室でも体のチェックをしてるけど、異常があっ
    たら言って」

 ジョー「あっ」

 マリン(モニター)「なに?」

 ジョー「アネモネに水をやるの忘れた」

 マリン(モニター)「はあ(ため息)」

 ジョー「僕にとって大事なんだ」

 マリン(モニター)「わかってる」

 ジョー「なんかやりにくいなぁ。声だけで顔が見えない
    から、うまくコミュニケーションが取れない」

 マリン(モニター)
   「動力エンジンにタキオン粒子を集中させているか
    ら無駄なエネルギーは使えないの」

 ジョー「ふーん。光の速さ以上で移動するって、大変なん
    だなあ」

 マリン(モニター)「他人ごとみたいに」

 ジョー「僕は植物しか分からない」

 マリン(モニター)「私も科学しか分からない」

   突然、警告音が鳴り響く。

 ジョー「え?」

 マリン(モニター)「シンクロ率が不安定に」

 ジョー「どうすればいい?」

 マリン(モニター)「パターンBに変更する」

 ジョー「わかった」

   マリン、タッチパネルで操作する。

 マリン(モニター)「出来ない、どうして。もうー」

   最大級の警告音が鳴る。

 ジョー「遠隔操作が出来ないならこっちで」

 マリン(モニター)「お願い」

   ジョー、タッチパネルで操作する。

 マリン(モニター)「え? シンクロ率99%?」

 ジョー「体が。あああ!(苦しい)」

 マリン(モニター)「ジョー!」

  凄まじい爆発音がする。

  
〇ジョーの部屋

  
ヒーリングBGMの野鳥の鳴き声が聞こえてくる。

マリン「ジョー、ジョー、起きて」

ジョー「ん? あぁ、来てたんだ。何時?」

 マリン「夜の11時」

 ジョー「おつかれさま。残業だったの?」

 マリン「うん、データの見直し」

 ジョー「原因はわかった?」

 マリン「ううん」

 ジョー「タキオン飛行は、やっぱり未知の世界か」

 マリン「ごめんなさい」

 ジョー「マリンが謝ることじゃないだろう」

 マリン「今日のテスト、シミュレーターじゃなかったら、
    あなたは……」

 ジョー「星になっていたか」

 マリン「そんな綺麗なものじゃない」

 ジョー「現実的だな」

 マリン「仕事だから」

 ジョー「今はプライベートの時間だ、もうやめよう、
    ご飯は?」

マリン「お腹空いてない」

ジョー「じゃあ、どこへ行こうか」

マリン「ん~」

ジョー「疲れを癒すには、ヘイ、アース」

  ジョーは、AIコンピューターに話しかける。

 アース「ハイ、なんでしょう」

 ジョー「ネイチャービューをナンバー98に変えて」

 アース「ナンバー98ですね。かしこまりました」

   壁のスクリーンに、滝が音と共に映し出される。

 マリン「わー、ダイナミック」

 ジョー「ナイアガラの滝へようこそ」

 マリン「ダウンロードしたんだ」

 ジョー「今日、発売」

マリン「スクリーンから水しぶきが飛んできそう」

 ジョー「まだまだ、ヘイ、アース」

 アース「ハイ、なんでしょう」

 ジョー「オプション、お願い」

 アース「オプションですね、かしこまりました」

    操作音の後、滝の音が大きくなる。

 マリン「あはは、ホログラムで部屋全体が滝に囲まれた」

 ジョー「当時、地球に住んでいた人もできなかった体験だ」

 マリン「フフフ」

 ジョー「でもいいなあ、地球世紀の人達はリアルに見た
    んだ、これを。世界の国から、多くの人が見に来
    たらしい。同じものをコロニーに作ったとしても、
    なんか違うんだろうね」

 マリン「たぶん」

 ジョー「自然の力は偉大だ、科学より」

 マリン「反論は出来ない。こうして、私も癒されてる」

 ジョー「なのに、なんで核兵器なんて作っちまったんだ。
    そんなもんで戦争を始める前に、この滝をみんな
    で見ろよ、自然を見ろよ、かけがえのない地球を
    見ろよ」

 マリン「もしかしたら、私達も地球で生まれていたか
    もね……」

 ジョー「アース、気分を変えたい」

アース「かしこまりました」

   馬が現れ、雄叫びをあげる。

 マリン「わっ、ビックリした。馬って大きいんだ」

 ジョー「アース。視点を乗馬モードに変えて」

 アース「かしこまりました」

   風景が流れて行く。

 ジョー「いいな、このスピード感」

 マリン「馬も走ってて、気持ちいいんだろうなあ」

 ジョー「うん。あっ」

マリン「なに?」

ジョー「もしかして。アース、二時の方向に向かって」

 アース「二時の方向ですね、かしこまりました」

 ジョー「見えてきた」

 マリン「何?」

 ジョー「向こうの山に」

 マリン「アレって」

ジョー「うん、桜だ」

 マリン「綺麗。ジョーは、あれを探しに行くのね」

 ジョー「必ず見つけて帰ってくるよ。
    そのためにプロジェクトに参加したんだ」

 マリン「タキオン飛行はしばらく延期になりそう。だから、
    今回の地球派遣は通常の出力エネルギーで地球へ行
    ってもらう」

 ジョー「わかった……マリン」

 マリン「ん?」

 ジョー「桜を手に入れたら、一緒に育てよう。
    花が咲く頃に……咲く頃に……」

 マリン「咲く頃に?」

 ジョー「お、お花見をしよう」

 マリン「楽しみにしてる」

〇宇宙船のコクピット

ジョー「こちら、ジョー。大気圏突入準備に入る」

マリン(モニター)
   「了解。上陸後はゴーグルで通信するから、
    あまりキョロキョロしないでね。私、三半規管が
    強くないの」

 ジョー「はい」

 マリン(モニター)
   「それと、出発前に渡した端末は、はめた?」

ジョー「ああ」

マリン(モニター)
   「あなたのアースにサイエンスモードをインストー
    ルしておいた。調査をサポートしてくれる」

 ジョー「フォルムはずいぶん旧タイプだな」

 マリン(モニター)「ビンテージと言って」

ジョー「腕時計式か」

マリン(モニター)
   「せっかく地球で過ごすんだし、いいんじゃない?」

 ジョー「昔の映画みたいだな。ヘイ、アース、よろしくな」

 アース「よろしく、ジョー」

 ジョー「おぉ、フレンドリーになった」

 アース「地球でひとりじゃ寂しいでしょう?」

 ジョー「あはは、頼もしい片腕だ」

 アース「マリンほどじゃないけど」

 ジョー「おい、マリン、さては都合よくプログラムしただ
    ろう」

 マリン(モニター)
   「私、そんなにヒマじゃないの。さぁ、大気圏よ」

 ジョー「誤魔化しやがった。ではでは、アース、素敵な地
    球旅行に行きますか?」

 アース「ジョー、これは仕事。気を引き締めて」

 ジョー「へえ~、もう一人マリンがいるみたい」

 マリン(モニター)「よかったじゃない」

ジョー「おっしゃる通りです」

   宇宙船は大気圏に突入する。



 〇地球 海岸

  ジョーは宇宙船ハッチから出て来て、砂浜を歩く。

 ジョー「ほー、これが自然の海か。マリン見える?」

マリン(モニター)「ええ」

ジョー「窮屈なヘルメットとスーツ脱いで、泳ぎたいなあ」

アース「ジョー」

アース「放射線量が危険レベル、絶対に脱がないで」

ジョー「見た目は綺麗なのに」

マリン(モニター)
   「うん、モニター越しにも美しさは伝わってくる。
    ジョー、しばらく海を見てて」

 ジョー「ああ」

  ジョーとマリンは、波の音に耳を傾ける。

 マリン(モニター)
   「私の両親は地球に移住できるようになったら、海
    のそばで暮らしたいと言ってた。そんな願いを込
    めて、私の名前を」

 ジョー「マリン、いい名前だ」

 マリン(モニター)
   「ありがとう。さぁ、調査を始めるわよ。ジョー、
    海洋植物を採取したら、アースにデータを読ま
    せて、こっちに送って」

 ジョー「了解。アース、ありそうなところへナビして」

 アース「わかった……南西に反応あり」

    ジョー、砂浜を歩いていく。

〇宇宙船 コクピット

 ジョー「おつかれさま」

 マリン(モニター)「おつかれさま」

 ジョー「データはちゃんと届いた?」

 マリン(モニター)「ええ」

 ジョー「思ったより、海に生息している植物は少ない」

 マリン(モニター)「そうね」

 ジョー「明日は山の方へ行くけど、
    この調子だと苦労しそうだ」

 マリン(モニター)「今日はゆっくり休んで」

 ジョー「そうする、マリンも」

 マリン(モニター)「うん」

 ジョー「帰ったら、アネモネに水を」

マリン(モニター)「わかった」

 ジョー「おやすみ」

 マリン(モニター)「おやすみ」

  通信がオフになる。

 ジョー「ふう。アース」

 アース「なに?」

 ジョー「君も休んで」

 アース「私が休む? ジョーは変わり者」

 ジョー「あはは、アースもそう思うか?」

 アース「うん」

 ジョー「マリンに初めて会った時も、同じことを言われた」

 アース「知ってる」

 ジョー「え、なんで?」

 アース「AIは、ずっと二人のそばにいる。
    当たり前じゃない」

 ジョー「なんか恥ずかしい」

 アース「いまさら?」

 ジョー「アースって、クールだな」

 アース「よく言われる。機械みたいだって」

 ジョー「はは、いいね。アースにしか言えないジョークだ」

 アース「まあね」

 ジョー「そろそろ寝よ、アース、音楽かけて」

 アース「どんな曲がいい?」

 ジョー「せっかく地球に来たから、季節を感じるものを」

 アース「わかった」

   BGM『さくらさくら』

 ジョー「あっ」

 アース「日本で古くから親しまれていた曲で、
    さくらさくら」

 ジョー「目に浮かぶよ……青い空に咲きこぼれる桜……風に
    揺れる淡いピンクの花びらの中から蜜蜂が飛んで
    いく……そんな木の下に僕とマリンがいる。その間
    には僕たちの子供が……楽しいだろうなあ」



〇宇宙船 飛行中

マリン(モニター)「どう?」

アース「この辺も見当たらない」

マリン(モニター)「ジョー、他に考えられるエリアは?」

 ジョー 「もうちょっと、西の方に行ってみるか」

 マリン(モニター)「うん」

 ジョー「アース、地形、気温、土壌の質、日当たりなどもっ
    と細かく分析して」

 アース「了解」

 ジョー「絶対に見つけてみせる」

  宇宙船は速度を上げる。

 ジョー「ない……ここも」

  飛び続ける宇宙船。

 ジョー「どこにあるんだ……(疲れてる)」

 マリン(モニター)
   「ジョー、桜は諦めて、他の植物のデータを探しま
    しょう」

 ジョー「嫌だ」

 マリン(モニター)
   「結果をだして上層部に報告しないと、私達のプロ
    ジェクトは打ち切られるの。だから、今回は」

 ジョー「桜じゃないと意味がない」

 マリン(モニター)「わがまま言わないで、ジョー!」

 アース「マリン」

 マリン(モニター)「アース、どうしたの?」

 アース「聴いて」

   蜂の羽音が聞こえてくる。

 マリン(モニター)「え?」

ジョー「蜂だ。蜂の羽音だ」

 アース「風に揺れる淡いピンクの花びらの中から蜜蜂が飛
    んでいくところ……が頭に浮かんだ」

 ジョー「あっ」

 アース「羽音の周波数を探したら引っかかった」

 ジョー「昨日の……」

 マリン(モニター)「なに?」

 ジョー「ちょっと寝る前に雑談をして、アースはそれを
    ヒントに」

 アース「探知したエリアの周辺から羽音以外に、川の音も
    あったから、桜が育つ環境かもしれない」

 ジョー「行ってみる価値はあるな」

 マリン(モニター)
   「桜がなかったとしても、他の植物はありそう」

 ジョー「決まりだ。アース、よろしく」

 アース「任せて」

   宇宙船が到着した先は、河原だった。
  ジョーがハッチから降りてくる。

ジョー「満開……だよ、マリン」

マリン(モニター)「うん」

  土の上を歩くジョー。

ジョー「これが地球の桜、清らかで麗しい」

   穏やかな電子音が鳴る。

 マリン(モニター)「なにかの間違い?」

 ジョー「いや、本物の桜だよ」

 マリン(モニター)
   「桜の話じゃないの。アース、この数値は正確?」

 アース「私は間違わない」

 マリン(モニター)
   「ジョー、ヘルメットを脱いで桜を感じて」

 ジョー「え?」

 アース「放射線量が安全なレベルで、問題ない」

 ジョー「こんなことあるんだ」

   ジョーはヘルメットを脱いで、風を感じる。

 ジョー「すーはー(深呼吸)春の匂いだ」

 マリン(モニター)
   「ジョーの顔、見えないけど想像できる」

 アース「桜の遺伝子データ、土を含めた環境データも
    収集完了」

 マリン(モニター)「アース、送って」

 アース「はい」

 ジョー「あっ、小さな苗木もある。そうだ、これを
    マリンに」

  警告音が鳴る。

 マリン(モニター)「なに?」

   唸るような地響きがする。

 ジョー「うわー」

 アース「地下のマグマが動き出した」

 マリン(モニター)「ジョー、すぐ船に戻って」

 ジョー「あぁ、苗木を回収したら」

   ジョー、地面を掘る。

 マリン(モニター)
   「何やってんの、早く。データはあるから大丈夫」

 ジョー「現物を、マリンにも見てもらいたい」

 アース「時間がない。火山が噴火する」

 ジョー「もしかして植物の精霊が怒ってんのか。
    地球から持ち出すなって」

 マリン(モニター)
   「馬鹿なこと言ってないで、船に戻ってジョー!」

 ジョー「マリン。桜を持って帰るぞ」

   ジョー、走って宇宙船に戻る。

 ジョー「ふー間に合った」

 マリン(モニター)「すぐに地球を脱出して」

 ジョー「はいよ」

  エンジン始動。

 ジョー「さっ、コロニーに向け   

  火山噴火し、宇宙船が破損する。

 ジョー「あああ」

 マリン(モニター)「ジョー」

    警告音がコクピットに鳴り響く。

 アース「第3エンジン、第4エンジン損傷。出力50%に
    ダウン。マグマ、予想より早く噴火し、安全圏へ
    の脱出不可能」

 マリン(モニター)「え? 計算し直して」

 アース「何度やっても同じ」

 マリン(モニター)「他の脱出方法は?」

 アース「ない」

 ジョー「イテテ、コックピットから投げ出されたよ。
    アース、こんな時でもクールだな」

 アース「まあね」

 ジョー「ここは人間の出番だな」

 マリン(モニター)「何をする気?」

 ジョー「タキオン飛行を試す」

 マリン(モニター)
   「嘘でしょう、テストでも成功していないのに」

ジョー「人間は挑戦するバカな生き物なの」

 アース「そうかも」

 ジョー「もうこれしかないんだ、マリン」

 マリン(モニター)
   「仮に脱出しても、まだ制御システムが不安定でど
    こに飛んで行くかわからないのよ。運よくコロニ
    ーに戻って来ても……」

 ジョー「時差で100年近く経ってるかもしれない」

 アース「その通り」

 ジョー「アネモネに水を願い」

 マリン(モニター)「いやっ」

 ジョー「送ったデータで、桜を育ててくれ」

 マリン(モニター)「私には出来ない」

 ジョー「アース、頼む。パターンBだ」

 アース「タキオンシンクロ、始動……
    タキオンシンクロ率、29%」

 ジョー「クリア」

 アース「タキオンシンクロ率。39%」

 ジョー「クリア」

 アース「シンクロ率99%」

 ジョー「マリン、一緒に花見をしたかった」

 マリン(モニター)「ジョー!」

   光と音の中に、宇宙船が消えて行く。



〇宇宙船内

  目覚ましのアラームが鳴る。 

アース「ジョー、起きて」

 ジョー「ん、ん?」

 アース「もうすぐ、コロニーに着く」

 ジョー「えっ、タキオン飛行は成功したのか」

 アース「うん、その間、ジョーには眠っててもらった」

 ジョー「どれくらい」

 アース「半年」

 ジョー「半年……? でもどうやって船をコントロールし
    たんだ?」

 アース「地球人の知恵」

 ジョー「え?」

 アース「ブーメランの原理を使った。片方だけになったエン
    ジンを利用して、船自体を回転させながらタキオン
    飛行をした」

 ジョー「なるほど」

  宇宙船を降りて、歩いていると
  蜂の羽音が聞こえてくる。

 ジョー「あっ」

  心地よい、風が吹く。 

ジョー「桜……ちゃんと育ったんだ」

 アース「コロニーの最新情報を更新した。
    桜の名前はジョーマリン。
    資料によるとマリンが育てたみたい」

 ジョー「マリン……」

 アース「ちなみに樹齢100年」

 ジョー「100年。僕の予想通り、
    タキオン飛行で時差が100年だったってことか」

 アース「その通り。現在マリンは……生体反応がない」

 ジョー「ふっ、相変わらずクールだな、アース」

 アース「よく言われる。ジョーも冷静だけど、
    ショックじゃないの?」

 ジョー「こうなることを覚悟していたし、
    いまいち実感がない」

   メールが届く。

 ジョー「えっ、メール?」

 アース「マリンからの動画メッセージ」

 ジョー「なんで? マリンは死んだはずじゃないのか?」

 アース「サーバーに残っていた。開ける?」

 ジョー「ああ」

 マリン(モニター)
   「ジョー、おかえりなさい。これを見ているという
    ことは、無事に帰ってきたようね。アース、感謝
    してる。私、いま辞表を出してきた。
    まぁ、プロジェクトが失敗して、責任を取らされ
    るのはわかってたし、これからは桜を育てていく
    つもり」

 ジョー(モノローグ)
   「それからマリンは、日付を指定した動画メールを
    定期的に送ってきた。いうならば、マリンが残し
    た日記みたいなものだ」

 マリン(モニター)
   「見て見て、やっと芽が出たよ。
    ほら、可愛いでしょう」

   メールが届く。

 マリン(モニター)
   「ちゃんとご飯食べてる? 桜みたいに成長しな
    いよ。苗木、だいぶ大きくなったでしょう。
    ジョーより優秀じゃない?」

 ジョー「好き勝手言って、まったく(笑いながら)」

  メールが届く。

 マリン(モニター)
   「メリークリスマス! 見て見て、もみの木じゃな
    くて桜の木に飾り付けしちゃった。
    豪華になったよ~あはは、やり過ぎかな?」

 ジョー(モノローグ)
   「そんなメールが届くのを楽しみながら、僕も地球
    から持ち帰った苗木をジョーマリンの横に植えて
    育てた。そして、コロニーに戻って来て2年後の
    ことだった」

   メールが届く。

 マリン(モニター)
   「ジョー今日は重要なお知らせがあるの。やっと言
    える。先ほどこのコロニーで初めて桜が咲いたこ
    とを確認しました。開花を宣言します」

 ジョー「マリン、本当にありがとう」

 マリン(モニター)
   「もうひとつ、伝えたいことがある。
    これがジョーへの最後のメッセージ」

 ジョー「え?」

 マリン(モニター)
   「桜が、ずっと私の支えだった。開花して、
    もう私の役目は終わった」

 ジョー「マリン、何言ってんだよ」

 マリン(モニター)
   「強がっていたけど、もうひとりでは生きていけ
    ない。でも、桜はジョーマリンと名付けた。
    ずっと一緒よ。さようなら」

 ジョー「マリン!(叫ぶ)」

 アース「メールは以上。送信先のアカウントも自動的にな
    くなったから、本当に最後」

 ジョー「へっ(失笑)、その言い方。
    アースは、やっぱり人間じゃなくてAIなんだな」

 アース「まあね」

  聞き慣れない電子音が鳴る。 

 アース「未確認飛行物体を確認」

 ジョー「未確認って、アースでもわからないのか?」

 アース「タキオン飛行で接近中」

   強力な風の中から飛行船が現れ、
  ハッチから人が降りてくる。

 マリン「ジョー、やっと会えたね。
    アネモネに水をあげてるよ」

    BGM『さくらさくら』

 ジョー(モノローグ)
   「地球を脱出する時、アースはタキオン飛行のデー
    タをギリギリまでマリンに送っていたのだ。その
    おかげでマリンは2年かけ再現し、僕と同じ時
    差で、アネモネの鉢植えを抱えて戻ってきた。
    確かに、科学者を辞めたとは、動画メールで一言
    も言っていなかった」

 マリン「満開ね」

 ジョー「お花見をしよう」

 マリン「あっ、可愛い苗木が」

 ジョー「それは僕が地球から持ってきた桜だ」

 マリン「わー、蕾もついてる」

 ジョー(モノローグ)
   「桜の名前は、アースと名付けた。
    そして、同じ名前の僕たちの子供と一緒に
    成長していった」

                        (終)

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