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「働き方改革」は将来世代に何をもたらすか

少し前の記事なのでそのままスルーしようかと思ったが、やはりどうしても言及することを避けて通れなかった。学生にとって「福利厚生制度が充実している」が企業選びで最も重要なポイントになっているという結果に強烈な危機感を感じるのは私だけだろうか。

マイナビ調べによると、上位3位は「福利厚生制度の充実」「社員の人間関係」「企業経営の安定性」と続く。ハーズバーグが言うところの衛生要因がずらっと並び、「達成感」「やりがい」「責任」「成長」といった動機付け要因が劣後する。

© (株)マイナビ

長い学生生活を終え、これからようやく社会人として世の中に価値貢献していく後輩たちが、福利厚生、職場の人間関係、企業の安定性といった当たり障りのない基準で会社選びをすることに対し、「時代の変化」と穏やかに割り切れない自分がいる。

当記事では、“企業が「働き方改革」に力を入れていることもあり、休日の取得しやすさなど働きやすい職場環境を重視する傾向がますます強まっている。”と示唆している。

「働き方改革」は、生産性が低く、慢性的な人手不足を余儀なくされている日本にとって必然性がある。紙面、テレビのテロップ、中吊り広告に縦横無尽に踊る「ブラック企業」「ワークライフバランス」「長時間労働」の文字は、強迫観念のように日本企業の労働環境の是正を迫っている。日本の凝り固まった労働慣習を見直すためには、それくらいの強力なエネルギーを要するということだろう。

一方で懸念されることは、これから社会へと羽ばたいていく新社会人や将来の大人たちのことである。まだ働いた経験のない若者たちに偏った労働観を与えてしまうことを憂慮する。後輩たちが働くことを苦役とし、労働からの解放を充足することを目的化するような発想を促しているのだとしたら申し訳なく思う。働くことのやりがい、成長することの楽しさ、いい仕事をした後の達成感、社会への影響力をもたらすことの面白さ、仲間たちとともに同じ目標を目指して乗り越えていく高揚感を伝えられないとしたら悔しく思う。

私が小学生高学年の頃、日本のバブルは崩壊した。中学1年生から中央線の電車通学をすることになる私は、行き帰りに遭遇する疲れきったサラリーマンの姿に否が応でも直面せざるを得なかった。毎日の車窓の景色は、十代の私たちに世の中の現実を突きつけ、社会への希望を失わせるに十分だった。

言い知れぬ不安を抱いたまま就職活動を行った私は、「どうしたら生き生きと働けるのだろうか」という命題と向き合いながら、自分の中に僅かに残っていた希望に賭けてみることにした。

厳しい環境に自ら飛び込み、試行錯誤した社会人の第一フェーズは順風満帆だったとは言えない。しかし、多くの挫折や失敗を乗り越えた先に、達成感や成長実感の先に、たしかに働く楽しみや喜びを見つけることができた。自社のミッションやビジョンが定まったときの胸の高鳴りは忘れることができないし、クライアントの夢や目標が叶ったときの充足感は何にも代えがたいし、新しいメンバーたちが入社してきたときのわくわく感はずっと変わらない。

あの車窓の光景は、責任感の強い日本人たちが厳しい国際競争の中で必死に闘い、もがき苦しんでいた姿だったのかもしれないと、後になって少しだけ理解できたように思う。

「働き方改革」は未来の社会人たちに何をもたらすだろうか。

もしかしたら10年後の電車には疲れきった大人たちの姿が消えているかもしれない。でもその代わりに、諦めや責任感のなさを感じさせるような緩んだ表情が溢れているというのも望んだ未来ではない。

「働き方改革」が本当の意味で働きがいや生きがいをもたらし、現役世代が将来に夢や希望を与えるものになるためには、もっと本質的な議論と実践が必要だと思う。

自分たちがそのような方向性や背中を示した挙句、何年かした後に、「最近の若者は……。」などと切り捨てるような身勝手なことにならないように。私もまた一隅を照らすべく、20年前の私に対し背中を押してあげられる自分で居られるように日々を大切に生きていこうと思う。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28172880V10C18A3XXA000/

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