スタンフォードならではだと思うこと①: 「なんで今ここに存在してるの?」まで初対面で掘り下げられたという話。

「あなたはこの授業を通じて、近い将来、何を達成したいですか?」

これ、いかにも「アメリカの大学」感ある質問だと思うのですが、皆様、なんの授業での質問だと思われるでしょうか。
 ・プログラミングなどのいわゆる理系向け授業?
 ・マーケティングなどのビジネススキル関係?
 ・リーダーシップ、ファシリテーションなどのいわゆるソフトスキル類?
 ・d.schoolでの分野横断・デザイン思考を活用した授業??

少しだけお考えください。

これ、「考える人」で有名なロダンの作品だそうです。大学正面の広場にあって、みんなこんな感じで自由に写真を撮ってます。笑


…正解は、「基礎統計」です。「期待値」とか、「平均の求め方」とかからスタートする、本当に基礎中の基礎の授業です。

目的を共有してから授業を始める、というのは日本の大学でも一般的ですが、統計の授業でまで、それを考える責任を学生側がナチュラルに負っているというのは珍しい(「ない」とは思いませんが)だろうなあ、と、昨秋新鮮に感じたのを覚えています。

このスタンスは徹底していて、秋学期(9-12月)の5授業全部で、「で、君は何をしたいの?」と聞かれるシーンがありました。アメリカの他大に行っている知人に聞いてみたところ、アメリカ全体が…というより、スタンフォードの特徴みたいです。

ちなみに、秋の授業はこんなラインナップでした。それぞれの中身も少しずつ書いていきたいと思います。

月 Introduction to Data Analysis and Interpretation① ←これが基礎統計。
火 Introduction to Comparative and International Education
水 Introduction to Data Analysis and Interpretation②
  Entrepreneurship and Innovation in Education Technology Seminar
木 Entrepreneurial Approaches to Education Reform
金 Applied Research Methods in ICE I: Introduction

授業の概要は全部ここで公開されています。
あまり具体的じゃないですが。笑

いっぽう、率直に言って、クラスメイトが答える内容のレベルが高い、とは必ずしも思いませんでした。自分も、「アメリカの学校におけるお金の使い方と、生徒の到達度の関係を調べたい」みたいな、うすぼんやりとしたことしか言っていません。教授も、高いレベルを求めているわけでは全然なくて、きちんと言葉にして考えておくのが大事だよね、みたいなスタンスです。

このあたりは、アメリカの文化なのか、答えやすい雰囲気を生む教授の戦略なのかわかりませんが、とにかく、質よりも、答えが存在することが第一優先という感じです。

そんな感じで、必ずしも一つ一つの授業が革命的・感動的じゃなくても、毎日のように聞かれると、
「いつでも答えられるように準備する」マインドにだんだんなっていき、
気づいたら日々の行動、考えに意味づけができるようになって、
卒業したらこんなことやってみたいな、という野望が生まれて、
さらに、過去自分がなんでこんな選択をしてきたのか分かる…!!!
みたいなのが、スタンフォードで暮らして得られるものの一つかなと思います。

このへんはなかなか言葉にしがたいんですが、

「自分で選択だと思ってなかったものが、自分の選択だったと分かる」

という感覚は、ものすごく気持ちいいものがあって、なんでしょう、超絶どんでん返しのミステリー小説を自分版で読んでるような気分です。
「ああーーーー、、、そうだったんだ!!!」
的な。伝わるでしょうか…

自分の場合、来年はアメリカの別の大学院に進みたくて、昨秋にまた出願をしていたんですが、出願時に求められる「あなたは将来、世界にどう貢献したいですか?」「今までどんな貢献をしてきましたか?」といった設問に対し、前年よりはるかに自信を持って、答えが書ける書ける。自分でも驚きました。

先ほどスタンフォードで「暮らす」と書いたとおり、スタンフォードはもはや「街」です。キャンパスの広さはモスクワ大学に次ぐ世界2位、杉並区(人口54万人)と同じくらいの広さ。銀行、警察、病院、何でも中に入っています。住所も「○○Street Stanford California」だけですし…

上空から撮った写真。下の方の、緑・オレンジの部分は全てスタンフォードです。

さて、日々の積み重ねで気づいたら変化が起こる…というのもありますし、時にはドラスティックな体験もさせられます。

スタンフォードでは、修士・博士1年目の人全員を対象に、人気の講座を1週間体験できるSGSIというコースがあるんですが、そこでの質問は相当ヘビーでした。

院の授業やオリエンテーションが始まる前に、初めて教室に入って、初対面どうし30人くらいが輪になって座り、名前も知らない状態で講師が言うわけです。

ようこそスタンフォードSGSIへ、はじめに2つ質問があります。
 ① Why are you here?
なぜスタンフォードに来て、なぜこの講座を取ったのか、教えてください。

ふむふむ、まあありがちな自己紹介だよね、と。 

2つ目。

 ② Why are you here?
なぜ今、ここでこうして存在しているのか、教えてください。
はい、じゃあ隣の人と話してみましょう。どうぞ。

それ以上の解説も、具体例も何もありません。さすがに、出身国とか学科とか関係なく、全員、は???という感じで、唖然としていました。

「ポジティブマインドセットになるための方法を、脳科学や心理学をミックスさせて学ぶ」みたいなコースだったので、ある程度自己啓発的なものは予想していたのですが、ここまで振り切った質問が来るかと、初日でめっちゃ衝撃を受けました。

その後の解説によれば、Whyをしっかり考えることで寿命が延びる…という研究があるみたいですね。まだ読んでないのですが、そのあたりは「テロメア・エフェクト」という本(邦訳されてます)に詳しく書いてあるとかなんとか。

さすがにこの問 "Why are you here?" に関しては、適宜答えて終わりというわけではなく、一週間かけて、どういうステップを踏めば本人にとって良い答えが出せるのだろう、みたいな、「質」へのこだわりもみられるプログラムになっていました。このNoteでなんで自分が存在してるのかを哲学するのは差し控えますが笑、修士・博士を問わず、大学院から初めて来る人にも、スタンフォードのマインドセットを共有しよう!という大学の姿勢が垣間見えた、印象的なイベントでした。

あとそのコースで面白かったのは、昔は、人が「充実した状態」になるためには
 Positive Emotion(前向きさ)
 Relationships(人間関係)
 Meaning(意義)
が重要だと言われてきたけれども、最近はそれに加えて、
 Accomplishments(達成)
 Engagement(熱中)
も同じくらい重要である、と言われるようになった、と。頭文字を取ってPERMAと呼んでました。これらは、Meaningとは必ずしも関係ないし、結びついている必要もない、と言うんですね。

具体例はなかなか極端だったんですが、「たとえ成績と関係がない試験でも、カンニングして問題を解くことに『充実』を人は感じる」という研究があると。これはMeaningは一切ないと本人も分かっているし、答えを写すという行為自体はつまらない(=Engageもない)けど、ただただAccomplishすることを(も)人は求めている!というような研究です。

※当然、カンニングが倫理的に正しいという話ではありません笑。少し脱線しますが、スタンフォードは、日々の宿題とかでも、人の答えを写すと相当厳しく罰せられます。「一人一人が」成長することへのこだわりは強いです。

教育学の範疇を離れるので、それ以上詳しく学んではいないのですが、なんていうんでしょう、アメリカの雰囲気も、Meaningが一番素晴らしいとされていた時代から、自分の興味関心を追求していく時代に移り変わっていったんだろうなと思っていて、そんな漠然とした世の中の流れを、個人の心理に関する研究がきちんとサポートしてるんだなと。

PERMAが世界共通の尺度なのか、ってのはもちろん議論があると思いますが、「社会貢献感があれば人間がんばれる!」「人とのつながりが全て」といった色んな意見を、一歩引いて考えるきっかけにはなるのかもな、などと思いました。

…余談ですが、こうした研究のおかげで、アメリカでファブリーズが爆発的にヒットしたそうです。当初、単なる「臭い消し」として発売したところ、あんまり売れなかったらしいんですが、別のAccomplishの研究にヒントを得て「臭いを消し、掃除の仕上げに良い香りを付加して達成感が得られるアイテム」として再度売り出したら、めちゃくちゃ売れて、世界を席巻する商品になった、とかなんとか。


脱線が増えてきたのでこのあたりで終えますが、書きながら思ったのは、スタンフォードを特徴づけるのは、
「何を学ぶか」ではなく、「どう学ぶか」
ということなのかなということですね。基礎統計の授業で習うのは、標準偏差、帰無仮説、回帰分析…みたいな、世界共通の内容ですし、PERMAだってググれば出てきます。

が、「何がしたいか、なぜここにいるのか常に問う」みたいな意義づけをするプロセスがあり、それを可能とするノウハウ(※)があるから、一つ一つの学びが印象的になり、結果、質が高くなるのかな、と。

※授業で使う資料は全部あらかじめ専用サイトに上がっていますし、基礎統計では、理論を習う+練習問題を解くためのオンラインコースも開設されていました。問題を解いてから授業に入るので、色んなディスカッションをする時間も確保できる…というイメージです。

あくまでも教育大学院の話なので、他の学部では、実際に高度なことをやっているのかもしれません。コンピューターサイエンスの学部生の人は、授業でロボットを作って戦わせた…的なことを言っていましたし。これが高度なのかどうかは、ぜひ工学系の方とお話ししてみたいですね。

以上、
 キャンパスが綺麗
 気候が良い
 優秀な教授・学生が集まる
 お金がある
といった、分かりやすい話以外で、何が特徴なのだろう?ということを書いてみました。
・海外の大学院進学をお考えの方、少しでも参考になれば「スキ」をお願いします!
・また、進学に興味がある人などに届くよう、シェアいただけるととても嬉しいです!!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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