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【コラム】飛行機を「安全」にするもの

昨夜飛び込んできたニュース。
シンガポール航空機 乱気流により緊急着陸
こちらからニュースに飛べます)

乱気流に遭遇したSQ機内の様子

非常に残念なことに、乗客のお一人が心臓発作によりお亡くなりになられ、そのほかにも重症者が多数出ているとのこと。

このニュースをご覧になった方の中には、状況は異なれど、年始早々に発生した日本航空機の衝突炎上事故を思い出した方もいらしゃるのでは。

到着前の朝食サービス時に発生したこの乱気流。
ロンドンのヒースロー空港から長時間FLTを過ごし、恐らく到着まであと2時間程度のところだったのではないでしょうか。

出発地のロンドンのヒースロー空港
目的地のシンガポールのチャンギ空港
緊急着陸をしたバンコクのスワンナプーム空港
そして、使用機材のB777-300ER

その全てが私にとっては慣れ親しんだものであり、その光景を想像すると、非常に胸が締め付けられる気持ちです。

今回の乱気流がどのようなものだったのかは分かりませんが、一言に「乱気流」と言ってもその種類は複数存在します。
最も予想がしづらいと言われているのが、「晴天乱気流(Clear Air Turbulence/CAT)」と呼ばれるものです。

眼に見える積乱雲などが無い状況(clear)で、ジェット気流によって発生する乱気流のことを意味します。
一般的にCATは、秋頃から春先にかけてに発生しやすいと言われますが、近年では異常気象の影響もあり、その目安は意味をなさなくなっています。

私はCA時代、CAの保安・緊急を専門とする訓練インストラクターを務めていました。
入社したばかりの新入社員に「客室乗務員資格」を与えるための厳しい訓練はもちろんのこと、現役CAが毎年受講しなければならない「定期緊急総合訓練」という、保安・緊急業務の技量と能力の維持が図れているかを確認する訓練を主に担当していました。

そのような訓練では、冒頭に提示したSQ機内のような状況を再現したり、年始の火災炎上などの状況をトレーニング施設で再現して訓練を行います。

CAになるための訓練の冒頭に、「航空知識」として、この「乱気流」についても学んでもらいます。
このカリキュラムで強調したいことは、
「CAとして乱気流を避ける手立てはないが、いつ何時、例えそのTurbulenceが予期されないものであっても、CAの保安業務によってお客様の負傷を防ぐことはできる」
ということです。

いくら航空技術が進化しようと、「予期されない事態」を0にすることはできません。
しかし、予期できなかったと言って、お客様・乗務員の命を犠牲にしても良いということはあり得ません。

そこで必要になるのが、
・CAの正しい知識とそのリーダーシップ
・分かりやすい説明
・お客様の理解とご協力
です。

飛行機は、最新技術を結集した機体と、パイロットによる卓越した操縦技術、整備士による確実で高度な整備技術、そのほかにも多くのスタッフによる高い技術が詰め込まれ、非常に安全な乗り物として保証されています。

しかし、それだけでは「100%の安全」とは言えず、そこには先ほど提示した3つの要素が大きな要になるのです。

緊急事態は誰もがパニックになるもの。
それでも冷静な判断と知識に基づいた行動発揮を叶えるための訓練を、乗務員たちは積んでいるので、ぜひ安心して乗務員の指示に従っていただきたいと思います。

ここで今回のニュースの状況に合わせた注意喚起をさせていただきます。
それは、どうか「シートベルトの常時着用」を徹底して下さい。

シートベルトを着用しているだけで、最悪な不幸を防ぐことが出来ます。

それは過去の事故でも証明されていて、2013年にサンフランシスコ国際空港で発生したアシアナ航空機の着陸失敗事故においても、お亡くなりになられた3名の中国人女子高生は、シートベルトの未着用がその原因の一つとして挙げられています。

《シートベルト着用が盲点になりやすいタイミング》
◾️お手洗いに行き、座席へ戻った後の着用忘れ
◾️長時間FLTにて、お休みになった後の食事サービス中
◾️ビジネスクラス/ファーストクラスなどの上位クラスにて、座席をフルフラットにしてお寛ぎになっている時
◾️エコノミークラスにて、隣席が空席時、その座席も使用して横になっている時

《注意していただきたい内容》
◾️特に一人でお座りになっているお子様のシートベルトの着用状態に注意が必要。
⇨体格が座席に対して小さく、シートベルトを着用してもそこに隙間が生じる場合、シートベルトの役目を果たせません。
隙間がある際には、(国際線においては)枕や毛布、そしてコートやジャケットなどのお召し物を丸めて、その隙間を埋めるようにして下さい。

(その対応をしないリスク2つ)
・大きな揺れに遭遇した際、お身体がシートベルトをすり抜けて宙に浮いてしまい、大怪我につながる恐れがある。
・急上昇や緊急着陸時など、下に向かって重力がかかる時、「地盤沈下」のようにお身体が沈み、シートベルトによって首が締まる恐れや、シートベルトをすり抜けて地面に強打する可能性があります。

◾️「ジェットキッズ」に代表する、お子様の機内快適グッズの使用に関して
⇨軽微なものであっても、揺れを感じたらその使用を中止して下さい。
快適グッズの上で横になっている際にもシートベルトを締めているかとは思いますが、その効果を発揮できない位置にてシートベルトを使用している場合が多く、大きく揺れた際にお子様が怪我をする可能性があります。

⇨また、できる限り、揺れが発生した際には、機内快適グッズを収納し、「浮動物」にならないように収納して下さい。
二次被害の可能性や、今回のSQ機のように、緊急着陸が決定した際に脱出の妨げになります。

このようなご理解とご協力さえあれば、大きく揺れても安全を保つことが可能です。

お客様の当たり前の安心を提供するために、日々、乗務員たちは危機感を持って訓練をし、飛行機に乗務しています。
それは入社1年目の若手CAでも、ベテランCAでも同様です。

飛行機は世界で最も安全な乗り物です。
これからも引き続き、CAやパイロットの指示に従い、安心・安全な空の旅を楽しんでくださいね!

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